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入れ替わり魔導師の虚言癖  作者: ACS
アカデミー入試編
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さようなら日本、こんにちは異世界 4

 


  街に着いた僕は一先ず昼食を食べる事にして、適当なカフェへと入っていた。


  折角街へ来たのだからこの指輪に代わる杖を探したいところだけど、魔法を発動する媒体を取り扱う店は一般的な物なのか分からないし、そもそも店売りしてる物かどうかも分からないので探しようが無い。


  それに闇雲に探し回るくらいなら一旦空腹を何とかしてからでも遅くない、もし自分で一から作るしか無いとかだったら当分はこの指輪のままになるし、店があるなら案内板もあるだろうからね。



  そんな事を考えながら案内されたテーブルでメニューと睨めっこをしていると、時間帯が時間帯だったのでかなり混み始め、店員に相席をお願いされた。


  別に人見知りってほどでも無いし、相席したところで精々世間話を振られる程度だろうから僕は快く引き受けた。



  ––––すると、案内されて来たのはハクトだった。



  「やぁ、また会ったね」


  「……この間の」

 

 

  流石に予想外の展開だったけど、別にこの子は口数が多い印象は受けなかったし、そもそもこの間話しかけて来たのは思わずって感じだったから、元から他人との交流に消極的な子だったんだろう。


  愛想の悪さも、僕自身その辺を気にしないので特に話しかける事無く注文に入った。


  頼んだのは『Gリザードのサンドイッチ』と紅茶、このGリザードの『G』が『グレートのG』なのか『ジャイアントのG』なのかが気になったのと、郷に入っては郷に従えの精神でコッチの世界の食事には積極的に行ってるからコレを注文したんだけど、ハクトの若干引いた目を見た感じ割とゲテモノだったらしい、ちょっと後悔。


 

 ……運ばれて来たのは素揚げされたトカゲが挟まれたバゲットだったから、直ぐにちょっとどころの後悔じゃ無くなったけどね。


  しかもGは後者の意味だったらしく、嬉しくないボリューム、せめて唐揚げなりフライなりにしてくれたら良かったのに……。


  ビジュアルに目を瞑れば味は鶏肉に近いし、ウロコが案外パリパリで美味しかったには美味しかったよ? 骨も鳥の軟骨みたいな食感で丸ごと食べれたし。


  …………まぁ、コレを食べてる僕を見てハクトがスッと椅子を引いたから間違っても女の子と食べる物じゃ無いけどね。


  僕が完食した頃にハクトの料理が届いたけど、彼女のフォークとナイフの動きを見る限り明らかに食欲が消えてる、かなり申し訳無い。



  取り敢えず食事は終わったので席を立ち、杖の情報はハクトに聞けば良いかと思い付き、彼女へ声を掛ける。



  「ねぇ、この辺に杖売ってる店無いかな?」


  「……あの通りを左」



  目は合わせてくれなかったけど、ナイフの先で店を教えてくれたので、お礼を言って店を出ようと席を離れた時だった。



  「––––その指輪があっても、杖が必要?」


 

  その言葉に思わず足を止めてしまった。


 

  「……その指輪は相当強力な力が篭ってる、並の職人や魔法使いが作れるレベルを遥かに超えた代物なのに、何故?」



  その道の人間に気付かれないと思うほど甘い見通しはしてなかったけど、実際に言われてみると思いの外動揺してしまった。


  けどこの動揺を表へは出せない、彼女もアカデミーの入試をするのだから、受かる受からないは別にしても同じ場所に通う事になるかもしれない。


  そうなった時、良好な関係を築けたのならともかく、対立した場合は指輪を扱いきれないと言う弱点を晒す事になる。



  この世界が理由も無い唯の人殺しを許容するような世紀末じゃない限り、弱点を晒しても大した問題じゃ無いだろうけどさ、人生何があるか分からないから心情的には隠したい。


  幸いにも僕は彼女に背を向けてるから向こう側から僕の動揺した顔は見えてない、ガラスの反射も確認してるからそれは間違いない、まだ誤魔化せる範囲だ。



  「いやさ、恥ずかしい話が薬草採取に行った時に護衛代ケチってさ、寝てる間に置き引きにあっちゃって予備の杖が無いんだよ」



  それらしくかつ自然に、相手の目を見ながら貼り付けた笑顔で彼女に困った笑いを向ける、内心じゃかなり緊張してるけどね。


  お互いの間に沈黙が横たわる、護衛代をケチりたい人は少なからず居る筈、そして無防備に野宿してれば窃盗にあっても文句を言えない、一応不自然じゃない内容だからこのまま誤魔化しきれるか?



  「……呆れた」



  興味を無くしたように彼女はそう呟くと僕から視線を逸らして食事を再開した。


  どうやら上手いこと騙す事が出来たみたいだ

 、『何故代わりの杖が必要なのか』は答えたけど、『どうして代わりが必要なのか』は答えていない事に疑問を持たれなかったから僕は詐欺師に向いてるらしい、嬉しくない才能だよホント。


 




  ––––店を出た僕は静かに胸を撫で下ろし、杖を見に行く為にハクトに教えて貰った店へと足を運んだ。



  宝石付きの杖が描かれた看板を目印に目的の店には辿り着いたんだけど、店に並ぶ杖の種類に頭を悩ませる事なってしまった。


  てっきり僕はハクトの使ってるような、典型的な長い木製の杖か僕の使ってる指輪型の二種類だけかと思ってたんだけど、長杖の他に指輪・羽根ペン・鉄鞭・鉄杖などなど。


 

  杖や指輪については説明は要らないだろうけど、ペンは魔法の発動方法が陣を描く事だからだろう。


  発動媒体自体が軽く、筆記用具という形から使い易い物だからポピュラーらしい。


  鉄鞭は金属製の教鞭で、近接戦も一定の範囲で耐える事ができる。


  鉄杖は棒術を使う人間が使う杖で、戦闘の機会が多いアカデミーの一科生や二科生が授業で使う為に買いに来るそうな。

 

 

  値段も本に比べたら安いけど、平均した値段が大金貨五枚から六枚ってのはなぁ……。


  けど指輪を使ってると魔法陣の形成を失敗する度に普通の失敗以上に魔力と体力を持っていかれる、一刻も早く魔法を覚えるには反復練習するしか無いのだけど、どうした物かなぁ。


  これを買うと生活資金の方が心許ない、しかし指輪の力を使った魔法行使だと上手く使える様になるまで毎回ぶっ倒れる事になるし、その度に日数を消費してしまう。


  しかも今は時期的に冬場だ、昨日は比較的暖かったから運良く凍死せずに済んだけどそれでも朝露に体力を奪われたし、次に魔法行使で意識が落ちたら二度と目が覚めないかもしれない。



  結局、僕は指輪を使った練習をするよりも生活の質を落とす事に決めて杖を購入した。

 


  僕の最終目標は元の世界に帰る事なのだから無理をして命を落としては元も子もない、お金に関しては無ければ死ぬって訳でも無いし、薬草採取なんかで小金は稼げるんだ、長い目で見れば杖を持つのは悪くない。


  ……あと、こんな指輪に頼り切ってたらもしも指輪が使えなくなった時、どうしようも無くなるしね。


 

  確かに魔法文化の無い世界の人間ですらあっさり魔法が使える破格の力を持った物だし、圧倒的に技量が足りない僕が周囲との差を埋めるにはもってこいな代物だろうけど、だからって多用してるとコレ以外で魔法が使えない事になりそうだから、基本的には使用を控えるべきだろう。


  それに、わざわざ古代魔法なんて目立つ物を使ってるのに、強力な道具の力で何とか使ってると思われたくないという思いもある。


  そもそもハッタリ目的で古代魔法を使ってるんだから例え事実だったとしてもそんな事は微塵も匂わせちゃいけないし、上手くその思い込みを利用するには誰もが使える通常の杖で魔法を使う必要がある、でないと僕の実力を過大評価させられない。




  手の中で購入した鉄鞭を持て遊びながら一旦拠点へと帰る。


  僕が購入した鉄鞭は特殊警棒のように伸縮する杖で、そっとポケットの中へ忍ばせる事が出来るし、金属製だから殴れない事も無い。


  まぁ格闘戦が出来る杖だからって殴りに行く事はまず無いだろうけど、魔力が尽きた時の備えには––––っと、待てよ?


  棒術用の鉄杖を買いに来る生徒が居るって事は体術の評価も無くは無いのか? だったら実技でその辺りを見られるかも知れないって事か?


  ……また一つ問題が増えたなぁ。



 

  ––––新しい発動媒体を購入した翌日、魔力が回復してから僕は再び魔法を使ってみる事にした。


  魔力の無駄遣いができないからと地面に何度も念入りに、そして正確な図形を描く下準備をしてから二度目の魔法行使。



  発動媒体は指輪では無く昨日買った鉄鞭、指輪の時よりゆっくりと魔法陣を描いて行く。


  線に込める魔力の濃さに気を配り、残留した魔力が四散する前に形を作る。


  最後の一線を書き終えた瞬間、急な虚脱感と共に軽い目眩を覚えたが、その瞬間に魔法が完成した。



  巨大な炎の塊が三つ、目標として立てた簡素な案山子へ目掛けて発射され、灰すら残さず跡形無く吹き飛ばした。


  着弾時の余波で僕の体はその場から弾き飛ばされ、近くの木に背中から叩き付けられたけど、痛みよりもまともに魔法が発動した事にホッと息を吐く。



  正直一番のネックが魔法行使だっただけに、指輪無しでの成功は精神的な余裕的な意味でもかなり大きい。


  これからは陣の形成速度を上げつつ、確実に成功できる様になるまで反復練習をすれば良くなった。


  仮に書き損じを起こしても消費するのはそれまで線を描くのに使っていた分の魔力だけ、指輪を使用した時みたいに不足分の魔力を体力で代用させられる事は無い。



  とりあえず当面の心配事の内、それなりに大きな問題が一つ消えた、次はある程度の体術、歴史・薬学・地理なんかの勉強と、生活の問題か……。

 

  特に歴史・地理に関しては丸暗記する以外に勉強方法が無い、体術はまぁ冒険者ギルドに依頼を出せば良いし、薬学は薬草や毒草の見分け方なんかだからフィールドワークで何とか出来る。



  そうなると当然、遠出する必要があるよねぇ……。


  この家のある山は薬草はあるけど毒草が無く、しかも薬草自体の種類も少ないから、知識を得る為には自生地まで行かなきゃならない。

 

  一人で土地勘もない状態で遠出なんかしたら迷子は必須、魔物だって居るだろうから一人で出歩くのは無理だ。


 

  ……冒険者ギルドで人を雇う金くらいは残ってると思いたいけど、体術を教わるのと護衛を雇うだけの金額はあったかなぁ。


 

  ––––アカデミー入試まで残り八十五日。

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