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入れ替わり魔導師の虚言癖  作者: ACS
アカデミー入試編
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さようなら日本、こんにちは異世界 2

 

  「アカデミーへの入学申請ですね? でしたらこちらの申請書に御記入の上、受験料として大金貨三枚をお支払い下さい」

 

  アカデミーの窓口で入学希望を伝えると、受付の人から羊皮紙と羽根ペンが差し出された。


  受験料も高い、大金貨一枚が日本円に換算すると一万円くらい、金貨・銀貨・銅貨の順に貨幣があって、大金貨=一万円・中金貨=五千円・小金貨=千円と言った風に桁が下がって行く。


  なので受験料で三万円、そして仮に受かったとしてもそこから入学料と教育料を合わせた頭金三十万円近くをアカデミーに支払わなきゃならないらしく、今の財布の中身的にかなり切り詰めた生活をしなきゃいけなくなる。


  帰りたいと言う一心でかなり焦りが出てた事を自覚する、急がば回れって言うしもう少し様子を見た方が良かったかなぁ……。



  内心の落ち込みを表情には出さず羊皮紙の記入事項へペンを走らせる、必要事項は名前・出身地・志望コース、経歴を書かなくて良いのは正直助かった。


  文字に関しては大丈夫、モノクルのおかげで一応書くには書ける、ただ慣れない文字だからかなりガタガタだけどね。

 

  ファーストネームはこっちの僕と同じだったので『ユウ』と記入、出身地はこの世界の地名を知らないし、万一深く話を聞かれても反応が出来そうに無いから『ジパング』と記入、志望コースは……。



  最後の項目でペンの動きが止まる、其処には『第一科』『第二科』『第三科』の三つが書かれてるだけで詳しい説明が無い、どれが何をするモノなのかを書く必要が無い程度には当たり前なんだろう、参ったなぁ。


 

  「……研究目的なら魔導科の第三科、結果の出なかった時の保険として魔術科の第二科を受ける気なら止めないけど、その分自分の研究に回せる時間は少ない」


 

  僕の悩みを見通した様に白髪の少女がボソッとそう呟いてくれたので軽く頭を下げてから第三科へ丸をし、完成した書類と受験料を支払うと、窓口の人が番号の書かれた木札を渡してくれた。


  この木札が受験票になる事と、紛失・破損の場合は再発行料金が掛かるとの事、かなり懐事情は厳しいから大切にしなきゃね。


 

  白髪の子も書き終わったのか窓口に提出しに来ている。


  僕は羊皮紙を裏返しにして提出したけど、彼女はその辺り気にしない性格らしく個人情報が丸見えだ。


  彼女の名前は『ハクト』志望コースは僕と同じく『第三科』、けどあまりジロジロ見るのも失礼なので会釈だけして今日は彼女と別れてアカデミーを出た。



  試験は来月と言われたけどこの世界の暦が地球と同じとは限らないから帰りにカレンダーでも見に行こうか。


  ついでに第一科・第二科・第三科を調べなきゃね、ハクトが言ってた『魔術科の第二科』『魔導科の第三科』の違いも気になる。


  別称の様な物だとしたら第一科にもそれがあると見ていい、そしてその名前の違いがそのまま内容の違いに繋がるんだろう。


  それくらいならあの家で調べられない事も無いか、下手に街中で調べ回るよりは安全だし宿に一泊して明日朝一で出るかな。


  ただ何度も言うけどお金に余裕が無いから泊まれるのは馬小屋や倉庫くらいなんだよなぁ、徹夜で朝まで待つのも手かな?



  ––––結局悩んだ末に、僕は馬小屋に泊まる事にした。


  徹夜で起きてると時間を持て余すし体力も無駄に使うからなぁ、調べ事したいのに疲れを残すのは良くないからね。



  ともかくあの家に戻った僕はもう少し詳しく家を調べる事にした。


  来た当初は混乱してたし、帰りたいと言う焦りがあったから見落としがあるかもしれない。


  調べやすくする為に色々散らかってる部屋を端から掃除したから二、三時間掛かってしまったけど、そのおかげで無事に目的の物を発見することが出来た。


  まず古いカレンダー、今日の日付はまた後で買い物した時にでもさり気なく聞けば良いとして、この世界の大まかな暦が分かった。


  この世界の暦は一ヶ月が九十日で、三月〜五月に当たる『風の月』、六月〜八月に当たる『火の月』、九月〜十一月に当たる『地の月』、十二月〜二月に当たる『水の月』の四ヶ月三百六十日で一年、地球の暦と五日ズレてるくらいか、閏年とかの季節のズレはどうなんだろ?



  そして次に第一科等の違いも出て来た、かなり埃被ってたけどこの家の中ではまだ新しい方の本だ。


  と言うかこの情報が此処にあるならもう少しアカデミーの事を調べてから行けば良かったと地味に凹んでしまった、そしたらもう少し違和感の無い態度でいられたのに。


  気を取り直して、気になってたアカデミーの三つの学科についてだ。


  前提としてアカデミーは魔法を学ぶ場所であると同時に個人個人の目的によって学科が分かれている。


  一つは第一科、通称『魔法科』。


  第一科では戦闘目的としての魔法そのものを突き詰める学科、宮廷魔術師等の国家資格を手に入れる事が出来るところで、名門の人間や自分の腕に絶対の自信がある人間が受ける物。


  ただしその分かなり厳しく、履修したすべての単位を習得し、かつ皆勤賞で毎月三回以上行われる不定期な抜き打ちテストで必ず満点を取らなくてはならないらしい。



  二つ目は第二科、通称『魔術科』。


  第二科では魔法を扱う術を学ぶ、第一科が魔法単体の熟練度を上げる事を目的にしている事に比べると、第二科は其処までは行かず応用と技術研究に主眼を置いているらしい。


  深く狭くが第一科なら、第二科は浅く広くと言う印象かな。


  第一科程厳しくは無いにしろ、冒険者ギルドや道具を作る工房などへの推薦状が発行されるのでそれなりにキツイらしい。


 

  三つ目に第三科、通称『魔導科』


  魔法の道を行く科の意味の通り、他二つとは違って目的は個人の掲げる研究を達成する事なので戦闘技能や筆記テストの結果は余り関係無く、必要な単位や出席日数も第一科に比べたら三分の一で済む。


  その代わり卒業までに結果を出せなかった場合、どれだけ成績優秀だったとしても他の学科とは違い推薦状は貰えないので卒業後の就職は難しくなる。



  最後に第二科の特別措置についてだ。



  第二科は単なる学科の一つと言う訳じゃなく、第一科の授業について行けなくなった生徒や、第三科で自分の研究に挫けてしまった生徒・或いは別の人に研究の先を越された生徒を移籍させる受け皿としての面があるらしい。


  そうすれば卒業時は第二科卒として推薦状を貰えるので卒業後の心配を無くせる、ハクトの言った保険の意味はコレか。


  まぁ第一科から降りた時はともかく、第三科から上がった人は必要な単位とかが増えるから結構キツイみたいけどね。


  一応第二科からも他の学科へ移る事は可能らしいけど、第一科へ上がる為には筆記・実技・論文の特別試験で全て満点を取らなきゃならないから茨の道だ。



  アカデミーはこの三つの学科と三年制、そして各学科の成績優秀者の中から上位三名は追加で二年間学費免除で学べるとの事だ。




  ––––成る程、それなら確かに僕が受けるべきなのは第三科だ。



  僕の目的は自分の世界への帰還だ、そしてアカデミーへ行くのもその為の手段である時空魔法を習得する為に魔法と言う力を学ぶ事。


  戦う事や世界を変える事が目的じゃない、帰る手段は既に存在してるから僕がアカデミーで研究する事は少ない魔力で強大な魔法を使う方法だ。



  と言うのも、帰り際にアカデミーの受け付けで簡単な適性検査をした結果、僕の魔力は平均値程度、そして同時に計測した魔力の成長率は平均の半分以下と言う結果が出たのだ。


  普通の魔法使いの魔力を十としたら、一ヶ月毎日限界まで魔法を使ってやっと二増える、それが僕は一しか増えないのだからまともな方法で時空に干渉するような大魔法を使えば死ぬのも当たり前だ。


  この世界の僕の研究資料を見ると、生まれ持った魔力量は遺伝で決まるらしく、名門の人間は即ち魔力持ちと言う認識で良いとの事。


  でも魔力量の成長率に関しては完全に才能になるらしく、名門だからとかは特に関係無いらしい、下手したら魔法に関わりの無い人間の中でも凄まじい成長率を持った者も居たりするんだってさ。

 


  調べた本を片付けながら、一旦時空魔法についての事を頭の片隅に置いて当面の目標であるアカデミー受験に意識を切り替える。


  アカデミーの入試は実技と筆記の二種類、五十点未満が足切り対象なので共に半分以上は点数を取らなきゃダメだ、片方が五十点を下回った瞬間もう片方の成績が良くても落第だ。


  足切りがあるのはかなり辛い、そもそも科学の発展した世界出身の僕が生活に慣れても居ないのに実技と魔法知識の二つを残り九十日で付けなきゃいけないのだから。



  確かに落ちても来年があるとはいえだ、その場合は生計を立てる手段を探す必要が出てくるし、魔法の基礎を学ぶ時間が一年先になる。



  日本で一年ならともかく、異世界で知り合いも無く一年間生き延びる事が出来ると楽観視は出来ない、その場合今度は元の世界に帰る事よりも生き抜く事の方が重要になってしまう。


  今の僕がお金を稼ぐ方法は薬草や川魚なんかを採って売るか旅籠でバイトするかだけど、薬草一キロで大体五百円前後、旅籠でバイトしたとしてもこの世界の常識を学べていない以上、何をしたらマナー違反なのか等が分かり辛い。


  僕の常識とこの世界の常識が違う可能性は十分ある、この世界に馴染むまでは接客業のバイトは控えた方が余計な心配をせずに済む。



  金策一つでコレだからこの一回の試験でパスするくらいじゃ無いと、帰還するのが何年先になるか分かった物じゃない。

 


  幸いにもこの世界の僕は研究を見る限り頗る付きの魔法使い、その証拠に魔導書と言う高額の代物を山積みに出来る程の人間だ。


  大量の資料はほぼ全て僕に理解できる代物じゃないけど、まだ全部を見て回った訳じゃ無いからもしかしたら僕が理解できる基礎知識があるかもしれない。


  仮にそんな物が無かったとしても、魔導書が貴重な世の中だから幾つか売っぱらって参考書を買うと言う手が残ってる、まだ手詰まりじゃない。



  ––––後九十日、やってやるさ。

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