第三話:俺達の嘘
俺に出来ることって何だろう?
夏子のために…。
俺自身のために…。
なぁ、夏子。
俺お前のためなら、何だってやるからな。
“俺達の嘘”
あれからというもの、母さんはぐったりしていてまったく元気がないようだった。
まぁ気持ちはわからなくでもない。
だって娘の新たな病気を告知され、余命まで言われてしまったんだから…。正直俺だって結構キツい。でもそんな表情を夏子に見せる訳にはいかないから、夏子の前では無理矢理明るく振る舞った。でも夏子にはバレバレで、たまに心配そうに俺に優しく声をかけてくれたりしていた。…やっぱりバレるもんなんだなぁ。
医者に余命を宣告されて四日後、ようやく落ち着いてきた母さんが俺に問掛けてきた。どうやら俺があの時言った言葉が気にかかるらしい。
「俺達がしなくちゃいけないことって何?どうゆうことよ」
母さんの眉間にシワがよっている。ずっとあの時から考えていたんだろうか?
「俺、あのとき考えてたんだ。残りの三ヶ月、夏子のために何かしてあげようって。思い出とか、いっぱいつくらせてあげようって。だから俺達がしなくちゃいけないのは治す方法なんかじゃない。夏子を今精一杯幸せにしてあげることなんだよ」
「…和馬」
宣告されてから今初めて母さんが微笑んだ。なんだか嬉しかった。こんなに人の笑顔って綺麗だったんだ…。
でも夏子は、まだこの病気のことを知らなかった。多分知ってしまったら、夏子は生きる気力を失ってしまうと思う。一番つらいのは本人だろうから…。でも知らないが故に、俺達を苦労させる質問をたまにしてくる。
「ねぇ、いつ退院できるの?」
この一言が一番俺達を苦しめた。その言葉を聞いたとたん、母さんも俺も涙をこらえるばかりだった。
ごめん、夏子。退院出来ないんだよ…。
この思いだけが俺の中で交差していった。
俺達は…
嘘をつくしかなかったんだ。
「大丈夫。そのうち退院出来るよ」
この言葉を延々とかけてあげるしかなかった。
俺達は初めて、夏子に嘘をついた…。