僕はタイトルが拙い 〜森博嗣に学ぶ魅力的なタイトル作成術〜
タイトルに記してある通り、筆者は、自分の書いたものにタイトルを付けるのが苦手です。
本文を書き終えてもまだタイトルが決まっていない、なんてことはザラにありますし、即興小説ではお題をそのままタイトルとして使っているほどです。
タイトルやあらすじは小説の顔にあたる部分ですから、その重要性は今更私が語るまでもありません。でも、苦手なんだから仕方ない。
ちなみにあらすじも苦手です。苦手なくせに、文庫本の背表紙の右上あたりにちょろっと書いてある、あれぐらいの分量に収めたいという拘りを持っているため、もはや手に負えません。が、最近ではもう開き直って、ようやく自分なりのスタイルが見え始めてきたところです。
しかしタイトルだけは……。
まだ手応えが掴めていません。要するに断捨離が下手なのでしょう。部屋も散らかってますし(笑)
で、じゃあ、どうしたらうまいタイトルがつけられるようになるのか?
そして、自分はどんなタイトルを付けたいのか?
もしも今好きな作家を挙げろと言われたら、迷わずに答えられるのは、綾辻行人、森博嗣、三津田信三の御三方です。シリーズで言うと、綾辻さんの館シリーズ、森さんのS&M、V、四季、スカイ・クロラシリーズ、三津田さんの刀城言耶シリーズ。
このうち、綾辻さんの館シリーズは『◯◯館の殺人』、三津田さんの刀城シリーズは『◯◯の如き◯◯もの』とそれぞれのパターンがあり、空欄の部分には、舞台となる館や怪異の名前が入ります。シリーズそのものが持つ魅力をストレートに表すタイトルの決め方で、極めて効果的である一方、参考にするのはちょっと難しいと感じます。
では森さんの作品はどうか?
四季シリーズは本来一つの作品であるところを四つに分け、それぞれに春夏秋冬と付したタイトルになっています。また、スカイ・クロラシリーズは英語のタイトルをカタカナにしているので、これも自分の小説のタイトルに応用するのは難しそうです。
さて、残るはS&Mシリーズ、そしてVシリーズです。前置きが随分長くなりましたがここからが本題です(笑)
S&MシリーズとVシリーズ計二十冊には、ミステリアスで興味を惹かれるタイトルがたくさんあります。この二十冊のタイトルに用いられている手法を考察し、パターンに分け、書きながら整理して今後に生かしていこう、というのがこのエッセイの趣旨です。
なろうTOPページのランキングに載っているような、内容はわかりやすいけどヒネリもクソもないタイトルで満足している方にはあまり参考にならないと思われます。また、ここで扱う作品のジャンルは全てミステリであるということも先に述べておきます。
(1)あまり同時に使われることのない言葉同士を組み合わせてギャップを生み出す
これはあらゆるジャンルで昔から使われている手法ですよね。『吾輩は猫である』もこれだと思います。
「夏のレプリカ」
「数奇にして模型」
「有限と微小のパン」
「黒猫の三角」
「人形式モナリザ」
「月は幽咽のデバイス」
数奇で模型? 有限で小さいパン? てな感じで、この単語の間にあるギャップに謎めいた魅力を感じます。「夏のレプリカ」は、ギャップがありつつもどこかノスタルジックな予感がします。
(2)ミステリアス、或いは特徴的な単語を一つポンと放り込む
「すべてがFになる」
「魔剣天翔」
「六人の超音波科学者」
「捩れ屋敷の利鈍」
これは綾辻さんの館シリーズのように、想像をかきたてられるような単語を一つ放り込むことで読者を引き付けるパターンだと思います。魔剣、超音波科学者、捩れ屋敷、いかにもなにかが起こりそうなシチュエーションですね。
「すべてがFになる」は(1)との合わせ技でもありますが、「F」という一文字に全てが込められていると感じたのでこちらに分類しました。他のシリーズになりますが、「女王の百年密室」も合わせ技でミステリアスですよね。女王で百年で密室ですよ。タイトル買いしたくなっちゃいませんか?
(3)韻を踏んでリズムを生み出す
「詩的私的ジャック」
「幻惑の死と使途」
「恋恋蓮歩の演習」
「朽ちる散る落ちる」
どうですか。声に出して読みたいタイトルじゃありませんか?
これもなかなか難しい手法だと思いますが、次は更に特殊で難解です。
(4)言葉遊び
「封印再度」(Who inside)
「夢・出逢い・魔性」(You may die in my show)
うまいですねえ。これは流石に真似したくてもできません。でも、あわよくば、狙ってできたら楽しいですよね。
(5)その他
「冷たい密室と博士たち」
「笑わない数学者」
「今はもうない」
「赤緑黒白」
これまでの分類に含まれなかった四作です。
「今はもうない」は、会話文で用いられるような言葉を敢えてタイトルに使うことで印象に残りやすくなっているのではないでしょうか。京極夏彦さんの「死ねばいいのに」も同じタイプだと思いますが、一度聞いたら忘れないタイトルですよね(笑)
S&MシリーズやVシリーズの続編にあたるGシリーズでは、「θは遊んでくれたよ」「τになるまで待って」「ηなのに夢のよう」などなど、これと(2)の合わせ技とも言える面白いタイトルがつけられています。
「赤緑黒白」は、一見ただの四つの色なのですが、まったく単純に並べられていることで、逆に謎めいた印象を受けませんか?
また、赤と緑はお互いに補色の関係にありますし、黒と白は明暗で分かれていますよね。
「冷たい密室と博士たち」「笑わない数学者」は、タイトルだけで言えば地味ですね。内容については、どちらも冷凍室やプラネタリウムといった魅力的な密室殺人が軸となっていて、とても面白いのですが。
さて、いかがでしたか?
森博嗣作品の魅力的なタイトルをただ分類してみただけではありますが、こうして整理してみると、次はこの効果を狙ったタイトルをつけてみようという意識を持てるようになってきませんか?
少なくとも私は、次の作品からはなるべくこの何れかのテクニックを意識したタイトルをつけていこうと考えています。
私と同じくタイトルを考えるのが苦手な作者の皆様にとって、少しでもヒントになるものがあれば幸いに存じます。