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入れ替わり魔導師の虚言癖  作者: ACS
アカデミー入試編
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さようなら日本、こんにちは異世界 10

 


  ゴールデンスライムはあの後無事に見つかり、当分の生活資金が稼げた辺りで僕らは街へ帰った。


  スライム湖への滞在は六日間、その内の二日がスライム狩りで残り四日間は山賊の拠点探しだった。


  もしかしたらまだ捕まってる人が居るかもしれないと言う希望から二人で手分けしてさがしたのだけど、残念ながら捕まってる人は居なかった。


  人身売買に手を染めた連中だったから、一足先に売られてしまったのかもしれない、その可能性が高いのは理解しているけど、そうでない事を祈るばかりだ。



  山賊の首とスライムから採取した砂金を換金し、トーラと別れた僕は武器屋へと寄る事にした。


  今回の事で魔法以外にも攻撃手段を持っていた方が生き残り易いと分かった、帯剣する必要までは無いにしろ、鉄鞭だけじゃ撲殺以外に相手を倒す手段が無い。


  何を買うとは特に考えてなかったけど、せめて刃物が欲しかった。



  そんな考えで店の中に入ると、良いものから粗悪品までが値段の順で並べられている、武器の品質は防具と同じくらい重要だからか少なくともこの店は意地の悪い商売はしていないらしい。


  目利きが出来ない僕には有難いけど、予算内で買える物を探したところ、購入したところで使いこなせそうな物が少なかった。



  ファンタジーの中では定番に思える『ロングソード』コレだって、モノクルの力を使って見れば刃渡りが100センチから130センチ程、流石にそんなものを振り回せない。


  程々の長さを持つショートソードもあるにはあるのだけど、ある程度信頼が置ける品質のものは大概売れてしまったらしく、斬れ味の悪い粗悪品しか残っていなかった。


 

  奥の方には槍とか斧槍とかがあったけど、アレを買うくらいなら発動媒体としても使える鉄杖にする、値段も武器よりは安いし。


  店内を一周見て回った僕は悩みはしたけれど、一山いくらで売ってる様なショートソードと投げ売りされてるナイフを二十本ほど買う事にした。



  剣に関しては買うかどうか悩んだのだけど、元々鉄鞭は護身目的の近接戦が可能なだけの物、その証拠に前回の戦闘で歪んでしまったのでサブウェポンの域を出ない。


  だからちゃんとした武器は別に持っておくべきで、ナイフもあの山賊の様に使い捨ての投擲武器として使うなら粗悪品で十分。


  落ちてる石を使っても良いんだけど、刺さるか刺さらないかの違いで用途を変えられるだろうし、服の中に忍ばせれば室内でも使えるからね。


  ……まぁ冷静に考えたら、街から家までは結構距離あるし、二十本は多過ぎた。


  その所為で持ち帰りが大変だったけど、とにかく家に帰った僕は数日の間に色々とあり過ぎて疲れたのか、ふらふらとベットの上に倒れ込み、そのまま睡魔に身を委ねるのだった。



 

  ––––目を覚ますと、僕は見慣れた教室の机の上に突っ伏して眠っていた。


  寝惚けた状態で顔を上げると、教室の時計の針が二時限目の開始時間になろうというところだった。


  確か次は移動教室だっけ? なんで誰も起こしてくれなかったんだよ、友達甲斐の無い奴らだな。


  先に行ってしまった友人達に不満を漏らしながら必要な物を持って教室を出る、場所は新校舎の四階だったっけ……。


  そして、僕が廊下に出た時、窓に映った自分の姿が見慣れない服装だと気が付いた。


  制服だったはずが、厚手の服装で、指輪も嵌めている、洒落たモノクルとイヤリングがファッションと言うよりコスプレ感を出している。



  ––––其処でもう一度目が覚めた。



  硬い勉強机の上に眠って居たはずが、ちゃんとした寝具の上に居る、さっきの光景の方が夢だったのか……。


  この世界に来て四十五日、向こうの世界だともう一月半になる、ホームシックになってもおかしくない。


  入試まで残り五十二日、しかも日が暮れているから実質五十一日、悠長に望郷の念に浸かる暇は無いって言うのに、最悪だ。

 

  家の外へ出て井戸水で顔を洗って沈んだ気分を払拭した僕は、気を紛らわせる為に例の湖について考える。



  あの湖の力は痛みを伴う事に目を瞑ればかなり強力だ、魔力量の足りない僕ですら信じられない火力で魔法を使う事が出来た。


 ドーピングに等しい行為だけど、実技の試験があるから早急に今以上の力を着けなきゃいけない、その為にはあの湖の力を使う事が今僕の出来る事の中で一番確実性のある物。



  ただあの水が他所へ持ち出しても効果を発揮するのか、その点が問題だ。


  あの場所自体がそう言った力を持っているのか、水自体にも効能があるのかは調べないと分からない。


  仮に調べるにしても同行人を連れて行くのは控えたい、ドーピング目的の調査だからあまり人目に付くのはマズイ。


  行くなら今からだ、幸い僕は街から離れた場所に家がある訳だから、此処から直接向かう分には誰にも見つからない。



  食料も滞在日数を一日か二日にすれば十分持つ、往復で十日以上使うけれど、筆記にはまだ最終手段があるから大丈夫。


  とにかく夢見の悪さの所為で、余計な事を考えない内に何か行動を起こしたかった僕は身支度を整えると、すぐさま例の湖へ向かって出発した。



  ––––一人だったから不安だったけど、幸運にも何事も無く湖へと到着する。


  前回とは違い、到着したのは昼過ぎで、山賊も居なければ無害なスライムがもそもそと草を食べているだけだった。


 

  このスライムの大元があの湖の水、試しに近くに居た一匹のスライムから体の一部を切り取って、それを口へと運ぶ。


  口に運んだスライムの一部はグミの様な食感をした雑草の様な味と言うだけで、特に魔力が回復するような事は無かった。


  となるとスライムの発生にその大量の魔力が使われているのだろうか、あるいは水が澱んで魔力が固まる事でスライムと言う形を作るのか?


  もしそうなら、持ち運びができるか否か分からない。


  まず無いとは思うけど、水筒の中でスライムが発生してしまうかもしれない、家に帰って開けて見たらスライムでしたって結果は精神的にもクる。



  コレは予定を変更して滞在期間延ばすしか無いかなぁ……。

 

  帰ったら確実に残り日数が四十日を切る、けれどこの水を使えれば高火力の古代魔法をアピールする事が出来るのだから、諦めるには惜しい。


 

  滞在一日目、水筒の中へ水を入れて暫く放置して見る、汲んで持って行くと言う手段が出来るのかを調べる為だ。


  結果は三時間くらいした頃にクラゲの様なスライムが水の中に浮いている事が分かった、更に放置するとそれが寄せ集まって一体のスライムに変わる。


  このスライムが魔力を持つのかを調べる為に一部を食べてみたけど、無味無臭な上に先ほどのスライムと同じ様に何の効果も無かった。


  到着した時間が遅かったからか、この時点で日が暮れてしまったので、湖のほとりで先ほどのスライムを焚き火を使って溶かし、その水を飲んで見た。


  ゴールデンスライムから砂金を採取する方法を応用したのだけど、唯の白湯だった。



  滞在二日目、今日は水筒に入れた湖の水を揺らすことで澱ませない様にしてみる。


  その結果、揺らしてる間はスライムは発生しなかったのだけど、持ち運ぶ際に常に揺らさなくてはならず、睡眠時間を削ったとしても片道五日を不眠で移動するのは現実的じゃない。


  水の重さを考えても持てるのは水筒一、二個分が限度、それ以上だと持ち運びに苦労する。


 

  腕が疲れたので水筒を置き、今度は小さなスライムが複数出来た時点で残った水を飲んでみる。


  その時点ではまだほんの少し魔力が残っていたのか、体の芯から僅かに力が湧いて来た。


  小さなスライム達も食べてみたけど、大きくなったスライムとは違って此方もほんの少しだけ魔力が回復した。


  小さい方のスライムにも魔力が残っていた事から、大きくなる為に合体すると魔力を消費するのでは無いかと言う結論を出した。



  滞在三日目、今度は小さなスライムを発生させた後、汲んだばかりの水を張った別々の容器へ一匹づつ入れてみる。


  水中で動く物があれば水に動きが出来るし、下手に魚や虫などを入れると其奴らが魔力を消費しかねない、この方法で持ち出せないかを検証する。



  結果は失敗、新しいスライムは発生しなかったけど、一緒に入れた小さなスライムが魔力を溜め込んでしまった。

 

  水の持ち運びと言う点では失敗したけど、その代わり小スライムが魔力を溜め込む事が分かった。



  滞在四日目、今回は小スライムに魔力を蓄積できる限界を探る。


  小分けした小スライムが水の魔力を吸い尽くす速度を魔導時計で調べると大体二時間前後、新しく水を張り替えながらその回数を数えると個体差込みで三〜五回、それ以上は魔力を溜め込まず、新しく水を入れた瞬間に水全体が大きなスライムへ変化してしまう。


  しかもそのスライムを食べても魔力が無いし、仮に魔力が残っていたとしても大型トラックのタイヤの様な食感の所為で魔力を補給出来ない。



  過剰に魔力を供給すると硬くなる、試しに限界まで魔力を溜めた小スライムを合わせて大スライムを作り、それを噛んでみたけどタイヤ以上の硬さだった。


  多分これは習性か何かなんだろう、本来なら魔力を溜めてから合体する事で硬くなり、外敵から身を守るのだろうけど、そうする前に合体してしまうから食用に出来る。


 

  限界まで魔力を溜めた小スライムも同じ様な性質があったのか、弾力が強すぎて噛み切る事が出来ない。


  それでも一応は飲み込む事が出来るので、無理をして胃に流し込めば彼らが溜め込んだ魔力を使えはする。


 

  ただし、結局はビーカーの中へタライで水を入れる様な行為、水の様に溢れるだけなら兎も角、魔力は蓄積するので最悪身体の中がズタズタになる危険がある。


  ……と言うか、現在進行形でそれを体験中だ。


  皮膚の下をムカデが這いずり廻る様な感覚と、全身の血液がガラス片の粉になった様な痛みが暴れ回ってる。


  空目掛けて魔法を打ったら何とか収まったけど、普段以上に体力を消費した。



  前回は水中に居たから消費される度に魔力が充填されるだけで済んだし、多少水を飲み込んでも全身怪我だらけだったから、それの回復に魔力が当てられて問題が無かった。


  今回は完璧な体調だったから純粋に魔力上昇のみが全面に出た形だ、多用したらあっさり廃人になりそうだ、コレ。



  想像以上に身体への負担が大きく、回復に一日、帰ってからも研究用に使う為に魔力を限界まで溜めた小スライムを追加で作るのに更に二日使った後、食料がすっかり尽き掛けたので拠点へ帰るのだった。



  ……ただ、移動して三日で食料が無くなったから、結局二日間食事抜きの強行軍地獄を味わう事になってしまったけどね。



  ––––アカデミー入試まであと、三十四日。

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