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第三話 パリの惨劇

――非常招集前日・2017年6月13日夕方・フランス・パリ――



 照りつける太陽が、この街を照らす。

 時刻は夕方ごろ。

 この日も都会の名にふさわしいにぎわいぶりで、街は活気に満ちていた。


 そんな中、大通り特有の信号待ちの車の渋滞に悩まされている男が1人。

「はぁ~……長げぇ~……」

 とため息を吐きつつ、開けた窓から右腕をだらんと垂らす。


 今日は6月にしては暑い方だが、まだ夏にもなっていないのに車内のクーラーを動かす気にもなれなかった。

 結果、窓を開け、空気の入れ替えを頻繁に行う事で車内にたまった暑苦しい空気をどうにかしようという事になった。


 だが、こうも止まってばかりでは、それも効果は望めない。

 男の車はワゴンでも軽でもなく、普通の大きさだ。


 それゆえか、目の前に止まっている巨大なトラックの荷台に圧迫され、さらに暑苦しく感じる。

 こんな時、目の前に海でも広がっていれば、ちょっとはマシな気分になるんだろうなと、男は暇ゆえにどうでもいいことを考え始める。


 それにしても、長い。

 せっかく会社を早めに切り上げてきたのに、なんだか無駄になってしまいそうだった。


「まあ、いくらなんでも夜までにはつくだろ」

 そう言いつつ、男は補助席においてある綺麗に包装された箱を横目でちらりと見る。

 今日は、娘の11歳の誕生日だった。

 だから会社を早めに上がり、プレゼントを買って帰るつもりだったのだ。


 しかし、いつもはこんなに混んでいないはずだ。

 なんだってこんな時に……と、またため息をつく。


――――


「おかしい……」

 男が異常に気付いたのはその時からだった。


 いくらなんでも長すぎる。

 あれから一回も進んでない。


 交通事故でもあったのだろうか。

 そう考える。

 そんな時、彼の携帯に電話が掛ってきた。

 待ち受けには『アンディ』と表示されていた。


「もしもし?」

「よっ、セルゲイ。愛しのチャーリーちゃんの誕生日プレゼントはもう買ったのか?」

 仕事の同僚からだった。


「残念ながらもう買ったよ。お前なんかに選ばせてやるものか」

「ちぇっ、それよりそっち、渋滞に巻き込まれてない?」


「ああ。なんで知ってるんだ?」

「実はさ、その辺にUFOが現れたってちょっとした騒ぎになってんのさ。それで渋滞」


「はぁ? UFO如きで? そんな下らん理由で待たされてんのかよ……」

「いやいや、今回のはマジ凄いんだって。なんたって――やべ、店長だ、一旦切るぞ!」


「あっ、おい……切れたな……」

 男、セルゲイは携帯をポケットに閉まった。

 UFO、という話を思い出して、ふと窓の外を見る。


「おい、あの辺じゃないか?」

「なんか、すごいUFOがいるらしいね~」

「すっごい人、これみんなUFO目当て?」

「これ絶対世紀の大発見だって!!」

「くそ、ビルが邪魔で見えないぞ。もっと近くまで行ってみようぜ!」


 少し耳を傾けると、こんな声が聞こえてきた。

 どうやら、本当にUFO騒ぎで渋滞になっているらしい。


 だがセルゲイは、そんな物に全く興味は無かった。

 むしろ、そんなどうでもいい物の為にこの無限地獄を体験していると思うと非常に腹が立ってきた。


 実際、UFOなんていようがいまいが関係ない。

 空の彼方で不規則な動きをしてる豆粒みたいな光点が何だというのだ。


 その時突然、地響きのような野太い音が耳に届く。


「ん?」

 本当に交通事故でも起こったのだろうか。

 または爆弾テロか。

 セルゲイは右に体を乗り出し、音のした方を見る。


 煙が上がっていたのだ。

 やがて、その煙は衝撃と共に2個、3個と徐々に増えていき、かつだんだんこちらへ迫ってきていた。


「おいおい……やべぇ!」

 気が付くと周囲の声もUFOに関する物から悲鳴に変わっていた。

 セルゲイは鞄とプレゼントを掴み、車を降りてその場から離れようとした。


 だが、そこで信じられない物を見て思わず動きがとまる。

 今までトラックの陰になって見えなかったが、”それ”はいつの間にかそこにいた。


「な……んだ……? あれ……」

 それは雲ではなく、飛行機でもなく、まして鳥でもない。

 もっと巨大な、空に浮く”物体”だった。


 グレーの楕円形で、ラグビーボールを上から押しつぶしたような形をしていた。


 その奇妙な飛行物体が、ちょうど大通りの真ん中付近を飛んでいた。

 しかも、一個ではない。

 その”飛行物体”を先頭にして六隻ぐらいが並んで飛行していた。


 だが、それより恐ろしいものがあった。

 大通りを進む、謎の黒い物体。


 遠くて良く見えないが、明らかに車を、……そして人間を襲いながら進んでいる。

 セルゲイが飛行物体、そして黒い物体を見て立ちすくんでる間にも、大勢の人間が通り過ぎ、逃げていく。


 ここでセルゲイはようやく我に返り、踵を返し一目散にダッシュした。

 車と人を掻きわけ、我先にと走り出す。

 だが、人が多すぎて思うように進めない。


 後ろを振り返る。

 飛行物体は未だ上空で睨みを利かせ、黒い物体は血しぶきと黒煙を巻き上げながら確実に迫っていた。


 だが大きな橋を越えたところで、目の前から血相変えて走ってくる人だかりが見えた。


「うわぁぁぁ!! 助けてくれぇぇ! 黒いロボットが!!」

 錯乱した若い男が頭を抱えながら走ってくる。

 その若い男を、中年の会社員が止める。


「向こうにもいるのか!? くそッ!」

 セルゲイは言いつつ後ろを振り返る。

 黒い波は、すぐそこまで迫ってきている


「くそォ! こっちだ!! こっちに逃げるぞ!!」

 先ほどの中年の会社員が、細い路地へと走ってゆく。

 それにセルゲイも付いていく事にした。


 一目散に走る、ひたすら路地を走った。

 その時、視界の右側のビル壁面を這っているロボットを目撃した。


「まずいッ――」

 その一瞬後、這っていたロボットは一瞬で目の前の中年会社員を


「――ぎゃあぁぁぁぁ!!」

 串刺しにした。


「あ……あぁ……」

 会社員は腹から派手に出血し、その場に倒れた。

 セルゲイは返り血を浴びて、腰を抜かしそうになる。

 思わず、その黒いロボットを見る。


 ちょうど人間大の黒色の本体と、両腕についた長い刃物が夕日に反射して光る。

 その姿はまるで昆虫のカマキリを思い起こさせる。

 

 両手に二本の刀のような刃物を装備し、ジリジリと迫ってくる。


「このロボット野郎ッ! 死ねッ、死ねェェッ!!」

 若い男が、拳銃をロボットに向けて乱射していた。

 それで注意が向いたのか、ロボットは四本の足で高く飛び上がり、その若い男を斬りに行った。


「ぎぃやああああああ!!」

「おい!! こいつら! 来るなぁぁぁ!」

 漆黒の動体が接近してきて、パニックになりながら逃げる男子学生。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 誰かぁぁ! 助けてぇぇ!」

 頭を抱えながら逃げまどう女性。


「誰か警察を呼べ!! ちくしょう、つながらない! こんな時に!!」

 携帯を必死にいじる中年会社員。


 そんな人たちをセルゲイは見ながら、ひたすらに走った。

 襲われている人を何人も見たが、助けている余裕なんてない。


「どけどけ!! お、俺は逃げるんだ! こんなとこで死にたくねぇ!」

 そう言いながらある若者は車を走らせ、逃げまどう人々を引きながら反対方向へ逃げる。

 危うく、先ほどのセルゲイも引かれそうになった。

 だが。


「う……そだろ……?」

 車の若者が逃げた方からも、”ロボット”が大挙してきた。


「やめてくれ……助けて…………うわぁぁぁぁ!!」

 ”ロボット”が窓ガラスを突き破り、その若者の胸を軽く一突きした。


「くそぉぉぉ!! 俺は死にたくない! こんなところで…! こんな――ッ!!」

 セルゲイは、その惨事を見て、ひたすら路地を走る。

 だが、やがて後方から来た”ロボット”に、胸を一突きさせられる。


「ぐああぁぁっ……あぁぁぁ!!」

 胸を押さえ、のたうち回るが、やがて痛みが引いていく。

 同時に、視界がぼやけ、意識が遠のいていく。


(チャーリー……プレゼント……渡せなくって……ごめん、よ……)

 セルゲイは、絶命した。


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