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入れ替わり魔導師の虚言癖  作者: ACS
キメラ編
39/86

悪魔の研究 13

 

 

  エレンさんの遺体を埋葬し、彼女の杖をステラから受け取った僕は毒の効力が切れるのを待ってから次の階へ移動する。


  正直他に方法が無いと分かっていても人間としての自我を残した相手を殺しただけあって、早いところこの階から移動したかった。


  地下六階のゾンビ連中も悪人とは言い難い被害者だったけど、既に自我を失った連中ばかりだ。


  悪人を斬ったなら此処まで苦い思いをしなかったんだけど、優しい人だったから非常に後味が悪い。


  そんな思いを飲み込みながら階段を上がると、其処には木張りの床と子供の描いた様な落書きをされた壁が目に入る。


  それに廊下の奥から聞こえて来た幼い歌声、殺伐とした空間には不釣り合いなその歌は民謡の様な物。


 

  だが、その異様な空間に輪を掛けて不気味さを加えるのが濃密な血の匂い、しかもそれは死臭や腐臭と言った物が混じった物じゃ無い。


  つまりそれは僕らが来る前に既に死人が出ていると言う事、試しに一部屋開けて見たがその中には二分割された子供の死体が数え切れない程転がって居た。


  斬り口は非常に滑らかで、断面同士をくっ付ければそれだけで繋がりそうな程の物なんだけど、僕の興味を引いたのはそこじゃ無い。


  溢れた内臓と床一面に広がる血液は確かに悲惨な物だけど、……この子にはキメラ化の強化手術を受けた形跡が無く、完全な人間の身体だ。


  ステラに血を舐めて貰ったが彼女も同意見で、この子にはキメラ特有の混ざり気が無く、このフロアにはそもそも人間の匂いしかしないとも言った。

 

  ならまだ人間がいるはず、そう思って部屋を出たら双子らしき小さな女の子達と出くわし、思わず足を止めてしまう。


  銀髪の双子、一卵性双生児なのか全く見分けが付かないが、黒と白で分かれたゴスロリを着ているので判別自体はできる。


  けど僕が足を止めた理由は純粋な人間に出会えた安堵からでは無く、彼女達が手に持っている物騒な代物が目に映ったからだ。


 ––––彼女達は切断された子供の首を左手に握り、右手に血の付いた大鎌と大弓を構えていた。


 

  黒い方が鎌、白い方が弓、しかも単純な装備では無く、大鎌は鎌と斧と槍を無理矢理繋ぎ合わせた様な装備で、何箇所か折りたたみや分解が出来る様な仕組みが付いている。


  弓の方もアーチェリー用の弓を巨大化させた様な物で、特殊な材質で作られてるのか本体に地・水・火・風の魔力が纏われているのが色として可視化できるほど、しかも腰の矢も最早剣と呼べるサイズだ。


  「あれっ? お姉様、私達以外にまともな人がいるわ」


  「そうね姉様、私達以外にもまともな人がいるわね」


  「まぁ、どうしましょう!!」


  「えぇ、どうしましょうか?」

 

  二人の少女は違いに見つめ合い、愉快そうに笑い合いながら困った様に相談し合う。


  その会話には邪気や悪意は感じない、寧ろ純粋な気配を感じるが、彼女らが刈り取ったであろう首がその純粋さに邪悪さを混ぜる。


「煙の人からはこの階の子供を殺し続けろって言われたわ!!」


  「煙の人からはこの階の人間を殺し続けろとも言われたわよ?」

 

  似たような会話をしつつも、左の生首を投げ捨てた彼女達は己の得物を握る手に力を入れ、くるりと此方に向き直った。


  「そうね、なら殺しましょう!!」


  「そうね、なら殺しましょう?」


  二人は無邪気な笑顔で笑うと、黒い方が大鎌を構えながら踏み込み、白い方が炎で矢を形成して此方に放つ。


  僕は剣を引き抜き、黒い方の鎌を受け止めようと思ったんだけど、あの独特な形状の武器だから上手く受けられそうに無い。


  なのでライトネスを発動しながら後ろに跳ぶ事で回避したものの、子供とは思えないほどの斬撃に前髪を数本持って行かれてしまう。


 

  黒い方の後ろから放たれた炎の矢はステラの血刀で防がれたものの、その結果白い方の狙いが彼女に向かってしまった。


  援護したくてもされたくてもお互い一対一、ステラが勝つか僕が勝つかしないと無理だ。


  けど相手は僕の腰くらいの身長で、しかも身の丈を越える大鎌を軽々振り回してる、四肢のリーチ差はこっちが勝ってるものの、身長の低さを利用した低空からの斬撃には対応し辛い。


  僕は三階で刀身に施した術式を起動すると、冷気を纏った剣を少女に向ける。


  相手に殺意が無い分気が引けなくも無いが、切っ先を向けられた少女は更に嬉しそうに笑った。


  「まぁ!! お兄さんは私と遊んでくれるのね!!」


  笑いながら踏み込んで来た彼女は下から首を狙って鎌を振り抜き、僕はその鎌を受け止める為に剣で鎌の柄を叩く。


  刀身が打ち合った瞬間、刀身との接着点が凍り付き、鎌と剣が繋がる。

 

  首の皮一枚切れて刃に血が伝うが、ギリギリ鍔迫り合いに持ち込む事が出来た。


  彼女の筋力自体はガードの上から斬り伏せられるような怪力じゃ無い、鍔迫り合いが成立している事がそれを示している。


  だが鍔迫り合いの状態から僕は動けない、両手で剣を握って踏ん張ってるからこそ首が繋がってる、一瞬でも気を抜けば御陀仏だ。


  この拮抗状態を維持してればステラがなんとかしてくれる、そんな淡い期待もあるにはあるんだけど、奥の方で楽しげに戦ってるので望み薄。


  白い少女は各属性の矢を雨の様に撃ち、ステラの変幻自在に変化する血刀すら吹き飛ばしている。


  更に何箇所かに撃ち込まれた剣、矢として番える為に若干細身に作られたそれは、突き刺さった場所の周辺を灰色に染め上げていた。


  その現象を起こせる唯一の物は石化魔法、遠目に見て辛うじて何かが描き込まれてるのが読み取れる。


  流石に石化魔法を相手しながらフォローをさせるのは酷な話、そう判断した僕は剣の凍結効果を強めて鎌の刃を凍り付かせた。

 

  「もぅ、お兄さんったらやんちゃなんだから、でもまだまだねっ!!」


  少女は凍結した刃に少し面食らった表情を浮かべるも、彼女が爪先で鎌の柄を軽く叩くと長い柄が勢い良く折り畳まれ、その勢いを利用して僕の頭を飛び越えて背後を取る。


  僅かに魔力の流れを感じたからコレはそれを利用した仕掛けの一つなんだろう、おかげで僕は鎌の刃と柄に挟まれた状態になってしまった。


  重量はかなりのもので、折り畳まれた柄に首を打ち付けられた事も加わり足が揺れる。


  そんな僕に対して少女は水面蹴りを放って転倒させると、僕が腰に付けていたホルダーの中からクロスボウの矢を引き抜き、逆手に構えながら僕の目に目掛けて振り下ろす。


  それに対して考えるよりも先に身体が動き、左腕のクロスボウ本体を盾にする事で身を守ると同時に剣を手放し、右手にナイフを取り出しながら突き上げる。


  残念ながらその突きは大きく後ろに下がる事で回避されてしまったものの、一旦間合いが開いた事で鎌のホールドから逃げるだけの時間が稼げた。


  魔力を流して可変させられれば簡単だったんだけど、どうにも彼女の魔力じゃなきゃ反応しないらしい。


 

  ナイフを左手に構えた僕は死体を調べる時にあの部屋に杖を置いて来た事を後悔しつつも、右袖から取り出した鉄鞭を伸ばす。


  次から次に武器を取り出す僕に彼女は口を尖らせるも、腕を横に振って握っていた矢を投げ付けると、近くの扉を開いてそれを蹴り飛ばして来た。


  矢をナイフで撃ち落とし、飛来した扉を避けた僕は不意を打って来るだろう少女に鉄鞭を振り下ろそうとして、相手が居ない事に気が付く。


  可能性を考えるなら部屋の中、僕はそう判断してフレイム・シュートの陣を組み立てたのだけど、金属同士が連結する様な大きな可変音が背後で鳴り響いた。


  その音に反応してフレイム・シュートを撃ち込むも、先ほど態々刀身を凍らせる事で鎌の刃を無力化した事を失念していた為、あっさりと切り払われ、その爆炎によって鎌の凍結が解除されてしまう。


  悔やんでも仕方ないので矢を放つも、爆煙の中にいるにも関わらず矢を見切って避けた彼女は鎌の反対側に付いた大斧を振り下ろして来た。


  単純な振り下ろしだが、避けた瞬間床にクレーターが出来たので鍔迫り合いなんてのは持っての他、そんな事をしたらガードの上から叩き切られる。


  しかも槍も付いてるからそのままクレーターの中から突き上げて来る、僕は剣を取り落としてるから斬り払いなんて出来ないし、受け止められるだけの装備は今手元に無い。


  なので少し大きく避けたのだけど、その瞬間鎌の刃を90度曲げてそのまま引いてくる。


  クレーターの中から突かれた状態だから狙いは足の裏、このままだと両足を持っていかれるので上に跳んだのだけど、そうすると当然隙ができる。


 それを見逃す相手じゃ無かったらしく、クレーターの底に落っこちた僕の剣の柄を踏み、その反動で弾き上げるととびっきりの笑顔で『忘れ物よ、お兄さん?』と言いながら回転する柄を蹴り上げて矢の様に剣を蹴り出して来た。


  幸い急所は外れたが、左肩を大きく抉られた挙句剣は天井に半ばまで突き刺さってる、攻撃を避けながら回収するってのは無理そうだ。


  「ふふっ、お兄さん中々やるわね、ちょっと見直しちゃった」


  クレーターの中から跳び出て来た少女はそう笑うと、鎌を引きずりながら歩み寄ってくる。


  僕はゆっくりと後退しながら別の部屋の前まで移動し、鉄製の扉を開けて盾がわりにしつつ、中に転がり込みながらエア・スライサーの陣を描く。


  迂回するなり警戒するなりしてくれたならナイフもオマケしたんだけど、少女は鉄の扉を一刀両断にしてしまい、それに驚いた所為で予定よりも早く魔法を発動してしまった。


  殆ど反射的な発動だった、本来なら魔法の発動と同時かその前にナイフを投げる事で少なからずどちらかを当てる気だったんだけど、それが失敗に終わった訳だ。


  おかげで少女の周りに展開された風の刃は鎌を回転斬りする事で斬り返されてしまう、こう言った魔法自体の耐久性の低さも風魔法の欠点とも言え、だからこそ二手目が欲しかった。



  ……部屋に逃げ込んだ以上逃げ場は無い、剣は天井、杖は別室、魔法や槍は組み立てる時間が無いし、ナイフを投げたどころで切り払われるのがオチ、鉄鞭はリーチも耐久性も無いから受け止められたら終わり、万事休すか?

 



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