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月下狂人  作者: クラン
8/8

エピローグ ~夏の終わりに~

 夏休みが終わる頃、彼女が死んだ。


 事故死だと聞いた。あの子(・・・)が死んだ場所で、乗用車に()ねられたらしい。僕がその(しら)せを受けたのは自宅の薄暗い居間だった。残暑がまだ厳しく続いていた日の事である。

 訃報を聞いた瞬間に、耳がすっと遠くなったように感じた。

 蝉の声だけがやたら五月蝿(うるさ)く響いていた。




 花祭壇の彼女は、ささやかな微笑みを見せていた。儚くはあったが、あの数日間、僕が一度も見た事のない本物の笑顔だった。おそらく壬生(みぶ)も、それを初めて見た(はず)だ。


 斎場(さいじょう)で壬生に会ったが、僕たちはお互いに一言も言葉を交わさなかった。気まずかったわけでも、互いを憎んだわけでもない筈だ。少なくとも僕は、壬生を憎む気にはなれなかった。


 坊主の読経が始まった。

 暫くして、三つ隣に座った壬生に視線を向ける。


 壬生は泣いていた。声も出さず、瞬きひとつせず、滂沱(ぼうだ)の涙を流していた。ただ溢れるがままに任せている。そんな印象だった。そこには快活で軽妙で、ちょっぴり軽薄な真昼の壬生はいなかった。嫌味っぽく、演技じみた(なま)めかしさの、夜の壬生でもない。

 普段とは違う別の壬生が、まるで毒を洗い流すようにひたすらに涙を流していたのだ。


 それが真実の涙なのかは分からない。ただ、説得力はあった。


 彼女の死には、少なからず壬生と僕の因果(いんが)がある。壬生は今、ちゃんと後悔しているのだろうか。そうして僕は、どうだろう。


 目を(つむ)ると、彼女の姿が暗がりに浮かぶ。そこには夜と贖罪(しょくざい)慟哭(どうこく)が確かに存在していた。


 僕は正面に向き直る。


 ぼんやりと(にじ)む視界に、彼女の遺影が溶けていった。




 了

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