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入れ替わり魔導師の虚言癖  作者: ACS
アカデミー入試編
5/86

さようなら日本、こんにちは異世界 5

 


  ––––冒険者ギルド、平たく言えば何でも屋の集会場のような場所で、護衛・討伐・採取など金さえ払えば犯罪でない限り何でも引き受けてくれる。


 

  あの日から一週間を魔法の訓練に当て、落ち着いて描けば取り敢えずは魔法が発動出来る様になった。


  なので僕は今回依頼主として、事前に旅人から聞いておいた採取地への行き帰りの護衛と、その道中で近接戦の指導をギルドに依頼した。



  受付の人によるとこの内容だと相場は中・小の金貨一枚づつ、あまり報酬を渋るのは自分の首を絞める結果になると一応忠告されたので、僕は念を入れて相場の金額に前金として小金貨三枚を追加して依頼が受注されるのを待った。



  依頼内容が書かれた羊皮紙が掲示板に張り出されたのを横目で見ながら、待ち時間の間に他の依頼を興味本位で覗いていた。


  『グランドビーストの討伐––受注資格ランクA以上』


  『スカルスコーピオンの尻尾が欲しい!!––受注資格ランクB以上』



  受注資格、と言う物が多分そのまま冒険者の強さを表してるんだろう、それとなくギルドの職員に聞いて見たら案の定だった。


  ただ、単に強ければ上位に食い込める訳じゃ無いらしく、例え単騎で竜を墜とす様な冒険者だったとしても人格や評判が悪ければ高ランクへは上がれないのだとか、何と無くガラが悪いイメージを持っていたから少し意外だ。

 


  そんな僕の様子に気が付いたのか、職員の人は苦笑いしながらも『二十年くらい前まではそんな人も居たけどね、高圧的な態度をする人が居ると本当に困ってる人が怖がって依頼を出せないもんだから、その頃から意識改革が始まったんだよ』と答えてくれた。


  まぁ確かに、山賊崩れみたいな輩やらがたむろしてる場所に『薬草調べたいから護衛して下さい』とか『迷子の飼い犬を探して下さい』みたいな依頼は精神的に出しにくいよねぇ、少なくても僕なら絶対萎縮して依頼出来ない。



  そんなことを考えてたら僕の依頼が受注されたらしく、冒険者らしき男性が此方へと歩いて来た。

 

  歳は二十代半ばくらいかな? 腰の左に帯剣し、左指には発動媒体用の指輪が嵌められてるから、彼も魔法が使えるらしい。


  歩き方も背筋が伸びて素人目に見ても綺麗な動きだと分かる、僕の依頼はDランク以上の依頼だったはずだからてっきり駆け出しが来る物かと思っていたので、こんなまともな人が来るとは思わなかった。



  「貴方が依頼主様ですね? 私は『薔薇』の

 シリーと申します、どうぞお見知り置きを」


 

  そう言って、彼はバラをマントの下から取り出すと、口に咥えてポーズまで決めた。

 

  ––––訂正、この人残念な人だ。



  服装も赤を基調とした派手なもので、自称なのか分からない薔薇の異名の通りにその刺繍が施されている。


  チェンジをしようにも特に彼は何もしていないので無理、そもそもどんな人物が良いとかの指定をしなかった僕の落ち度だし、人を見た目で判断するのは良くない。



  「よろしく、シリーさん」

 

 

  だから僕は顔を引きつらせない様に笑顔を貼り付けながら彼と握手する。


  握手された本人は僕の反応が友好的な物だったからか、嬉しそうに手を握り返してくれた。


  その時に握った手の平は僕と比べ物にならないくらい硬く、剣だこも出来ている事が分かった。


  ……やっぱ見た目によらないのかな?



  そんな思いを押し殺しながら目的地を伝えると、片道三日の道のりになると言う。


  往復で六日、薬草の調査は時間を掛けて調べたいので数日滞在するとして、二週間以内には帰ってこれる予定だ、何事もなければだけど。



  ––––街を出発して三時間ほど経ち、僕らは昼食を食べる為に休憩をしていた。

 

  何かの肉をベーコンにした物を焼いて、バケットへチーズと一緒に挟んだ物を作っていると、世間話の中で彼もアカデミーの卒業生だと言う事を知った。



  「いやぁ懐かしいですねぇ、そうですかアカデミーの入試を受けるんですか、もしかしたら後輩になるのかも知れませんねぇ」



  話を聞くと彼は第二科出身らしく、卒業後は推薦状を持って冒険者ギルドへと身を寄せたと言う。


  彼はしみじみと昔を懐かしむような口ぶりでそんな話をしてたけど、食事を終えると話を切り上げて近接戦の訓練に入る事になった。


  ただ、彼も特定の師に教えて貰った訳じゃ無いらしく、我流の術だから変な癖が付かない様に基礎だけしか教えられないそうだ。



  僕の鉄鞭は肘から中指の先くらいの長さで、普通の剣よりも手の平一個分は短い。


  なので此方から斬りかかるような事はせず、迎え討つ形で戦う事が望ましいと言う。


  その際に狙うのは頭部・首・関節と言った急所、確実に敵の無条件反射を誘う事で隙を作る事を意識しろとの事。



  「相手が生物ならば確実に鍛える事が出来ない部分が存在します。目・鼻・口は勿論、股間や咽頭などもそれにあたりますね」



  そう言って彼は唐突に僕の顔目掛けて拳を突き出し、僕は目前に迫ってきた拳に反射的に目を瞑ってしまった。


  次の瞬間首元に冷たい鉄の感触が伝わり、恐る恐る目を開くと、彼の剣が僕の首に当てられて居た。



  「言ってしまえば単なる目潰しですが、如何なる達人だったとしてもこの一瞬の隙は致命的です」



  僕の首に押し当てていた剣を納刀した彼は『完全無敵な者はこの世に存在しません、無限の魔力を持つ魔王だろうと最強の聖剣を使う勇者だろうと必ず勝ち筋は存在します、何も敵を倒す事だけが勝利では無いのですからね』と締めくくり、武器の握りや振り方を教えてくれた。



  用は力の使い方、成る程第二科らしい考え方で正直目から鱗だった、初めは変わった人かと思って不安だったけど、今はこの人が依頼を受けてくれて幸運だと本気で思えた。



  ––––近接戦の手解きを受けながら採取地へ向かう事三日、卒業生の彼が居る事で入試のテスト内容を大まかに知る事が出来たので、それを意識しながら図鑑と薬草を見比べて行く。


 

  薬学の部門は状況に応じた処方を選択できるかと言う物らしく、籠の中から指定の効能を持つ物を探し出して順に並べると言う変わった方法だ。


  当然生徒同士は仕切りで分けられてカンニングが出来ないようになっているとの事、『私が受験した時には一つ一つ口に入れて判断してた猛者が居ましたねぇ、無論失格になった上に初っ端から猛毒を口にして生死の境を彷徨ってましたし、地道に覚えるしかないですよ』と彼に僕は釘を刺されてしまった。


  ……ほら、舌の先が痺れたら毒って言うじゃん? だから最終手段的に、ね?


 

  あれ?、って事はこのモノクルも即アウトだよね、鑑定機能が付いてるし……。


  そうなるとモノクル無しでテストを受ける事になる、当然こっちに来てまだ二週間くらいだからモノクル抜きだと簡単な文字くらいしか書けないし、文章を読む事も満足に出来やしない。


  わぁい、魔法の事並みの大問題がまた増えたぞ、どうやら神様は僕の事が徹底的に嫌いらしい、なんでこんな事に気が付かなかった。


  帰ったら真っ先に文字の勉強しなきゃね、少なくとも読めるようになる程度には。



  そんな風に沈んで居た矢先、後ろの方で僕を見守って居たリシーさんが抜剣しながら僕の前へと飛び出して来た。


  その様子から只事では無いと感じた僕は、直ぐに彼の後ろに隠れる様にしながら彼の視線の先を追う。



  ––––彼の視線の先には一匹の狼が居る、しかも隻眼で剣を咥えた、変わった姿の狼が。



  その狼と視線がかち合った瞬間、僕は自分が為す術も無く首を切断される錯覚を見て、あっさり腰を抜かしてしまう。


  恐怖で乱れた呼吸で震える手を自分の首に当て、今の光景が幻覚だったと理解しても自分が生きていると実感出来ない、それほど凄まじい気迫––––殺気だった。


  自分が死ぬ幻覚を見せられるほどの実力差、魔法を撃とうなんて考えられなかったし、戦おうと言う気概は存在しなかった。


  そんな僕の姿を見て殺気を四散させた隻眼の狼は、まるで虫ケラを見るような目で鼻を鳴らしながら僕を一瞥すると、堂々と僕らの横を通り過ぎて森の中へと消えて行った。



  「……申し訳ありません、私とした事が少々殺気に呑まれてしまいました」



  剣を構えていた彼は冷や汗を拭いながらゆっくりと息を吐いて納刀している、戦闘の素人の僕ですら実力差が分かる相手なのだから、その道の人間からすれば余計に強さが分かるのだろう、彼は頭を下げるけど仕方のない事だ。



  僕の気分が落ち着いてから聞いてみたところ、さっきの狼は『隻眼の孤狼』と呼ばれる手配書付きの魔物で、縮めて隻眼とも言われる名の知れた存在らしい。


  元々は『ベーシックウルフ』と言う駆け出し冒険者が倒すような魔物に分類されていたらしいんだけど、その中の個体で稀に突然変異種として異常に強く、知能もある存在が産まれる事があるらしく、例の隻眼もその強さから突然変異種として認められ独立した存在へ格上げされたとリシーは言った。

 


  「隻眼は誇りを持った魔物です、決して弱者は狙わず、彼が興味を引いた存在へ対してのみ剣を向けます。 その際にも隻眼は必ず対象へ向かって野花を使った花束を投げ渡し、決闘を申し込みます、今回我々が見逃して貰えたのは貴方が居たからでしょう」


 

  仮に決闘を申し込まれても断る事は出来るけど、その瞬間腰抜けと見なされて完全に格下扱いになるらしく、多くの冒険者は自分の腕とプライドを賭けて彼の決闘を受け入れ、そして散って行く、その積み重ねが『隻眼』の異名らしい。


  そんな存在だからこそ、殺気一つで腰を抜かして震える僕を見て、剣を交える価値は無いと思われたのか……。


  そんな判断をされたのに屈辱と言う気持ちは全く無かった、未だに震える身体がそんな事を思えるだけの余裕を与えてはくれず、ただ生きている事が嬉しく、彼の興味の対象外だった事に心底安堵するだけだった。



  ––––そしてコレが、僕が今いる場所がどうしようも無く異世界なんだと頭でなく心で理解させられたと同時に、何が何でも生きて帰るんだと決意させられた瞬間だった。



  ––––アカデミー入試まであと七十五日。


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