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魔法学園と9刀流の剣士  作者: 藤峰男
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5:最終話:十文字死す

 俺こと十文字十一朗は現在、崖の上に立たされている。比喩ではなく、正真正銘偽りない崖の上に、だ。

 遥か下で俺を待ち構える薄暗い地面を除くと、さすがの俺も足が震えて身がすくんだ。

 

「待て、話せば分かる!」

 

 俺は俺をこの場所へ呼び出し、そして追い詰めた人物、……四宝院千悠feat.殺意な仲間たちへと呼び掛けた。

 

「この戦いが終わったらちゃんと話そうと思ってたんだ……。頼むから信じてくれ!」

 

「嘘だッ!!!」

 

 レレーナ・レレェは鋭く唸った。同時に崖の下から名前も知らない鳥が十数羽羽ばたき、薄暗い地面がより一層俺を(いざな)う。

 

「この戦いって、どの戦いかしら? 面倒事から逃げていた君が、一体何と戦っていたのか、僕はすごく興味があるな」

 

 エミーネ・フィジーコは凍えつくような笑みを浮かべると、懐から取り出した拳銃らしきものをくるくると回し(もてあそ)ぶ。

 

「十文字君。兄弟の杯よりも重い私との約束を蔑ろにするなんて、なかなか出来ることじゃないですよ」

 

 直後に擬態(モード):熊と唱えた犬咬越之進は、鋭い爪と牙、眼光で辺りの空気を肌が切り裂かれる程に緊迫させた。

 

「申し訳ありません十文字様……、いくら私の愛が強くても、この蛆虫共を私一人で止めることは出来ませんでした……。だから十文字様を殺して私も死ぬ。永遠(とわ)の愛はここから始まるのです」

 

 鎌倉伊夜栞は激しく音を立てるスタンガンを舐めながら、妖艶な表情で俺を見た。

 

「ごめん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さよなら」

 

 四宝院の言葉を合図に、5人はそれぞれの殺意を解き放つ。

 それは燃え盛る炎。

 万物を溶かす毒の銃弾。

 肉を絶つ爪と牙。

 致死の雷撃。

 そして憎しみの刃。

 

 俺は彼女たちに背を向け、走った。どす黒い闇か薄暗い闇かなら、選ぶのは当然綾鷹だ。

 そして跳んだ。もちろんこの高さではいくら十文字、いくら心身強化(ラウ・ザ・ルク)状態とはいえ、命の保証はない。

 

 だが、まだ僅かにでも可能性がある分、俺は崖から飛び降りることに全てを賭けたのだ。

 

 永遠にも思える落下の中で、俺はなぜこうなってしまったかを思い返した。

 

 

 

 

 その朝はいつもとは違うものだった。

 普段から目覚ましの類いを使用しない俺は、朝日の前に起きて夕日の後に眠る規則正しい生活を送っており、それはその朝も例外ではなく、5時をまわる前に俺は目を開いた。

 

「おはようございます、十文字様」

 

 俺は声の主に軽く返事を返す。

 紫色のロングヘアーに大きな瞳、猫のイラストがプリントされた薄ピンクのエプロンを身に付けた少女はにっこりと微笑む。

 

「ご飯にしますか? 私にしますか? それともわ・た・し?」

 

 俺は彼女の問いかけに答えず、自室を出る。向かう先は道場として改装された広い部屋だ。

 俺は聖ビーマ学園へ入学するにあたり、今年の春から親元を離れてこの辺りでも随一の高さと家賃を誇る85階建てのタワーマンションの最上階で一人暮らしを始めた。

 無論、家賃生活費その他諸々の費用は、俺の親父で師匠、そして越えるべき目標でもある十文字九十九(じゅうもんじつくも)が賄ってくれている訳だが、将来的にはその全てを返上し、十文字の総本山、十文字道場を継ぐ覚悟であり、そんじょそこいらの七光りボンボンヘッドとは違うことをここに明記しておこう。

 

 道場へ入ると俺は早速、毎朝の日課を始めた。

 道場の掃除から始まりストレッチ、素振り、そして筋力トレーニング。

 聖ビーマ学園や邪ガイモ学園に通うほとんどの生徒が魔力を用いた魔法やら精霊術の類いを使うことが出来るが、一方でその才能にあぶれ、一切の魔力を使用できない生徒も少なくない。

 俺はその少数の内一人だが、それが剣士の家系である十文字家の宿命なのだと物心がつく前に悟り、以来これらは決して欠かすことのない生活の一部となっていた。

 

 一通りの日課を終え一息をつくと、道場の扉が開かれた。

 

「お疲れ様です、十文字様」

 

 紫色の髪をした少女は、そのすらりと伸びた腕に羽毛のタオルを掛けこちらへ歩み寄る。

 俺はそれを制すると、一呼吸。

 目を閉じ、都会の外にはない道場の済んだ空気を脳に取り入れ、思考を十分に巡らせる。

 そして目を開いた。

 

「キエーーー!!!」

 

 模擬刀を振り上げ、目にも止まらぬ早さで少女に切りかかる。少女は斬撃をひらりとかわすと、慌てた様子で俺をなだめた。

 

「お、落ち着いて下さい十文字様! いくら真剣でないとはいえ、当たれば大怪我は免れません!」


「うるさいうるさいうるさい! 悪霊退散! 悪霊退散! このマンションのセキュリティは万全のはず、なぜお前がここにいる! 室町デコポン!」

 

「落ち着いてください! 私です、鎌倉伊予栞です! 十文字様の伴侶なのだから、同じ屋根の下で生活していても問題はないでしょう」

 

 俺は絶句し、思わず模擬刀を落とした。鎌倉は笑みを浮かべながら、俺との距離を詰める。

 

「こうみょうげんじょうげんいじんりき まかいきかい……! けーさつつーほーいちいちきゅー……! キエーー! キエーーー!! キエーーー!!!」

 

 限界突破した俺はもうスピードで道場を飛び出し、自室で必要なものを引ったくるようにかき集めると、そのまま窓を突き破った。

 85階建ての85階から地上へ落下すれば流石の俺も死んでしまうが、幸いこの辺りは高層マンションやビルが立ち並ぶ都市部で、俺は隣接するビルの屋上へ着地すると、それから屋上づたいに鎌倉から逃げ出し聖ビーマ学園を目指した。

 

 

 

 無事聖ビーマ学園へたどり着いたが、俺はまた深いため息をついた。性懲りもなく、俺の下駄箱にはやはり達筆な字で書かれた『果たし状』が存在感を放っていた。

 

「……このふざけた野郎で憂さ晴らしでもしてやるか」

 

 俺がそう呟いた直後、もう一枚、果たし状の陰に隠れるようにしていた封筒を発見した。 

 

「えっと、『放課後、崖の上に来てください。大事なお話があります(ハート)。』だと……?」

 

 俺は果たし状をゴミ箱にダンクした。

 

「まったく、仕方ねぇ子猫ちゃんでござるな」

 

 そして俺は自らの断頭台へ、嬉々として足を運んだのである。

 

 

 

 落下速度は加速し、遂に俺は谷底に飲まれた。しかし不幸中の幸い、地面への激突の前に木々を経由したお陰で、落下速度は低下し即死は免れたらしい。

 だがどうにも体がピクリとも動かず、痛みさえ感じない。流れ出す血液がヌルリと服を濡らす。俺の薄れ行く意識の中で、あまりにも短すぎる高校生活、後悔の多すぎる人生が走馬灯のように流れ始めた。

 

 親父を越えることは出来なかったな……。

 金、返せなかったな……。

 道場を継ぐ夢、果たせなかったな……。

 邪ガイモ学園から妹を取り返せなかったな……。

 お袋の名前、三四(みよ)なのか三四(さよ)なのか分からないままだったな……。

 そもそも妹の顔も名前も知らねぇな……。

 柿番が彼女持ちだって知ったとき、ぶん殴ればよかったナ……。

 人工知能TYPE:βが元人間だと打ち明けたときの雰囲気、やばかったな……。

 彼女の一人も出来なかったな……。

 マンションから飛び降りたとき、足めっちゃ痛かったな……。

 ガスの元栓、閉めたっけな……。

 

 俺は立ち上がろうと腕に力を込める。しかし当然指先さえ動くことはなく、レナが放ったであろう無慈悲な追撃が森を燃やし、俺を襲った。

 

 ♪悲しみの向こうへと辿り着けるなら~

 ※JASRAC申請中

 

 やがて視界も暗く、何も聞こえなくなり、俺は目を閉じた。

 生まれ変わることが出来たなら、俺はまた十文字家に生まれたい……。

 そして剣の素晴らしさを、剣士の誇りを、後世に……。

 

 それから俺の体は炎に包まれ、俺は静かに息を引き取った―――。

 

 

 

 魔法学園と9刀流の剣士 完

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