表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第二話:余命三ヶ月

なぁ、夏子。

俺は一体どうすればいい?

お前の笑顔をもう見られなくなると聞かされて…。



お前は俺の…




光だったのに……。






”余命三ヶ月“




手術が終わった次の日、俺達は夏子に会いに行った。病室に入ったとたん目に飛びこんだのは、夏子のあのひまわりのような笑顔だった。

「お母さん、お兄ちゃん!来てくれたんだ」

「例え学校があっても俺は行くし!」「フフ…お兄ちゃん学校サボりたかっただけでしょ?」

まだ手術が終わったばかりだったので夏子は寝たきりだったが、いつもと変わらない元気な夏子だった。

「頭は痛い?夏子」

「ぅん、すっごい痛い。麻酔がきれてきちゃった。痛っ!」

やはり麻酔がきれるとなると夏子は苦痛の表情を隠せなかった。手術が終わっても、まだまだ苦しい時は続くんだ…。

しばらくして、担当医の先生が様子を見に来た。

「夏子ちゃん、具合はどうかな?」

「やっぱり頭痛いよ」

夏子はその先生と仲がいいのか、友達のように接していた。

「2、3日続くけど我慢してね。一応痛み止めは出しておくから」

「うん、わかった」

担当医の先生は笑顔でそう行って、夏子のベットから離れていった。そして小声で母さんに

「後で夏子ちゃんのことについてお話があります」

と、そう告げて病室を出ていった。少し不安な表情をしていた母さんだったが、夏子にさよならをして、俺達も病室から出ていった…。

「あの、お話とは何でしょうか…?」

少々不安げな表情で母さんは担当医に問掛けた。ここは診療室。まわりにはシンプルに時計だのベッドだのが置かれていた。

「手術の後にこんなことを聞かされるのはお辛いかもしれませんが…」

その担当医の言葉は、俺を一気に不安にさせた。その先を聞くのが怖くなった。耳を塞ぎたくなった…。

辺りに緊張が走る…。

「夏子ちゃんは…今危険な状態にあります。いえ…助からないと言ったほうがいいかもしれません…」

「…なん…だって?」

信じられなかった。だって手術は成功したんだ。助からないなんてありえないはずだ。だって夏子さっきあんなに元気だったじゃねえかよ。

「詳しくご説明します。手術は成功し、腫瘍も取り除きました。しかし……彼女は今、ガンにおかされています。それも末期の…」

俺は、何もかもが信じられなかった。夏子が末期ガン?もう助からない?俺の頭の中は徐々に絶望でいっぱいになっていった。

「あともう少し早く手術をしていれば、体にガンが転移することもなかったんです。気付くのが遅すぎました…」

腫瘍はガンとも言えるもので、放っておいたらたちまちどこかへ転移してしまう。こういうことになるかもしれなかったのに、俺達は全然そのことについて考えていなかった。

「夏子は…もう何をやっても助からないんですか?」

ずっと黙りっぱなしだった母さんが、重く口を開いた。今にももう溢れそうなくらいにその目には涙がたまっていた。

「…すみません」

担当医はそう言って深く頭を下げた。すると母さんはいきなりその場から立ち上がり、床に座りこんだ。


俺は母さんを止めようと声をあげたが、母さんの行動に俺は言葉がつまってしまった。子供の目の前で恥じをさらしてはいけない親とあろうものが、俺の前で土下座をしているんだから…。

俺はただ、見ていることしか出来なかった。止められなかった。母さんのしている行動の意味がわかっていたから…。

「お願いします!!夏子を助けてあげて下さい!あの子は大事な娘なんですっ!私達家族の光なんですっ!お金ならいくらでも出しますから!なんでもやりますから!だから……夏子を連れて行かないでぇっ!」

母さんはまるで滝のように大粒の涙を流しながら、一生懸命お願いをしていた。こんな母さんを見るのは始めてだった。でも、もう戻れないんだよ…母さん。

「……やめろよ」

やっとの思いで俺は声を出せた。もうあんな母さんを見るのは耐えられなかったから。

「かず…ま?」

泣きじゃくった顔で母さんは俺を見上げる。つい目をふせたくなった。

「もう…駄目なんだよ。どんなにお願いしたって、これが運命なんだから。…それよりも俺達がしなくちゃいけないこと他にあるだろ?」

何故だろう…俺の目にも涙がたまる。

母さんは呆然と俺を見ているだけだった。きっと意味がわかっていないんだろう。

「母が変なことをしてしまってすみません。それで、夏子はあとどれくらい生きられるんですか?」

担当医はまっすぐ俺の目を見て、ゆっくりと口を開いた。

「…余命三ヶ月です」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ