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無題
私は謳おう。
あなたは地の底、虚空の闇、
すべての善の双子でありすべての人の陰。
光の前に闇があり、水面に映る影がある。
肉を歓び欲を尊び、邪を愛でる闇の子よ。
来たれ、来たれ、来たれ。
私は天を踏み地を頭上に戴く。
血を呑みくだし、あなたに淫し、業を孕もう。
地獄の孕み子よ。
ジュデッカ、トロメーア、アンテノーラ、カイーナ、
プレゲドン、ハーデス、ステュクス、アケロンの住人よ。
セフィロートの鏡よ、実像を喰らう虚像たちよ。
罪びとを打ち据え、偉大なる堕星に仕えども、
あなたに名はなく、あなたに姿はなし。
嗚呼! 堕星のみどりごよ、罪の枝葉よ。
アドナイ、エル、エロヒム、エロヒ、エヘイエー、アシェル、
エハイエー、ツァバオト、エリオン、イヤー、テトラグラマトン、シャダイ、
言葉より先にまします主の名において、
あなたを呼び、あなたの力を願う。
「…………そう。そうだ。恐れないで。畏れないで」
「欲に身を任せ――すべてを信じるんだ」
「そうすれば、君の願いは叶えられる」
「天使は厳しい。けれど、悪魔は優しいのさ。とても。とても……」