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魔法学園と9刀流の剣士  作者: 藤峰男
2/11

2.十文字死す

 生徒同士の殺し合い……ではなく模擬戦を観戦しつつ、オレはこのドーム内に施されているという魔法について探った。

 要するにドーム外との相違点を見つければいいわけだが、まず明らかに違うポイントが2つ。

 

 いくら肌を切られ、殴られ、焼かれたとしても、石畳上に血は流れないし痛々しい傷が出来上がることもない。皮膚が焦がれることももちろんない。

 そして一定以上のダメージが累積すると、やがて派手なフラッシュと共に片方にはLOSER、もう片方にはWINERの文字が頭の上に表示される。

 

 始めの内こそクラスメイトを傷つけないよう、どこか探り合うように加減して模擬戦に望んでいた生徒達も、ドームの構造に気付き始めてからは互いが互いに、あるいは観戦しているクラスメイトや有栖川先生にアピールするように、持てる力を出して応戦を始めた。

 

「お前、気付いたな」

 

 空席を一つ挟んで、さっきまで眠っていたはずの有栖川先生はオレに問いかけた。

 

「あぁ。このドームにはもう一つ、よく観察していないと分からない細工が施されている」

 

 それは、5メートルほどの壁に囲まれた石畳の『バトルゾーン』と、バトルゾーンを囲う『観戦席』とが完全に隔離された別空間であるということ。

 

「もちろん広範囲に及ぶ魔法や、観戦席側から石でも投げ込んでみれば一目瞭然だがな。結界とはまた違う、もっと高レベルな魔法だ。違うか?」

 

「お前、目上の者には敬語を使うと教えられなかったのか? 次にそんななめた口を利いたら、9つに裂いて退学処分だ」

 

「すみません」

 

 有栖川先生からそれ以上の言及もなく、オレはオレの目測が是であると判断した。

 

「へぇ。キミも気がついていたのかい。やっぱりキミ、面白いネ」

 

 ぬっと現れた柿番はそう言うと不気味に笑った。

 

「……気配を感じなかったんだ。あんなに近くで2人が魔法を使っているのに、目を逸らした瞬間見失いそうなぐらいな」

 

「さすがは剣士、といったところかナ」

 

「ふん。他にもモニター車イスにあそこのフードを目深に被った見るからに不審な男、それから明治とかいう虫が好かない野郎も気付いているみたいだな」

 

 特に気になるのはフードの男だ。わずかに除く部位はどこかで見たことのあるような風貌だが、どうにも思い出せない。

 

「もっとよく観察する必要があるな」

 

 オレはなるだけ柿番と親しくしたくないので、それっぽいことを言うと立ち上がり、ここから正反対の席へと移動した。

 ドーム内の広さたるや、歩いているうちに1つの組み合わせが決してしまったが、正直有象無象のちゃんばらごっこに興味はない。

 

 それからしばらく模擬戦は滞りなくく進行したが、柿番とモニター、フードの男はまるで手の内を隠すように、実に怠けた動きで適当な勝者をでっち上げていた。

 明治とかいう金持ちのぼんぼんはあからさまに手を抜くと、「ふっ、君のようなプリティガールと手合わせを出来て、僕はそれだけで勝者も同然さ」と胃液が込み上げてくるようなくさい台詞と共に、僅差での敗北を演じていた。

 

 だが明治の、ひいてはモニター車イスや柿番の行動は、非常に利にかなっている。こんな成績にも、学園総順位にも影響を与えないたかだか模擬戦で、熱くなって己の全てを解き放つなど、後先考えない馬鹿か、自身に相当の自信を持つ自信過剰な馬鹿のすることだ。

 

 そしてとうとう残るペアはオレと犬咬のみとなり、遠くの席で犬咬は立ち上がると、吠えるように声を荒げた。

 

「おいエセ侍! まさか出番を前にブルってねぇよな!? 安心しろよ、てめぇが緊張のあまりぶっ倒れる前に、オレがぶっ倒してやるからよ!!」

 

 オレは立ち上がると、固く決意した。

 

 ―――オレの持てる力の全てで、ボッコボコにしてやる。

 

 いつ如何なる時でも手を抜かない。それがオレの忍道なのである。

 

 

 

 

 

「先に言っとくが、俺はてめぇに剣を抜く暇も与えねぇ。9刀流の継承者だかなんだか知らねぇけど、今の内に全部出しといたが身のためだぜ?」

 

 石畳の上に下りるなり、犬咬はオレに指を突きつけた。

 

「心配するな。オレには悪魔の右腕(ブラソ・デレチャ・デル・ディアブロ)がある」

 

「……ふざけてられんのも今のうちだぜ」

 

 有栖川先生の合図と共に、犬咬はオレとの間合いを一瞬で詰め飛びかかる。

 

「一撃で眠らせてやるぜ!」

 

 勢いの乗った拳がオレの顔面に炸裂する。オレは衝撃に数メートル後方へと吹き飛ばされた。

 

「ははっ。口ほどにもねぇな。十文字流はその程度かよ」


 土煙の立ち込めるなか、オレはゆっくりと立ち上がった。

 

「逆に聞こう。お前の力はその程度か?」

 

「質問を質問で返すなあーっ!! 俺が『その程度か』と聞いているんだッ!」

 

 そう言うと、犬咬は手を石畳に、四つん這いの格好でオレを睨んだ。

 

擬態(フォルム)! モードチーター!!」

 

 今度は先程の比ではない。目で捉えられない早さでオレの回りをぐるぐると駆けた。

 

「へへっ、どうした? てめぇが何もしねえなら、次の攻撃で決めてやるぞ」

 

「やれやれ、血気盛んな野良犬だな」

 

 瞬間、犬咬の動きが止まった。否、オレの体が吹き飛ばされたのだ。勢いそのままに壁に激突する。

 

「へっ、ざまぁみやがれ。この俺をなめた罰ベルゴッ!」

 

 今度は犬咬が盛大に吹き飛ばされた。壁に激突した犬咬は立ち上がると、周囲を見回し困惑する。

 そこに倒れたオレはおらず、しかし確かに壁には2つの亀裂が走っているからだ。

 

「さっきからお前は誰と話しているんだ?」

 

 犬咬はようやく、声のする方向、犬咬がついさっきまで立っていた場所で、オレを見つけた。そしてオレの後方を睨み付ける。

 

「てめぇ、そいつら何なんだよ!?」

 

 そこには9つの甲冑。腰に提げた刀が仰々しい存在感を放っており、装着者がないにも関わらず、しっかりと自立していた。

 

「こいつらを呼ぶのに少し手間取ってな。まぁそれでも、『十文字流無ノ太刀:心身増強(ラウ・ザ・ルク)』でことは足りていたがな」

 

 オレは肩を回すモーションでダメージの無さをアピールすると、1体の甲冑の腰から刀を抜き取る。 

 

「擬態! モードゴリラ!!」

 

 犬咬の筋肉が肥大し、その体は2倍ほどに膨れ上がる。

 

「いいだろう。俺も本気でてめぇをぶっ殺したくなったぜ」

 

 無造作に石畳を殴り付けると、まるで薄いガラス板のようにひび割れ瓦礫となった。

 さすがにあの筋力からなる一撃は、ひとたまりもないだろう。


「刀を抜いた以上、心身増強(ラウ・ザ・ルク)の恩恵はなくなる。……歯を食いしばれよ、野良犬(いぬがみ)―――。わりぃが、こっから先は一方通行だ!」

 

 両者同時に詰め寄る。ゴリラが凄まじい速度で投擲した瓦礫を斬り捨てると、オレは高く飛び上がった。

 

「十文字流壱ノ太刀:雷遁龍槌一閃(らいとんりゅうついいっせん)!!」

 

 どーん。

 

 犬咬は死んだ。

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