表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園と9刀流の剣士  作者: 藤峰男
3/11

3.決戦、理科準備室前

 模擬戦から一夜明け、勝利へと酔いしれたままのオレは意気揚々と教室へ入ったが、クラスメイトたちの視線は何とも鋭いものだった。

 

 訳も分からず席につくと、隣の席で女子生徒と話す四宝院がこちらへ向き直り、悲しそうな表情を浮かべた。

 

「十文字君、昨日のあれはあんまりだよ……」

 

 オレはやはり四宝院の表情の意図が読めず、彼女に問いかけた。

 

 

「あれって何だよ……ッ。オレは正々堂々野良犬(いぬがみ)との勝負に挑み、真っ当な勝利を得ただけだろうが……ッ!」

 

「その後、どうして犬咬君を2回も殴る必要があったの? そのせいで犬咬君は倒れちゃって、先生に保健室に連れていかれて……。今日もまだ学校に来てないみたいだし……」

 

「ふん、何だそのことか。いいか? オレは十文字家の家訓『やられた分はそれ以上にしてやり返せ』を守っただけだ。オレとしてはもう5発はいけたが、2発で許してやったのだからむしろ感謝されるべきだろう」

 

 確かにオレは昨日、勝敗が決した後、LOSERの文字が浮かぶ犬咬へ2度、拳を加えた。

 犬咬はこめかみと顎とを打ち抜かれて、すっかりのびてしまい、「教室へ戻って自習していろ」と言い残した有栖川先生に連れられて保健室へと移動した。

 

「それのどこがあんまりだって?」

 

「……ごめん、正直失望したよ」

 

 四宝院は表情を陰らせると、物憂げな瞳でそう呟いた。

 

「……そうか、結局はお前も有象無象に過ぎないということだな。オレの方こそ、お前にはがっかりだよ、四宝院」

 

 オレと四宝院との陰鬱な空気を切り裂くように、教室のドアが開かれ、有栖川先生は間の伸びた声をあげた。

 

「おい委員長共。理科準備室へ教材を取りに行ってくれ。段ボールに明記してあるからすぐ分かる」

 

 オレと四宝院は視線を合わせた。オレはやれやれと首を振ると、一人立ち上がる。

 

「オレ一人で十分です。……お前はそこで自分の無力さに震えていろ」

 

「なっ……」

 

 四宝院は顔をしかめてオレを睨むが、オレはそれを無視して足早に教室を出た。

 

 教室を出るとちょうど柿番の姿が見え、気味の悪いことに柿番もこちらを見つけるなり、パタパタと駆け寄ってきた。

 

「おはよう十文字クン。昨日は凄かったネ」

 

「凄かったって、オレがムキになって戦う姿がか?」

 

「ふふ、あれがキミの全てだとは思っていないヨ。刀を抜かなければ最強の盾、刀を抜けば最強の矛……。ではキミが全ての刀を抜けば、いったいどうなるのかナ?」

 

 まるで蛇のように、柿番は目を細めて笑った。

 

「さぁな。そこまで抜いたことはないから分からないな」

 

「ならボクは、キミの初めてになりたいナ」

 

 思わず鳥肌が走り、オレは尻の穴をキュッと締めた。今後柿番は要注意人物としてマークしておこうとそう決めた。

 

「それより、その様子からして、有栖川先生のお説教はなかったみたいだネ」

 

「資料を渡されて、校則を読まされただけだ。有栖川先生はオレが読み終わるまで部屋の隅で寝てた」

 

 放課後になると、有栖川先生はオレを職員室へ呼び出した。これで言われもない説教を受けていたらそれはすなわち聖ビーマ学園と十文字家の戦争を意味していたが、有栖川先生の口からそのような言葉が出ることはなかった。

 

 ちなみに、ドーム内の魔法は4段階に別れており、一段階目で勝敗の決定、そこから一定以上のダメージが累積すると気絶、それ以上に攻撃を続けようとすると『警告』、攻撃を続けるとドーム内の魔力濃度が高まり、ドーム内の人間は一瞬にして眠ってしまうらしい。

 校則の記された分厚い書類を適当に捲っているとき、偶然見つけた。

 

「へぇ、それはいいことを聞いたナ」

 

 どうやら柿番には知られてはならなかったようだが、オレは先を急いだ。

 

  

 

 

 

「理科準備室……、ここか」

 

 オレが力を入れると、準備室のドアは抵抗なく開いた。

 

「まったく、鍵ぐらいしておくべきだろう。不用心な」

 

 そうして目当ての段ボールを見つけ、オレは準備室内へ足を踏み入れた。

 

「な、な、な、何をしてるのよ……。あんた、わ、私の着替えを……」

 

 オレは声のする方に目を向ける。

 そこには赤い髪の女子生徒がいた。近くに置かれた通学バッグの色から、オレと同じ新入生らしい。

 上下お揃いの、薄いピンク色の下着のみを身に付けており、今まさにカッターシャツへ袖を通そう、というところだったが、それを中断すると露になった胸元を隠すように腕を組ませた。

 

「すまない、気が付かなかった」

 

「き、気が付かなかったですって……?」

 

 女子生徒は蒼い瞳に涙を浮かべ、頬を朱に染める。

 

「……ふふふ、いいわ。取り合えず着替えるから後ろを向きなさい。話はそれからよ」

 

「断る。お前が後ろを向けばいいだろう、この露出狂め」

 

「なんですって……?」

 

 今度は怒りの表情で、女子生徒はオレに鋭い視線を向ける。

 

「安心しろ、オレはお前に欲情したりはしない。オレが好むのは大和撫子のように淑やかで清楚な日本女子のみだ。……そこの段ボールを取ったらすぐに出ていく。これ以上オレの手を煩わせるな、露出狂」

 

 そして有言実行。

 オレは女子生徒の刺すような視線をものともせず、段ボールを抱え、背を向けた。

 

「……待ちなさい」

 

 オレは歩を進める。

 

「……そう。そっか……。……『炎々(えんえん)の魔女』と称されるこのリリーナ・リリィをこけにして、ただで済むと思うなぁーーーっ!!」

 

 瞬間、背後にとてつもない熱気を感じ、オレはドアの裏側へと転がり込んだ。それから1秒の間もなく、理科準備室の開かれた空間から燃え盛る炎が吹き出す。

 突き当たりの廊下は一面火の海へと化し、けたたましい非常ベルの音と共にスプリンクラーが作動した。

 

「へぇ、今のを避けるとはね。あなたなかなかやるじゃない」

 

「やれやれ、とんだじゃじゃ馬娘でござるな」

 

 オレは立ち上がると、もうもうと立ち込める黒煙の中から女子生徒、リリリなんとかを捉えた。

 

 両手には炎を宿し、リリリは燃えるような赤い瞳でオレをまっすぐ見据えていた。

 

「……ここじゃすぐに邪魔が入るわね。闘技場へ行きましょう」

 

 そう言い、リリリは燃え盛る手のひらを合わせる。するとどうだろう。彼女の足元に直径1メートルほどの魔方陣が現れ、リリリは吸い込まれるように、一瞬にして姿を消した。

 

「なっ、空間移動魔法か……。オレには使えん」

 

 それから徒歩で移動しようとも思わず、非常ベルに寄せられた教員の群れをかわすことも出来ず、気が付けば放課後だった。

 

 よし、帰るか。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ