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第二話

誤り等がございましたらすみません。





 意識が徐々に回復していき視界が鮮明になっていく。



「…………あれ…?」



 そこで違和感が生じる。



ーーー何で意識を失っていた?。



 ソラは転移石を使った瞬間意識を失った。

 それは非常におかしい事だ。

 転移石は使用中、視界が白い光で覆われ目的地に着いたらすぐにその光が消え視界が回復する。なのに、先ほど使用した時は視界が何故か“真っ暗”になり意識を失った。

 

 バグか、エラーか?。


 いや、そんなことは無いはずだ。

 ソラは頭の中で否定しながらゆっくりと身体を起こすと周りを見回す。

 

 そこには緑が広がる“草原”の姿があった。

 

 おかしい、何で草原なんだ。

 

 ソラは激しく動揺しながらも必死で状況を理解しようと頭を回す。

 まず、転移石が上手く発動したのなら転職屋にいるはずだ。仮にエラーなどで失敗したのなら転移する前のあの森の中にいなければおかしい。

 次に“匂い”だ。

 冷静になって気付いたが、先ほどから風が通り過ぎる度に青臭い草原の匂いを感じる。それに風を肌で感じ取る事が出来る。

 

 転移石もそうだが、それよりも更に疑問を覚えるのはこの匂いを嗅ぎ取る嗅覚と風を肌で感じ取る触覚である。


 いくら驚異的なVR技術でも、さすがにここまでリアルな人間の五感を再現する事は難しいだろう。

 まだVRMMOが開発されて日が浅いはずだ。流石にそこまでの段階には至っていない。

 それとも、本当にそこまで行ったのだろうか?。



 ならばためしだと自分の頬を力一杯につねる。



「痛ぁーー!」



 激しい痛みを感じすぐさま手を離す。

 じんじんと痛む頬を押さえて驚愕に目を見開く。

 まさか痛覚まで再現されているとは、しかもかなり痛い。いや、感度が高いと言った方がよいか。


 しかし、ここまでとなるとおかしいと思う反面、凄すぎると感じてくる。

 本当にここまでVR技術が発展したのか?。

 人間の五感をここまで再現するとは本当に凄いと、感動の余り身体が震える。



 そこで不意に何かがこちらに近付いてくる気配を感じた。



 その気配がする方に視線を向けると、そこには緑と少しの茶色が入った大きな生物がこちらに向かって来ていた。

 目を凝らして見るとその生物の正体が大きい熊だと分かった。

 その熊はグリーンベアと呼ばれる初心者向けの初級モンスターだ。

 

 そうなるとここは初心者向けのフィールドか?と、首を捻るがとりあえず目の前の敵に集中するかと、右手を前にかざし力強く言い放つ。



 「〈初級魔法・火球ファイアーボー ル〉」



 右手から炎の球体が出現しグリーンベアに向かって飛んで行った。炎の球体はグリーンベアに命中すると同時に勢いよく弾け飛び、内部に溜め込んでいた炎を撒き散らす。

 飛散した炎はグリーンベアを瞬時に包み込み四散した。

 それは一瞬の出来事で、グリーンベアはその巨体ごと跡形もなく消し飛ぶ。残ったのは焦げ残った肉片のみ。



「ふぅ……」



 思わず溜め息が零れるが、それは目の前の急な光景によって驚きの声に変わった。



「えっ……!」



 何と目の前で草原の草が燃えていたのだ。先ほどグリーンベアに放った〈火球ファイアーボー ル〉によって飛散した火によるものだ。

 その現象は至極当たり前の事で、草に火を付けたら当然燃え始め引火する。

 しかしそれは“現実”の場合だ。

 ここはゲームの中、そんなことは起こり得ないし、仮に起きたとしても今までそんなことは一度も起きた事がなかった。

 


(ここまでリアルになるものなのか?)



 今まで森林や草原の中で平気で炎魔法などを使っていたが、引火などはせず燃え上がる事なんかは全く起きなかった。

 “ゲーム”だから。

 そのようなプログラムが組み込まれていたのなら話しは別だが、とにかくだ。このままでは火の手がいずれ広がり大火事になるので急いで消火をする。



「〈水球ウォーターボール〉」



 再びかざした手から今度は水の球が出現し、草を燃やして大きく燃え上がる炎に向かって飛んで行った。

 〈火球ファイアーボール〉と同じボール系の初級魔法だ。

 燃え上がる炎に水の球体が命中すると、先ほどと同じように弾け飛び飛散する。

 だが今回は水の為、水が飛び散る。


 続けて二回三回と〈水球ウォーターボール〉を念入りに放ち、やっと鎮火する。



「……疲れたな」



 魔法を使い終わった後、今まで感じたことのない妙な疲労感に襲われた。身体の中にある何かが失われたような疲労感。

 妙な疲労に戸惑うも、もしかして魔力か?と考える。

 そんな筈がないと簡単に流そうにも何だかわからないが妙に引っ掛かる。


 それに、草が燃えるのもそうだが、それを鎮火する事が出来るという事実もそのまま流す事は出来ない。


 ソラは頭を抱えそうになりながら、ふっと振り向くとまたもや何かがこちらに近付いてくるのが視界に入る。

 今度は何だと目を凝らすと段々とその正体が分かって来た。



 狼だ。しかも集団で群れを成した狼がこちらに向かって走って来ている。

 目を走らせてさっと数えると十から十四体ぐらいだ。体毛は薄い緑色で、現実の狼よりやや大きい。

 グリーンウルフ、先頭にいる群れの中で一番大きい個体が恐らくこの群れのボスだろう。


 怖っ。


 例えグリーンベアと同じ初級モンスターでも、いきなり集団で来られるとビックリする。

 だが、所詮は初級モンスターだ。

 魔法で容易に蹴散らす事が出来るが、先ほどみたいな火事になると面倒だ。

 他の属性の魔法を使えば済むが、先ほどの火事の様に今日のゲームは“何か”が変だ。

 それに魔法を使用した時に感じた妙な疲労感も気になる。

 

 ここは剣でやろうと背中に差してある二本 の剣の柄を握る。

 正面から対峙するように移動すると、腰を低くして身構える。

 そして、グリーンウルフが剣の間合いに入ると勢いよく剣を抜き放ちーーー …………。



「あれ?」



ーーー剣が抜けない?。いや、抜けるには抜けるが腕の長さが足りない?。



 三分の二の長さで止まってしまう。カチカチと何回も上下運動、抜き差しを繰り返すが結局抜けない。



(おかしいぞ)



 ソラは冷や汗を流す。

 どう考えても腕の長さが足りない。

 そういえば身長も縮んだような気がするとこの時ソラはようやく気がつく。

 目線が低くなり、背中に差している剣がやけに大きく感じる。



「変だ……な……あっ!?」



 そこでやっと自分の声までもが変わってい るのに気付く。

 鈴の音のような、女性特有のソプラノのような声。

 そうだ。



ーーーアバター変更したんだ!。



 度々続く異常な事態にすっかり気付くのが遅れてしまった。

 剣を抜く為の腕のリーチを全く考えてなかった。これは作成ミスだ。



「ガウゥ」

「うおっ!」



 ソラが慌てているところへ、先頭にいた大きい個体が牙を向けて襲いかかって来た。

 とっさに右に飛ぶ事で回避に成功する。

 改めて自分の今の状況を理解し、己を叱咤する。

 今は動揺している場合ではない。初級モンスターでも油断は禁物だ。戦いの場で気を抜いていると取り返しの付かない事になる。


 気を取り直して再び対峙する。

 こう接近されたら魔法だと分が悪い。

 剣は抜けない魔法も駄目、そうなると必然的に体術がくる。


 右腕を引き腰を落とすと勢いよく目の前のグリーンウルフに向かって飛び出す。



「〈初級拳闘術・正拳突き〉」



 飛び出した勢いを乗せた右腕をグリーンウルフの眉間に振り抜く。

 拳が眉間に直撃した瞬間、頭蓋骨もろとも頭が潰れる感触が拳を通じて感じた。

 グシャッと言う不快な音も続けて起こる。


 そこでまた何回目になるのか分からない違和感がまた生じる。

 拳から伝わった感覚が、やけにリアル過ぎた。

 グリーンウルフの巨体が倒れ絶命するのを見届けながら己の右手を見る。



「……」



 今まで感じたことのない感触。

 これがいつもなら当たったみたいな軽い手応えで済むのだが、今のは現実味が有りすぎ た。

 仲間の狼達に視線を向けると、動きを止め怯えたように身体を揺らしていた。

 その目には明らかに恐怖の色があった。


 おかしい。


 今までモンスターに恐怖、ましてや感情が出ている所なんて見たことが無い。

 とっさに頭に浮かんだ言葉を否定する。



 しかし、どうにもその言葉を完全には否定する事が出来ず判断に迷う。

 そこで不意に動きを止めている狼達に顔を向ける。


 こうなったら試してみるか?。


 そう思うとソラは今所持しているスキルを発動する。



 「《威嚇:初》」



 このスキルは自分より弱い、または自分よりレベルの低い相手のステータスを一時的に下げるスキルだ。

 一部のスキルにはそれぞれレベルに比例して強度があり下から初、下、中、上、最上、超となる。


 通常ならただステータスを一時的に下げるだけだが……。

 《威嚇:初》スキルを発動した直後、狼達は飛び上がるように身震いをすると 一目散に逃げて行った。



「えっ……!」



 その今起きた光景をソラはただ呆然と見届けた。

 何度も言うようだが《威嚇》スキルは相手のステータスを一時的に下げるだけだ。

 決して、相手を追い払ったりするようなスキルではない。



 「これじゃ……まるで……」



 本物の……現実の威嚇。

 相手を怯ませたり脅したりする行為。

 ステータスが下がったかはわからなかったが、先ほどの様子だとこの《威嚇》スキルは相手を怯えさせ追い払う事も出来る。


 不意に血なまぐさい匂いがソラの鼻に付く。


 その匂いの元を辿ると、そこには先ほど倒したグリーンウルフの死骸が今も残っていた。

 通常倒したモンスターはポリゴンとなり四散する。それが起こらず死体がそのまま残っているのだ。


 これは大いに異常と言える事態だ。


 他にも不審な点はいくつかある。

 

 転移石の不具合による転移誤差、嗅覚や触覚と言った人間の五感、火事というリアルな現象、狼達の恐怖と言う名の感情。

 そして、リアル過ぎる感覚や感触、死体の残る現状。


 この事から可能性が高いのはーーーバージョンアップか、はたまた大型アップデートだろう。


 それなら確かに様々な各種設定やコンテンツ、システムやプログラムなどが追加されてもおかしくない。

 転移石もきっと、バージョンアップ中の状態で使ったからエラーが出て不具合が生じたと思えば納得がいく。


 しかし、それならそうとバージョンアップ の知らせぐらい普通は出す筈である。

 そうじゃないとソラみたいに困惑するプレ イヤーが次々に出てくる。


 ここで不自然に思うのは何で何も知らせを出さないんだと言う事だ。


 そうなるとまだもう一つの可能性があるが、まあいいかと頭の隅に追いやる。


 今日の目的はあくまでイベントクエストである。

 色んな事があったが今は当初の目的を果たそうとメニューウィンドウを開く。

 

 まだ間に合うかな?と、クエストの項目を見るが、



「あれ?」



 クエストの項目が“消えていた”。





お読み頂きありがとうございます。

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