第四話 正体不明
――同日・2017年6月13日夕方・フランス・パリ――
未確認機のパリ襲撃から20分後、WAP欧州陸軍、第117陸戦歩兵中隊が到着した。
そのころには上空の楕円形の未確認飛行物体は姿を消し、空には何もなかった。
そこに濃いグレーの四輪装甲輸送車が次々と来る。
《第117陸戦歩兵中隊よりHQ、指定座標に到着。これより未確認機の捜索に移る》
《HQ了解。小隊単位で行動せよ。尚未確認機には既に攻撃命令が出ている。生かして帰すな》
《了解》
中隊長は短く頷くと無線を切り替え、中隊に繋ぐ。
『HQによると、国籍不明の無人兵器との情報だ。だが攻撃命令は既に出ている。躊躇わずに撃破しろ!』
『『了解ッ!』』
『第三、第四小隊はエリアB。第五、第六小隊はエリアCを捜索。第一、第二小隊は俺と一緒にエリアAだ。繰り返すが、発見次第撃破せよ。遠慮はいらん。以上!』
『『了解!!』』
威勢の良い返事の後、各小隊は別れてゆく。
「しかし中尉……これは酷い有様ですね……」
歩兵の一人が言う。
街は血まみれの死体で埋め尽くされていた。
死体は切り裂かれ、車はあちこちで炎上し、ビルは真っ赤に燃えていた。
「街一帯が壊滅か……恐らく相当数の敵が潜んでいるだろう。警戒を怠るな――」
中隊長が言いかけた時、物音がした。
「フレアドル中尉!! 例の未確認機を発見! 数は……およそ20ッ!」
ある歩兵が叫ぶ。
それは、まぎれもなくロボットとしか呼べない物体だった。
「威嚇射撃は不要だ! 撃てぇ!!」
全隊員が路上の輸送車を盾に身をかがめ、突撃銃を撃つ。
辺りに銃撃の音が鳴り響く。
《第117中隊接敵ッ! 撃破を試みる!》
フレアドル中尉は無線で報告をする。
その間も射撃を続けるが、敵は怯む様子が無い。
確実に当たってるはずだった。
だが容易に倒れることはなく、高くジャンプしながら迫ってきた。
「中尉! とび跳ねて、狙いが定まりません!!」
フレアドル中尉の隣の隊員が言った。
「なんという機動性だ! いかん!敵が――」
そして謎の無人兵器はあっという間に装甲輸送車に接近し、歩兵を狙う。
「来るなッ……うぎゃああぁぁ!!」
そして素早い動きで翻弄され、1人の歩兵が斬られた。
腕が舞い、血が噴き出す。
その歩兵に眼を奪われる一瞬で、腹を、腕を、足を、胸を、首を切られ、5人の人間の血が噴き出した。
一瞬にして状況は地獄と化した。
『駄目だ! 一旦後退する! 早く輸送車に乗り込め!!』
そう言っている間に、隣にいた副隊長の体が水平に真っ二つになった。
次は自分かと一瞬のうちに考えたが、その無人機は別な隊員を襲った。
その事に一瞬安堵感を覚えたが、そんな暇はない。
フレアドル中尉他、生き残った何名かは輸送車に乗り込んだ。
あっと言う間に味方は壊滅寸前まで追い込まれたのだ。
「くそ、我々がこうも簡単に……! なんなのだあの化け物は……おい何してる! 早く車を……」
出せ、とフレアドル中尉は言おうとした。
だがそれは不可能だったのだ。
運転手は輸送車の装甲ごと体を突かれていた。
死んでいたのだから。
「ッ!?」
そのままロボットは輸送車の装甲を引裂き、車体を真っ二つにした。
「ば……かな……ッ! 重機関銃をものともしないこの装甲が……!」
フレアドル中尉は、もう絶望しか感じていなかった。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁッ!」
やがてその場にいたフレアドル中尉他数名はその”ロボット”に殺された。
だがその場からまだ一人生き残った者がいた。
「はぁ……はぁ……本部に……知らせないと……!!」
必死に走りながら無線を探し、本部に連絡を入れる。
《HQ! HQ!! 中隊は……自分1人を残して全滅!! すぐに応援頼む! この装備じゃ――うわッ! 来るなぁぁぁぁッ!!》
その隊員は、無線中に敵に発見された。
無線からは突撃銃の音が激しく鳴り響く。
《第三小隊応答しろ! なにがあった!?》
しかし本部の呼びかけもむなしく、
《だめだ! 効かないッ!? ぎゃぁぁぁぁ!!》
第117陸戦歩兵中隊は完全に全滅した。
――――
それから、第441陸戦歩兵中隊が派遣されるも全滅。
第88爆撃航空団の航空爆撃の後、後続の第17戦車連隊の砲撃と随伴歩兵の攻撃でかろうじて敵の殲滅に成功した。