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入れ替わり魔導師の虚言癖  作者: ACS
アカデミー入試編
3/86

さようなら日本、こんにちは異世界 3

 

  ––––僕の視線の先には机の上に並べられた四冊の古びた魔導書がある。



  アレから三日掛けて家を探した結果、この家の中で僕の使えそうな魔法が書かれた物を四冊発見した。


  けど埃を被ってた上に魔導書自体の劣化も酷く、慎重にページを捲らないとページが裂けそうな程古い。


  それに、魔導書に記載されている魔法自体にも問題がある。


  並んだ四冊の魔法は順に火・風・水・地の属性の魔法で、それぞれ『フレイム・シュート』『エア・スライサー』『アイシクル・ランサー』『ロック・ブラスト』と呼ばれる物なんだけど、資料を調べたらその全てが現在使われている魔法の大元となった、所謂古代魔法と呼ばれる癖のある物だった。



  まず前提としてこの世界の魔法は現代魔法と古代魔法の二種類にそれぞれの属性を付け加えた物に分けられるらしい。


  名前の通り古代魔法は相当昔から存在するものの、現在では使い手が少なく一万人に一人居るかどうかと言うところで、習得するには使える人の弟子になったり門外不出の魔導書に目を通して覚えるしか無いからだ。



  何故それが問題なのか、それは古代魔法がそれ程珍しい物だという点と細かい使い分けが出来ない点の二つ。



  珍しい物を使えば当然注目が集まる、全く誰も古代魔法が使えないという訳で無いにしろ、アカデミー内でも数えるほどしか居ないはずだ。


  僕がこの世界出身なら諸手を上げて自慢したかもしれないけど、残念ながら異世界出身だ、注目が集まるって事はそれだけ人の輪が広がるし、僕の行動にも目が向けられる事になる。


  疚しい事は無いにしろ、そんな中で何かしらのボロを出せば痛くもない腹を探られる、そんな訳だから余計な火種は出さない方が良いとは思う。


 

  そして細かい使い分けが出来ない点、これは現代魔法の成り立ちにも関係する古代魔法の難点の一つだ。


  例えば『フレイム・シュート』、この魔法は現代魔法で言う『ファイヤー・ボール』の原型に当たるらしいけど、火力の調整が効かず攻撃にしか使えない。

 

  ファイアー・ボールなら魔法としてのダメージ以外にも初級魔法の低火力を逆手に取った爆炎による目眩しや、避けられたとしても着弾地点に炎が残る事で場所によっては炎上させる事が出来る、特に市街地戦や森の中で手段を選ばないのなら断然こっちだ。



  フレイム・シュートの場合、火力があり過ぎる為に初級魔法であったとしても攻撃以外へ転用するには向かない、目眩しを狙おうにも爆風による熱傷の方が目立つし、ファイアー・ボールと違って撃った後の炎上効果が付いていない事もあって使える事の幅が少ない。


  それに消費する魔力もファイアー・ボールの方はフレイム・シュートの四分の一程度で済む、古代魔法の使い手が少ないのは単に珍しいだけじゃ無く腕の問題も出て来るからなんだろう。



  古代魔法を使うメリットとしてはやはり話題性だ、扱いの難しい古代魔法が使える=他の魔法も一定の水準で使う事が出来ると言う思い込みを利用すれば、多少入試の点数が悪くても物珍しい魔法を使えると言う点を評価されて入学する事が出来るかもしれない。


 

  ただやはり考えてみるとメリットよりデメリットの方が若干大きく感じるけど、結局のところ僕にはこれを使うしか選択肢は無いだろう。


  理由は時間、魔法を学ぶ事の出来る時間が全く足りない事だ。


  魔法の発動方法だけじゃない、魔力の使い方、基礎知識、その背後の歴史、学ばなきゃいけない事が多いのでどうしてもそれぞれの勉強時間を取らなきゃならない、しかも試験には足切りがあるのだから何もかも疎かに出来ない。



  つまり僕と他の受験生とでは元々のスタートラインが違う、それは即ち魔法の腕の差へ直結する。


  仮に今から魔導書を売っぱらって現代魔法を習得したとしても、所詮付け焼き刃にしかならず、基礎の差が致命的になるのが目に見えている。



  それなら目立つ事を覚悟して比較対象が少なく、かつ魔法単体の火力がある古代魔法を使うしか無い。


 

  それでも使う魔法はこの四冊の中から一冊だ、二種類以上使うのは必要以上に注目を浴びるかもしれないし、そもそも時間が全く足りないのだから一つに絞るべきだ。


  そう考えた僕は古代魔法の中でも比較的広く知られてるフレイム・シュートの魔導書へと手を伸ばし、魔法の実践を行う為に外へ出るのだった。



 

  ––––古代魔法と現代魔法の大きな違い、それは魔法の使用目的だ。



  古代魔法はそもそもの始まりが軍事目的だった為、火力や効果範囲等が現代と違っている、例を挙げるなら以前この家で見つけた魔法の様な物だ。


  ……アレはちょっと極端な奴だけどね、使ったら人類全員巻き込む心中になるし、生き延びたとしても星の方が先に死ぬ。

 

  だからまぁ古代魔法は一部の才能持ちが使う事前提になってるし、それ以外の人間が使っても術者が使い捨てになるレベルだったらしい。


  それを広く一般的に、才能が無かったとしても素養さえあればノーリスクで使用できる様に改善した物が現代魔法、火力を下げる代わりに汎用性を高めた訳だね。



  つまり何が良いたいかと言うと、指輪の力を使いながら四苦八苦しつつ魔力を探し出して、魔導書を片手に読みながら魔法を使った僕はものの見事にぶっ倒れてしまった。



  発動したフレイム・シュートは確かに着弾した地面を抉ったが、その結果を見ると同時に猛烈な吐き気と全身に立ち上がる事すら億劫になる程の虚脱感、そして長距離マラソンを完走した様な疲労感が僕を襲い、膝から崩れ落ちる事になった。



  しかも発動自体はしたものの、本来の性能とは程遠い。


  ちゃんと発動したのなら、バスケットボール位の炎の弾が三つ発射されるはずだけど、僕の発動した物はどう見てもテニスボールくらいのサイズでしかも単発だった。


 

  這うようにして家の壁に凭れた僕は、一旦息を整えて魔導書へと改めて目を移す。

 

  この世界の魔法は、魔力を込めた意味のある図形を何枚か重ねる事で魔法陣を描き、魔法を発動する。


  その発動媒体として杖や指輪なんかを使い、筆で描く様に均一に魔力を込めながら魔法の形を作って行く。


  イメージとしては漢字に近い、『人』が『木の側に居る』と書いて『休む』となる様な、そんな工程だ。


  ただ漢字の場合、多少悪筆でも偏やつくりがしっかり書かれていればある程度認識出来るけど、魔法の場合正確に形を作らなきゃならないらしい。


  ほんの少し線が歪むだけで、重ね合わせる位置がズレるだけで、線に込められた魔力にムラが出ただけで、魔法は発動しないばかりか無駄に魔力を消費する。


  しかも魔力には残留時間があるらしく、書き始めから書き終わりまで一気に仕上げないと途中で線が消えてしまい、魔法陣の形成すら出来ないそうだ。



  なら何故僕が魔法を発動出来たのか、それはこの指輪の力だ。



  この指輪は多少歪な形の魔法陣だったとしても無理矢理魔法を発動する力を持っているらしく、本来なら発動しなかった僕の魔法を魔力を引き換えにする事で強引に発動した。

 

  これはマズイ、ただでさえ完璧に発動しても現代魔法の四倍の魔力消費なのに、強制発動させる事で更に魔力を持って行かれてしまう。


  便利っちゃ便利だけど今の僕には過ぎた物だ、出来る事ならこの指輪に代わる杖が欲しい所だ。



 そしてもう一つ問題が出てきた、実際に魔法を使って分かったけど、魔法の魔力消費量は図形を重ね合わせる度に倍々に増えて行く事が分かった。


  ファイアー・ボールでも炎を意味する図形とそれを放つ為の図形の二画を使う、一画の魔力消費を仮に一としても、三回目で四倍だ。


  重ね合わせる魔法が一画〜三画が初級、四画〜六画で中級、七画〜十画で上級、十一画以上で最上級と区分けされてる事からも魔法の発動にはかなりの魔力を使う事が分かる。


  最上級なんか一画の魔法の千倍消費する計算だ、しかも魔力の残留時間も計算しなきゃいけないから、普通の手段じゃとてもじゃないけど使えた物じゃない、成る程古代魔法一発でガス欠になるのも頷ける、こりゃ廃れる訳だ。


  しかもこの世界の魔法は発動に足りない魔力は体力から持って行く、体力トレーニングも必須になるとか、後八七日で間に合うのか?



  試しに今のへろへろな状態で炎を表す古代魔法の一画を描いてみる。


  指輪を嵌めた指先に淡い光が宿ると共に空中に線が描かれる、それと比例する様に全身から力が抜けて行き、途中で腕を上げる事が出来なくなって形が崩れてしまうと、僕は一気に噴き出した疲労感に身を任せて意識を失った。




  ––––目が覚めたのは翌日の朝だった、朝露で身体が冷え込み、その寒さで目を覚ます事になった。


  身体の疲れや気分の悪さはある程度楽になったとはいえまだしつこく残っている、外で寝た所為か頭痛も酷い、今日は落ち着くまでの間はこのまま座学の方を学ぶ事にしよう。

 


  壁を使いながら立ち上がった僕はそのまま家に戻り、机に座って薬学書や魔法技術の本へ目を移したのだけど、疲労による睡魔は容赦無く僕を襲う。


  活字を目で追っていると無駄に静かだし、朝日が差し込み始めたので室内は外に比べると暖かい。


  何度も船を漕ぎながらもその度に顔を起こし、やせ我慢をしながら薬草の名称・効能や魔法技術の発展の歴史・事件などに意識を持って行った。



  そして太陽が真上に来る頃にやっと体力と意識が回復し、空腹感が僕を襲ってる事に気が付いた。


  丁度良い区切りだからと保存食を食べようかと立ち上がったが、流石に何日も篭り気味だった為気分転換がしたくなった。


  簡単に着替えを済ませると、僕は財布を持って街を向かう、前向きに考えるなら街と拠点の往復も山歩きが出来て体力トレーニングの足しにはなりそうだ、まぁしっかり鍛えなきゃダメだろうけど。


  今日は流石に魔法が使えそうに無いから午後は体力トレーニングと薬草採取かなぁ、家の周りに確か川もあったし晩御飯用に魚も取ろう。


  そんな事を考えながら僕は街への街道を歩いて行った。



  ––––アカデミー入学試験まで後八十六日。

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