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底有り沼
校舎の屋上。街が背景。
キミはその街を抱くように両手を広げて言う。
「私は何でも持っています。
地位も、名声も、財力も。今は借り物ですが、いつか私のものになります。
きっと将来の結婚相手すら、いつか用意されるでしょう。
私は何でも持っているんです。
けれど、そんな私も持っていないものがあります。
いや、もしかしたらそれは、失うことかもしれません。
けれど私はそれが欲しいのです。それを捨てたいのです。
春のように浮き立つ恋。一夏の夢のごとく儚き恋。
秋の夕暮れのような切なさ。冬の雪景のような純潔。
春を思う時期にしか持てないその純潔を、すべて捧げたくなるほどに愛しい感情。
私はそれが欲しいのです。きっとこのままでは手に入らないそれを、私は求めているのです。
そして、私はそれを、もう少しの勇気で手にいれることが出来るでしょう。
……ねぇ、先輩?
私と、過ぎ行く泡沫のごとき恋をしませんか?」
……僕は報われない恋愛を受け入れる。