第四話:夏子の暴走
だんだん意味のわからない文章になってきてしまいました。ごめんなさい!でもここまで読んでくださった皆さんには感謝してます。こんな話ですが末長くお付きあいしてくれたら幸いでございます♪
夏子は最近笑わない。
無表情で真っ白の壁を見つめている……。
無表情で窓の外を見ている……。
まるでぬけがらのように。
なぁ、夏子。
もうお前はわかってたんだな。自分が今、どんな状況におかされてるのか……。
“夏子の暴走”
俺達はとにかくバレないように必死だった。夏子が何を聞いてきてもそんなことないよっていつも答えていた。でも最近病気についての質問が増えてきている。
夏子は気付き初めていたんだ。
自分の体がおかしいことに。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「何だ?」
俺が花瓶の花を取りかえようと手を伸ばしたときだった。夏子は、悲しそうな顔をしている。
「あたしいつ退院できるの?」
またいつものことかと思って、俺はまたいつもの言葉を使って答えた。
「そのうち退院出来るよ」
って。
「……そのうちっていつ?」
夏子は重く口を開いた。
「そのうちっていつよ?いつもそうだよねお兄ちゃん。ねぇ、あたしどっかおかしいんだよね?」
泣きそうになりながら夏子は問掛ける。そんな顔を俺は見ていることが出来なくて、
「……っそんな訳ないだろ。花瓶の水変えてくる」
俺は逃げた。そしてまた嘘をついてしまった。
「……嘘つき」
夏子の悲しそうな声が後ろから聞こえる。俺はそのまま、病室を逃げるようにあとにした。
花瓶の水を取りかえても、俺は夏子の病室に行くことができなかった。あの病室に行ってしまったら、また夏子の悲しい顔を見てしまうだろうから……。
でもいつまでもここで立ち往生していられない。
少し怖いけど、あの病室へ行こう。
夏子に会いに行こう。
でも俺はまだ知らなかった。もう少し早く行っておけば良かったと、後で後悔することになることを……。
少し重い足取りで俺は例の病室へと向かっていた。夏子になんて言おう?とか、謝ったほうがいいよな?
とか、そんなことを考えていたらいつの間にか俺は病室の前にたどり着いていた。
病院の廊下ってこんなに短かったっけ……?
ひとつ深い深呼吸をして、俺は中に入ろうとした。今まで普通に入っていった自分が嘘みたいだ。
「夏子っ!遅れてごめん!」
何事もなかったかのように俺は笑顔で夏子に言う。しかしそこに夏子の返事はなかった。
…………あれ?
夏子が……
いない!?
俺は自分の目を疑った。何回こすって見てみても、何回まばたきしてみても、あの白いベッドの上に、夏子の姿はなかった。
「っ夏子!?」
何度叫んでも病室には俺の声しか響かない。……夏子はどこに行ってしまったんだ!?
俺はがむしゃらに病院内を走りまわった。看護師に走るなと注意されても、俺は耳に入らなかった。夏子のことで頭がいっぱいだった。夏子はもうそんなに歩けない体になっていしまっている。だとしたら夏子が危ない。
病気の進行を早めるだけだ。
そんなに遠くには行かないと思って、夏子の病室の近くを探した。しかし夏子の姿はなかった。
「ハァッハァ……どこいっちまったんだよっ……」
もしかしてエレベーターで他の階に行ったのかもしれない。そう思ったが、俺はそのまま動く足を止めてしまった。どこの階に行ったのかもわからないのに、ただ探すのは無理があると思ったから。
夏子はどこに行ってしまったんだろう。あの足だから、そう遠くへは行っていないはずだ。……でもこの階にはいない。
俺の推理が始まった。
「……エレベーターにのったのか」
一つ結論が出た。しかしどこの階に行ったのかわからない。
夏子の行きそうなところってどこだろう?
じっと立ったまま夏子のことを考える。
すると、一つの夏子の言葉が俺の頭をよぎった。
「早く外に出たいなぁ」
確か前、夏子がそんなことを言っていた気がする。
「……屋上?」
病院の外というのも考えられたが、外出届けをださなければ、医者に止められてしまう。いや、夏子の場合絶対に一人では外に出してもらえないだろう。
俺の考えはまとまった。
俺は急いでエレベーターに乗り込み、屋上へと向かった。
必ず夏子はそこにいるはずだ。
エレベーターが止まり、ドアがゆっくりと開く。目の前には、屋上へと続くドアがあった。
ドアのすき間から風がもれている。
俺はドアに手をかけ、扉を開いた。
「夏子ぉ!!」
俺は叫んだ。
……しかし、夏子の返事はない。
俺はこの広い屋上をがむしゃらに走りまわった。看護師さんと話している患者、洗濯物をほしにきた見舞いの人、屋上には意外に人がいたけど夏子の姿はどこにも見当たらない。
「ここにも……いないのか……?」
俺はもう半分諦めかけていた。もしかしたら夏子は、ただトイレに行っていただけかもしれない。もう戻ってるかもしれないと考えてしまっていた。
俺はため息をつきながら、ゆっくりと出口に向かおうとした。
けれどその瞬間、看護師の叫び声で俺は足が止まった。いや、止まってしまった。
「っきゃあ!夏子ちゃん!?」
今、夏子って言った。看護師が夏子って言った。
夏子はいた。
俺は叫び声のほうへ走っていった。そこは俺が探していて気付かなかったほど暗い所だった。
看護師と夏子が見える。
よく見ると、夏子は倒れていた。
「……夏子?……っ夏子ぉ!!」
そこには苦しそうに息切れしている夏子と、医者を呼びに行こうと立ち上がった看護師がいた。
「あなた夏子ちゃんの知り合いの方?」
「っはい!兄です」
「今急いで医者を呼んでくるから、あなたは夏子ちゃんを見てて!」
そう俺に告げた後、看護師は急いで走っていった。
夏子は今にも意識がなくなってしまいそうな表情をしていた。息切れがひどく、苦しそうだ。
「夏子っ!大丈夫か!?」
「…………」
夏子に返事はない。聞こえるのは、激しい息切れだけだった。
その時初めて、自分の無力さに気付いた。
俺は何もしてやれない。ただ見ているだけ。
「夏子……っちくしょお!」
拳を床に打ち付ける。悔しくて悔しくて、たまらなかった。
「おに……ちゃ……」
かすかに夏子の声が聞こえた。今にも消えてしまいそうだ。
「夏子!?……馬鹿っ!!今は喋んな!」
「……ごめ………んね」
涙を流しながら、夏子は消え入りそうな声で俺に言った。
……なんでだよ。
謝るのは俺のほうなのに。
夏子はそのまま、意識を手放した……。
数時間後、仕事を終えた母さんが一目散に病院へかけこんできた。
「和馬!……夏子は?」
「母さん実は……」
俺はすべてを説明した。医者に聞いたところ、夏子の体力は急激に落ちていて、運動も出来ない体らしい。
だからあの時急に動いたせいで体が反応し、倒れてしまったというわけだった。
「それと……」
俺は最後に付け足した。
「夏子はもう気付いてるのかもしれない。自分が難病にかかってること……」
「そう……」
母さんはゆっくりと理解したようにうなずいた。母さんはこのときがいつかくることをわかってたんだ。
「夏子の悲しい顔を見るのはツラいけど、そろそろ教えたほうがいいのかもしれないわね」
母さんは決心したように前を見すえていた。俺も気持ちは同じだった。
嘘ついてごめんな。
これから真実を、ハッキリとお前に伝えるよ。
俺達は前を見た。
目の前には、夏子の病室が見える。
これから俺達と夏子にとって、ツラい時間が始まるんだ。