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第一話 災害派遣

この小説には、ハンヴィーやアパッチなど、たまに現実世界と同じ名前の兵器が出てくる事がありますが、飽くまで“名前だけ”です。

詳しい性能や用途が大きく違う事がありますので、この物語に書いてある軍事知識は間違っている前提でお読みください。


作者自身の知識が間違っているか、もしくは物語進行において都合よく改変されている場合がありますので、くれぐれもご注意を。

――これは、現代世界と似た世界観を持つ並行世界の物語。


 1961年、世界各地でのテロの増加、国際情勢の悪化による世界大戦の危機感から、人類は世界連合平和維持軍(World Alliance Peacekeeper)通称WAPを設立した。

 国家や宗教にとらわれず軍事活動を行えるテロ撲滅の為の組織だ。

 当時は予算の問題などからそれ程大きな組織ではなかったが、国際的テロ組織"エルヴォリオン"を壊滅に追い込んだことからWAPの実力が世界的に認識され、組織は爆発的に巨大化し、10年後には世界屈指の軍事力を誇っていた。


 2007年には遂に、日本国がWAPへ加入し、極東の拠点として東京都練馬区には大規模な地下基地が建設された。


 そして――2015年現在。

 世界大戦の危惧は完全に過去のものとなり、各地の紛争も終息へと向かっていた。

 未だ政治的禍根や、発展途上国の衛生、食糧的問題は残るものの、世界は少しずつ、平和へ向かっていた……。



――2015年6月13日夜・ウクライナ軍基地・兵舎――



 暇だ。

 実に、暇だ。

 基礎訓練が終わり、俺は兵舎でイスに座り、ぼーっとテレビを見ていた。


 6月のウクライナの気候は少々蒸し暑いが、隣にある窓から涼しい風が吹き付ける。

 その風が俺の長くも短くもない微妙な黒髪を揺らし、適度に体の熱を持って行ってくれる。


 俺は脚を組み、部屋の中央にある木製テーブルにひじを付き、なんとなく辺りを見渡す。

 しかし、相変わらずここはボロい。


 中央の柱にある巨大な亀裂は、ちょっと寄りかかったら崩壊してしまうんじゃないかと心配になるくらい深く走っていた。

 金持ち軍隊と言われたWAPと違い、ウクライナ軍に金が無いのは分かるんだが、最低限の安全は頼むから保障してくれ。


 天井にある蛍光灯も、恐らく寿命はあとわずかで、ちょっくら電気屋にでも買いに行きたいくらいだ。

 ここに蛍光灯が新しい支給されるまでこいつは持ってくれるだろうか。


 その代わりかどうかは知らんが、この部屋はそこそこ広く、5人が生活するには十分な広さがあった。

 出来れば、広さよりも安全性を保証して欲しかったのだが。

  

 そしてこのテレビ……。

 日本じゃ何十年も前にほとんどのテレビが薄型なのに、これはいまだにブラウン管だ。


 今じゃ日本でこいつを探すのは非常に困難に違いない。

 むしろ持って帰ったら骨董品として高く売れるんじゃないか?

 そんな心底どうでもいいことを考えながら、テーブルの上に無造作に置かれたリモコンを手に取り、チャンネルを回す。


「……ニュースしかやってねぇし」

 俺は東京にあるWAP極東本部基地所属の陸戦歩兵上等兵、黒崎(くろさき)和真(かずま)だ。

 俺は窓から吹き付ける涼しい風の恩恵を少しでも受ける為、薄茶の作業服のような待機用服の腕をまくる。


 ちなみに、基地内で生活するときは基本的に全員この服装だ。


 さて、なぜ極東本部所属歩兵の俺がこんなところにいるかと言うと、地震と台風で大変な被害を受けているここウクライナへ、災害派遣でやってきたのだ。


 それから三か月はたった。

 最初に来た時はこのボロい基地に唖然としたもんだが、今は慣れてきた。

 住めば都、とはよく言ったもんだ。


 今、時刻は23時を回って居る。

 普段なら就寝の時刻だが、今日は違う。


 エリアB-7付近の川に掛る橋が増水で崩壊。

 交通に支障をきたす為、俺達は臨時で橋を掛ける予定だ。


 出動の予定まで後一時間弱。

 微妙な待機時間だった。


 それはさておき、さっきから地下でガチャガチャと工具をいじくるような音がしている。

 正直、耳障りな音がうるさくて仕方がない。


 なんだって兵舎の地下に整備室があるんだか。

 せめてもう少し防音を考えて基地を設計しろっての。


 んで、その原因を探るため――と言っても誰が何をやってるかはほぼ分かってるが――地下に行くことにした。


 スライド式の扉に手をかける。

 例によってすべりが非常に悪いので、必要以上の力を発揮しながら扉を開ける。


 部屋の外に出て、味気ないコンクリートの廊下を数歩歩くと、すぐ地下整備室の階段がある。

 階段に近づくと、地下からはこんな声が聞こえた。


「くそ、やっぱ駄目か……まいったなぁ…」

 俺は手すりに手を添え、階段を下っていく。

 階段を踏むと、安っぽい金属の音が響く。

 そして、階段を下りきる前にこんな声がした。


「ひい……まさか軍曹……?」

 音に反応した男は手を止め、ゆっくりと首だけこちらを振り返る。


「違げーよ馬鹿。勇希、何やってんだ?」

 階段を下り終えた俺はそう言った。

 狭い地下室な為、自分の声が何重にも響きわたり、なんだか話し辛い。


「なんだ和真かぁ……脅かすなよ……」

 そこにいたそいつは安堵の笑みを浮かべながらため息をついた。

 ここにいるのは佐川(さがわ)勇希(ゆうき)


 一言で言うと、明るく元気な空気の読めない隊のムードメーカーだ。

 そんな勇希は分解した電動ドリルを見て、


「調子が悪くて分解して直そうとしたらさ、これが意外と難しくて……」

 と情けない笑顔を作る。


「またかよ……ったく……なんで整備兵に頼まなかったんだ?」

 そう言って俺は整備室にある簡単なイスに腰を掛ける。

 このイスは金属で出来ているが、例によってボロく接合部分がギシギシ言っているのはさておき、

 これで三度目くらいになる工具の故障を誘発したこの阿保に質問を投げかける。


「ほら、俺この前も軍曹に怒られたばっかりだし、この前整備兵がやってんの見て簡単そうに見えたからさぁ……」

 予想通りの安直な思考に俺は頭を抱えてため息を吐いた。

 陸軍兵士として訓練学校では銃の構造の基礎くらい教わってる。

 それに比べてら工具なんて単純なもんだが、なぜこの馬鹿は出来ないんだろう。


 あ、馬鹿だからか。


「つーか、そうやって毎度毎度壊す方も珍しいけどな……ほら貸せよ」

 しかしこのまま見てるだけでは話が進まないのでとりあえず勇希から工具を奪う。


「悪いね。やっぱ持つべきものは親友だなぁ!」

 勇希はアッサリ銃修理を俺に託し、へぇー、ほぉー、としきりに唸って高みの見物をしだした。


「お前みたいな出来の悪い親友を持った覚えはねぇ」

 言いつつ俺は手を進めてゆく。


「え~、ひっでぁな~。この前の野外戦闘演習の時、和真が全く気付かなかった伏兵の奴ら1人で黙らせて来たの誰だよ」


「っ……お前、またその話か!? アレはなお前、俺は前方の狙撃警戒すんのに必死だったんだよ!」

 俺は事在る事に同じ事例を話してくる勇希に集中力を大幅に乱され手を止める。

 俺達は災害派遣で来ているんだが、一応軍隊だからそういう訓練もやれって上から言われている。


 ちなみに俺は実戦経験は無い。

 俺が就役したころには、世界中であれほど多発していた紛争が殆ど無くなってしまったからだ。


「でもその結果伏兵にやられちゃ意味ないよな?」

「それを防ぐ為の2組連携だろうが! だいたい俺はちゃんと狙撃兵発見して撃破できたんだし、ちゃんと自分の任務は真っ当しただろ」


「え~? でも俺は5人撃破で和真はその1人だけだろ?」

「だぁー、うるせぇ。おら直ったぞこの野郎!」

 めんどくさそうに言い、俺はドリルを渡した。

 俺が暇で良かったな勇希よぉ。


 作戦始まってからじゃ、軍曹の鉄拳じゃ済まなかったぞ?

 だがこいつはそんな危険に全く気付いてないんだろうな。

 その勇希は、受け取ったドリルの動作を確認する。


「おお直ってる! ヘヘ、サンキュ。さっすが和真だぜ!」

 親指をグっと出して言った。

 その時、1階の階段の上から、誰かが叫んだ。


「こらぁぁアンタ達! どこにもいないと思ったら何やってんのよ!」

 とその女は階段の上で腰に片手を当てて怒鳴った。


「っ!」

 俺はうるささのあまり思わず耳をふさいだ。


「げー、春奈!?」

 勇希が驚く。

 まさかいきなり怒鳴られるとは思わなかったんだろう。

 俺もだけど。


 それよりもこいつに言いたい事がある。

「馬鹿野郎ォォ! んな大声出さなくても聞こえるっつーのっ! 鼓膜を破壊する気か!?」

 ここは地下室だ。

 自分の声が何回もやまびこするような場所で、いくら階段の上からと言ってもあんな大声を出すのは殺人行為に等しい。


 願わくば軍法会議をすっ飛ばして特攻隊にでもなってもらいたい。

 そんな俺の心の言葉を眼光に乗せ威嚇するが、廊下の蛍光灯が逆光でなんとも都合よく迫力を倍増させている春奈には、無効だったようだ。


 ちなみにこいつは草薙春奈(くさなぎはるな)という。

 コイツももちろん俺の分隊のメンバーだ。

 そして何か鬼気迫る表情でこう言った。


「馬鹿はアンタよ! アンタ以外の何者でもないわ!!」

 春奈はそこそこに膨らんだ胸を反らし、偉そうにそう言った。


「んだとこのクソアマ!」

「まあまあ、落ち着けって和真!」

 かっちーんと来た俺は半ばキレ気味な表情を作り薄笑いを浮かべると、勇希がおろおろした様子でそれを止めようとする。

 が、次の瞬間春奈は真剣な表情で叫んだ。


「良いから早く来なさいって言ってんの! 豪雨の影響で川が崩壊するかも知れないのよっ! ハンヴィー前集合! とにかく急いでッ!!」

 ――ッ、出動か!!


「馬鹿っ、なんでそれを早く言わねぇんだ! 勇希行くぞ!」

 俺は一目散に鉄の階段を駆け上がる。


「えっ!? あっ、待ってってば!」

 勇希も俺の後を追う。

 俺達は急いでハンヴィーがある格納庫へと向かった。



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