間話 公園に至るまで
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「ただいま」
「おかえり、ママ。イギリスはどうだった?」
「きれいなところだったわ。大学や美術館の方々もよくしてくれたし。はい、おみやげのお人形とチョコレート」
「わあ、ありがとう! フランス人形だ!」
「ビスクドールっていうのよ。フランスだけのものじゃないんだから。お義母さんはもう帰られたかしら」
「うん。おじいちゃんのごはん作りに戻るって」
「私がもう帰ったって連絡しなくちゃねえ。なにか変わったことはあった?」
「えーとね、お兄ちゃんからすごい電話かかってきた。お母さんはいるかって」
「あら」
「だからね。ちゃんとわたし、ママはイギリスだよって答えたよ」
「いい子ねえ。他になにか言ってた?」
「なにも」
「そう。ならいいわ。お兄ちゃんへの誕生日プレゼントがちゃんと届いたのね」「わたしもね、お兄ちゃんに『お誕生日おめでとう』っていったよ!」
「まあすてき。お兄ちゃん喜んでたでしょう」
「喜んでたけど、それどころじゃないって怒られた」
「あらあら。忙しいのかしらねえ。さ、元気出して晩ごはんにしましょ」
「おばあちゃんがカレー作ってくれたんだよ」
「ありがたいわ。今日はおばあちゃん特製カレーね」
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「おはようございます! 朝です! 朝チュンです!」
「用法が違うわねえ。ほら、朝よみなさん。起きて起きて」
「我は眠いのだ。寝かせろ」
「目と鼻の先でお魚の胆汁をいぶすわよ」
「起きる」
「いまから朝のラジオ体操とサバクンジャーと行わなければならないのです! 寝ている暇なんてありませんよウリエルさん!」
「あれ、城太郎がいない」
「なに? あの小童が?」
「トイレじゃないかしら」
「たいへんです! トイレにもお風呂にも我が主がいらっしゃいません!」
「いまこそウリエルの視力を頼るときかな」
「馬鹿言え。小童の姿をただ追うのとはわけが違うぞ」
「しかたないわねえ。何かに巻き込まれてるといけないし。手分けして探しにいきましょうか」
「そうだね。まあ、血の聖書は持っているだろうし、よほどのことには対応できると思うけど……」
「また佐久島樹里みたいな厄介なのに絡まれていてはいけません!」
「こんな朝から動くような女には見えなかったが」
「ありえます! あの悪の権化のような女ならありえます!」
「ミカエルに相当嫌われているようだね、彼女」
「こうしてはいられません。天使戦隊エンジェルレンジャー、出動です!」
「って、ちょっとミカエルちゃん! パジャマのまま飛び出しちゃダメよ!」
「……行ってしまったね」
「行ってしまったな」
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