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魔法学園と9刀流の剣士  作者: 藤峰男
1/11

1:右腕の悪魔(ブラソ・デレチャ・デル・ディアブロ)

 日本国某所。

 魔法を学び武を極める『聖ビークランダーマウサス学園』は天高くそびえ立っていた。

 全寮制につき敷地面積は東京ドームn個分の広さを誇り、スターバックスからコメダ、ブルーボトルまでありとあらゆる施設が入るその姿はまさしく一つの国家と言えよう。

 

「ここが……、ビーマ学園……っ」


 平安神宮の鳥居のごとく存在感を放つ校門の前で、一人。さながら侍のように髪を纏めるのは、オレこと十文字十一朗(じゅうもんじといちろう)である。

 かつて宮本武蔵と佐々木小次郎との壮絶な三竦みを繰り広げたという大剣豪、十文字才蔵の子孫であり、十文字道場の跡取りで剣の才において右に出るものはいない。

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、加えて右腕に悪魔を宿していたり、左手のひらに万物を吸い込む風穴が空いていたり、壮絶な過去を背負いオレの知らないオレを飼い前世で世界を救った勇者で世界中から命を狙われている普通の高校生だ。

 魔法の腕もさることながら、十文字流の極意である『九蓮宝燈(チューレンポウトウ)』を5才の頃にマスターしており、9つの刀を自由自在に操るその姿から、中学の頃は畏怖と敬意を込めて『オルトロス亜種』と呼ばれていた。


「さて、オレの高校生活の始まりだ……ぜ!」

 

 校門を越えるかと思うほどに高く上げた右足をDON! と鳴らせると、オレは敷地内への一歩を踏み出した。

 

 この一歩は小さなもので、しかし『聖ビークランダーマウサス学園』の歴史に壮大な爪痕を残す巨大な一歩になることを、オレはまだ知らない―――。

 


 

 

 

 

「…………最後に皆さんの高校生活が華やぐよう祈って、学園長の言葉とさせていただきます」

 

 なんやかんやあって入学式も終わり、新入生はまばらに立ち上がる。クラスの振り分けは既に成されており、教室へたどり着いたときにはオレ含む空席の数は片手程度だった。

 

「ふん、どいつとこいつも馴れ合いやがって。これからこいつら全員学園トップの座を争う敵になるってのにな」

 

「全く同感だネ。みんな危機感が足りないヨ。入学生が一同に介する機会なんてそうそうないのに、混雑を避けようと一刻も早く式場をあとにしてサ」

 

 同じく遅れて登場した男子生徒は、長い前髪をさっと払うと不適に笑んだ。

 まさかトイレが見つけられずにさ迷っていた、なんて言えるはずもなく、オレも負けじと底知れぬオーラを放つ。

 

「お前は中々ホネがありそうだ……。竹馬の御劔(みつるぎ)にめんこスナイパー豪炎寺。猪鹿蝶ヶ峰(ちょうがみね)の姿もあったな」

 

「ふふ……。一族殺しの毒島(ぶすじま)、切り裂きワンダクーに人工知能TYPE:β……。特級指名手配犯のA田A太も忘れないで。この学園は退屈しなさそうだネ」

 

 全員知らないが、オレはふん、と鼻を鳴らすと、自分の席へと足を進めた。

 

「オレは十文字道場の跡取りで十文字九刀流の継承者。オレにとってこの学園はただの暇潰しさ……」

 

「ボクは柊。柿番柊(かきつがいひいらぎ)サ。……キミって面白いね。気に入ったよ、仲良くしてくれると嬉しいナ」

 

 そう言うと、柿番も空席から自身の席を外す。あまり仲良くなれそうにないので、まぁまぁ遠くの席でよかった。

 

 遅れて入ってきた生徒の中には厳つい車イスに乗って、頭がモニターになってるやつもいたが、見ないふりをした。

 

 やがて全ての席が埋まると、タイミングを見計らうように教員らしき女性が教室の扉を開いた。

 

「一年間このクラスの担任を受け持つことになった有栖川だ。それでは最初の朝礼を始める……がその前に、お前たちにはまず委員長を選出してもらおう。男女一名ずつ、立候補する者はいるか?」

 

 クラスにわずかな沈黙が流れる。しかしそれもすぐに終わりを見せ、窓際後方に座するオレの右隣の女子生徒が柔らかな声と共に手を上げた。

 

「あの、私やります」

 

「そうか、では立って、自己紹介を」

 

 有栖川先生に促され、女子生徒はガタリと立ち上がる。オレはしばらく彼女から目が話せなかった。

 何故なら彼女が、とても可憐で麗らかだったからだ。

 

「はい。四宝院千悠(しほういんちゆう)です。えっと、クラス委員長として皆さんをまとめられるよう頑張ります。よろしく」

 

 最後に満開の花のような儚げで華々しい笑顔を見せると、四宝院は椅子に腰を下ろした。クラスメイトたちの拍手の中、気がつくとオレの手は天井に発生したマイクロブラックホールに吸い込まれるように、高く突き上げっていた。

 

「よし、そこのお前、自己紹介を」

 

「……十文字十一朗だ。十文字道場の跡取りで、十文字九刀流の継承者。趣味は鍛練で好物は特にない。嫌いな言葉は敗北、だが敗北から得られることは多く、オレの好物でもある。オレはただの人間に興味がない。この中にオレに勝てるやつ、挑みたいやつ、宮本武蔵の子孫、魔尊武卑論者がいたらオレのところに来い。以上」


 四宝院含む7割の生徒を呆気にとらせ、2割の生徒が失笑し、残る1割の生徒からを楚蟹を買ったオレの自己紹介はオレの中では上々の出来で、唯一無表情の有栖川先生の咳払いのあと、オレは腰を下ろした。

 

「あー、まぁ、これから仲良くするように。それではこれより授業を始める。しかし私はお前たちの実力を知らない。性格を知らない。名前なんてもっての他だ。そこでまずは自己紹介を兼ねて模擬戦を行うことにしよう。すぐに演習場へ移動するように」

 

 そう言うと、有栖川先生は気だるそうに教室から出ていった。


「ねぇ、あの自己紹介、どこまで本気だったの?」

 

 クラスメイトの動きを探る為に敢えて出遅れたオレへの、恐らく同じ目的をした四宝院の問いかけである。

 

「……四宝院千悠とかいったな。お前は魔尊武卑論者か?」

 

「私は魔法も武道も両方同じくらい大切だと思ってるよ」

 

「いい考えだ。お前はオレの望む人材ではないが、その心意気に免じてオレとの会話を許可しよう」

 

 はは、と四宝院は笑顔を見せると、照れ隠しのように小走りで先を急いだ。

 

「……十文字家を狙う組織の回し者かとも思ったが。しかし油断は禁物だな」

 

 今は亡き父が病床の淵でオレに伝えた言葉だ。曰く、高揚を感じる異性が現れた時は、身の危険を疑え―――。

 

 演習場へ向かう途中空飛ぶ車イスを目撃したが、見ないふりをした。

 

 

 

 数万人の客を収容できるほどに大きく、一面に石畳が敷き詰められたドーム型の演習場は、広大な学園の敷地内でも一際存在感を放っていたが、中に入ると尚更大きく感じた。

 ざわつく生徒達を静めた有栖川先生はやはり気だるそうに懐から取り出したタバコに火を着けると、オヤジくさい声と共に席へ座る。

 

「んじゃ、説明。ここ、演習場。お前たち、模擬戦、やる。組み合わせ、勝手に決めろ」

 

 確かオークなる空想上の生物がそんな話し方をした。あながちそれらの存在は空想ではないのだろうと有栖川先生をマークしつつ、オレはクラスメイトたちの動向を探った。

 

「ユーキ、俺とやろーぜ」

「ったく、しょーがねーな」

 

「じゃあ私はアカネと」

「えー、ミホちゃん手加減してよ……?」

 

「そこの君。小生と一戦、どうだね?」

「受けて立つでありんす! わてちゃんの妙技に見惚れるっすでありんす!」

 

 などなど、各々が適当にわちゃわちゃと模擬戦の相手を探すなか、不気味な笑みを浮かべて変なやつが動いた。

 

「……ボクはキミがいいナ」

 

 長髪をはらりと靡かせ、柿番は長い指でオレ……の右後ろを指す。反射的に指の方向へ振り返ると、またも変なやつ。

 

『いいよ。受けてたとう』

 

 明らかに機関銃やら隠し刀やら仕込んでありそうな車イスと、スーツに身を包んだ利用者。

 首から上はモニターになっており、青白く光るそれが(^ー^)の後に文字を写し出した。

 

「ふん、このクラスには奇人しかいないのか」

 

 残る人数も着々と減っていく。

 オレは依然として組み手の見つからない四宝院へ救いの手を差し伸べてやろうと足を踏み出す―――。

 

「おっとすまない。足が引っ掛かったみたいだ」

 

 戦前から来る油断のせいか、オレは見事にスッ転んだ。わざとらしく肩を竦める金髪の少年は、ことの発端となった足を引こうともせずに笑った。

 

「でもおかしいなぁ。十文字道場の跡取りなら今の事故程度、華麗に避けブフェッ!」

 

 今度は金髪が、冷たいコンクリートの上をゴロゴロと転がる。頬を擦りながら立ち上がると、剣幕険しくオレに詰め寄った。

 

「てめぇ! 何いきなり殴りかかってんだ! パパにもぶたガコッ!」

 

 握りしめられた拳、一切無駄のないフォームはまさしく流動美を表現していて、美術館での一日でも早い展示が望まれる。

 

「うるさい。一発は一発だ」

 

 十文字の名を怪我されたオレの無慈悲な鉄拳が、金髪の逆頬をまた抉った。 

 

「……おもしれぇ。俺の相手はてめぇだ! エセ侍! この犬咬越之進(いぬがみえつのしん)をコケにして、楽しい学園生活が送れると思うなよ!?」

 

 

 「四宝院クン。組む相手がいないのなら僕と組もう。明治財閥の御曹司である僕とね」

 

  「う、うん。いいよ」

 

 

「てめーはオレを怒らせた……」

 

 かくして20組のカードが出揃うと、長く育った灰を絶妙にキープしながら微睡む有栖川先生は大きくあくびをした。

 

「んじゃ、そこのお前。ペアと下に下りろ。このドーム内には特殊な魔法が施されている。痛みはあるが死にはしない。一度やりゃあ分かるから他のやつは黙って見てな」

 

 そして居眠り。

 指名された生徒はもう片方を呼ぶと、仲睦まじげに肩を並べて歩き出す。

 

 彼らは知らないのだ―――。これは模擬戦であっても遊びじゃない。

 

 命を賭けたデスゲームの幕は今、静かに切って落とされた―――。

 

 

 

 Majic School Online 第一部 完

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