第五話
かなり個性の強いギルドマスターの登場です。これから個性あるNPC達も登場します。
誤り等がございましたらすみません。
「すみませんでした!、ごめんなさい!、申し訳ございませんでした」
ギルドメンバーの証を見せた後、アリスの息継ぎもしていないような凄まじい謝罪が数分も行われた。
それはもう取りつく間も無いような勢いだったが、ソラが強引に止めた事によりようやく収まった。
「アリス」
ソラは少し遠慮がちにアリスを呼ぶとブルッと身体を震わせて「はい」と、若干暗く俯かせていた顔を上げる。
これではまるで自分が悪者みたいではないかとソラは思ったが、元を辿れば自分が悪いと自覚すると申し訳ない気持ちになった。
「謝るのは俺の方だ。いきなり容姿が変わっていたら誰でも疑うのは当たり前だ。すまない」
ソラは頭を下げる。それを見たアリスは慌てて否定する。
「悪いのは私の方です!。ソラ様は何も悪くなんかありません。至高の方であるソラ様を見抜けなかった私のせいです。そもそもマスターの言い付け通りに行動していれば、こんな事には……」
アリスがまた顔を俯かせるが、そこでアリスが言った最後の言葉にソラは反応する。
「マスターっていうとロリコさんの事か?。言い付け通りとは何だ?、ロリコさんは近くにいるのか?」
ソラの言葉に顔を上げたアリスは「はい。マスターはこの森の中にいます。この森周辺の警戒とこの森に入る者がいた場合危険因子を持っていなければ友好的に連れてくるよう言われました」と言った。
何故ロリコさんがこの森の中に?、連れてくるようにとはどういう事なのか?。
ソラは疑問に思うがそれは本人に会えば分かるとして一旦置いておく。
ここで問題なのはやはりこの得体の知れない異常事態だ。
ここは本当にゲームの中なのか。
ソラは目の前にいるアリスを見つめる。
体温が上昇しているのか少し頬が赤い。それに瞳が少し濡れて輝いているように見える。いや、実際輝いているのだろう。
そこでソラはアリスの視線がまるでこう可愛いものを見るような目だなと思ったが、とりあえず今はロリコさんに会う事が先だなと頭を振るう。
断じて視線に耐えられなかった訳じゃないと頭の中で思いながら。
しかし、ソラは気づかない。自分の容姿がどれ程のものなのかと。後にそれが原因で非常に厄介な事が待ち受けている事も。この時のソラは気づかない。
「アリス。ロリコさんのところへ案内してくれないか?」
その時が来るのはもうすぐだという事も。
◇ ◇ ◇
薄暗い森の中をアリスを先頭に進む中でソラは足元に気をつけながら周囲を警戒する。
アリスがいる以上“森の中”での戦闘は別段そこまで心配する必要は無い。それに、先ほどの発言で推測するにあらかたこの森はアリスの手中にあるだろう。
しかし、しかしだ。
どうしても疑ってしまうのだ。
NPCがこうも人間性のある、本当に命が宿って生きているかのような姿は信じられない事だ。
表情を変え感情を出し会話の受け答えをする、更には自分で考えて行動をする。
ギルドマスターのロリコさんの指示で動いていると言ったが、果たしてそれが本当なのかわからない。
だからこそ疑ってしまう。
ソラは後ろからアリスを見つめる。
そこである事に気がついた。
目の前にアリスの太ももーー絶対領域が丁度目の高さにある事に。
ソラは雷に打たれたかのような衝撃を受ける。
アバター変更をした事により身長が縮んだのだ。それで偶然にも丁度アリスの太ももの高さに自然と視線がいくのだ。
うお!、何ていう事だ。
何という素晴らしい光景だ。
ほどよく引き締まった柔かそうな太ももにそれを上から締め付けるストッキング。更にはそのストッキングと短いスカートの間から見える神の領域。もう一度言う、神の領域。
それが今目の前に、手を伸ばせばその神にしか許されない領域に触れられる。
これは〈中級魔法・爆発〉並みの破壊力がある。
思春期男子には非常に厄介な事態だ。
俺の理性よ持て、NPCに欲情してどうすると自分に言い聞かせソラは己の理性を奮い立たせる。
そこでふとギルドの仲間を思い出す。
リアル・ニート・デイコーゼははっきりといって変態変人どもしかいない。ギルドメンバーの全員は一癖も二癖もある。例を上げると熟女好きや幼女至上主義者、挙げ句には男の娘しか駄目な者までいる。
だが、チェリーボーイなソラにそんな勇気は無い。
ならばせめて、目に焼き付けて脳内保存だと目をカッと見開く。
「着きました」
「はい!。焼き付きました。ありが……いや、すみませんでした。えっ?」
ソラは自分の下劣な視線に気がついたのかと思い慌てて頭を下げて謝るが、声から察するに何だか違うと感じると頭を上げる。
そして驚愕をする、目の前の風景に。
「ここがロリコ様がお造りになられたロリータ街です」
そこには街があった。
まだ造りかけなのだろう小さいが街と呼べるぐらいの規模だ。
ソラが自分の中で激しい葛藤をしている間にいつの間にか着いてしまったようだ。
呆然としたソラにアリスは「さあ、行きましょう」と明るい笑顔で言った。
◇ ◇ ◇
やはり街はまだ造りかけなのだろう。
アリスと共にギルドマスターの欲望が見える何とも恥ずかしいような街の名前を思い浮かべながら街の風景を見回す。
外敵から身を守る為の壁や門も無い、建物も少なくまだ造りかけのような屋根が半分しかない建物もちらほらある。
しかし、しばらく歩いていると一人二人と徐々に人とすれ違うようになっていった。
人、正確に言えば人と呼べるが人間ではない。
背はソラより少し高いくらいで顔は毛に覆われており身体はがっちりと筋肉質である。
ドワーフ、それが彼らの正体だ。
一旦立ち止まって此方、おそらくアリスに向かって頭を下げるといそいそと走って行く彼らの後ろ姿を見送る。
次第にすれ違う回数が多くなりドワーフだけではなく、巨木を思わせるような太い腕に焦げ茶色の肌、大きく突き出た牙と醜悪に満ちた顔にはち切れんばかりのような分厚い筋肉を持つーーオーガや、美しい容姿の女性だが腰から下が蜘蛛の胴体をしたーーアラクネ。更にオーガの三メートルぐらいの身長より三十センチ程低い豚の顔を持つぶくぶくと太った腹が服の下から出ているオークに、先ほどのドワーフと同じぐらいの身長に醜悪に満ちた顔、平べったい耳と鼻に裂けた口のゴブリン。
他にも蝙蝠のような翼を持つ者や全身が赤い鱗に覆われた者、骨の身体を持つ骸骨など様々な種族が街の中心に近付くにつれ多くなる。
すれ違った者達は全員が一旦立ち止まってアリスに頭を下げる。
この様子からどうやらアリスはかなり偉い立場のようだ。
チラチラとおそらく自分に向けている視線に妙な緊張を感じながらも、先ほどとは違った街の風景に意識を向ける。
こちらの方は完全に出来上がった建物と街道があった。
更に進めば進むほどもはや違和感も無い完全な街の風景になっていった。
街の住人達と風景を視界に入れながら一際大きく立派な建物の前に着くと、その建物を囲う壁に門の側に立つ鎧を来た屈強な赤い毛を生やした人型の狼に近付く。
直立不動の人型の狼にアリスは一言二言話すと、人型の狼が門を開ける。
アリスが門を入るように促すとソラは緊張した足取りで門を通る。
そして、建物の入り口の扉を開けたアリスに催促されて中に入る。
建物の中は質素だが、置かれている家具や調度品は見ただけで分かるような高級感に溢れる一級品の物であった。
「ソラ様。ロリコ様はこの建物の三階に居られます」
ソラは視界の端に見える階段を捉えるとアリスの目を見て「わかった。ここまで案内してくれてありがとう」と頭を下げる。
慌てたようにアリスは「めっ、滅相もございまちぇん。至高の方々に全身全霊全てを捧げ忠義に尽くすのは、わっ、私達のよころびちぇすから」と、かなり噛みながら必死に言う。
まだあのときの事を引きずっているのかと思いソラは感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と言い、階段に向かって足を進めしっかりとした造りの階段の上を上がる。
その後ろにアリスも続き階段を上る。
三階に着いたソラは“いかにも”な繊細で豪華な加工が施された扉を発見する。
アリスが「少々お待ち下さい」と言い残すと、扉をコンコンと規則正しく手の甲で叩くと「失礼します」と断りを入れてから入る。
ソラは待っている間街の活気のある風景を思い浮かべながら待つ。
そして、数分が経過して扉が開くとアリスが「お待たせして申し訳ありません。ロリコ様がお待ちです。中へ」と空いた扉の脇に立ち頭を下げる。
ソラは頷くとしっかりとした足取りで中に入る。
まず目についたのは赤い豪華な絨毯。次に意外と広い空間を飾るかのような壁に掛けられた一級品を感じる絵画や壺などといった調度品の数々。
最後に正面にある純金製の赤や青の宝石類を埋め込んだ椅子。
そして、その椅子に堂々と座っている人物。
「よく来たのぅ。ご苦労様なのじゃ」
鈴の音のような少女特有の声色が空間内に響く。
「随分と可愛らしい姿じゃのう。妾の伴侶にしたいぐらいじゃ」
正面の椅子に座る人物を見るとそこには十二か十三くらいの白い肌にピンク色の髪の少女がこちらをキラキラとした緋色の瞳で見つめていた。
彼女……いや、“彼”こそリアル・ニート・デイコーゼのギルドマスター、ロリコ。
“現実”では今年で四十になる正真正銘の男である。
長く尖った耳をピクピクさせてリボンとレースのついた黒と白のゴスロリ服を着た、アリスと同じ可愛い類の容姿だがその美はアリスを超える。
しかし、何度も言うようだが中身は今年で四十になるおじさんである
主要なNPCが大体決まりました。
一応八人くらいを出す予定です。
お読み頂きありがとうございます。