8話からのカウンターパンチ
静寂に包まれた廊下をメイド服に身を包むラルシアが静かに歩いていた。
そして向かい側がから歩いて来る小さい影、ラグドリィとすれ違う。
「このドチビ……」
ボソっと呟いたのはラルシアだった。
しかし、それとほぼ同時にラグドリィも呟く。
「雌豚メイド……」
すれ違ってから2歩。ちょうど2歩歩いたところでお互いに足を止めた。
そして、振り向きざまに、
「魔王様は私のものよっ!」
「魔王様はボクのものっす!」
同時にほぼ同じ言葉を発した。
今にも暴発してしまいそうなビリビリとした空気が漂う。今まで保たれていた静寂は、ラルシアの言葉を口火に姿形を変えてしまう。それは戦場と形容するのが適当なのだろう。
「あらぁ、私なんて毎日魔王様のお世話をしてるのよ」
「それがどうしたっすか色ボケメイド!あんたの仕事っすよそれ!どうせあんたはどこまでいってもメイド止まりじゃないっすか」
「それじゃああなたにはどんな接点があるってわけ?この胸なし子供体型!」
「ボクは週に1回、魔王様とデートに行ってるっすもん」
「はっ!ただの巡回がデートだなんておめでたいわね?」
「ただの巡回じゃないっす!時には魔王様と手を繋ぐことだってあるっすよ!」
「て、手をっ!?」
「ふふふーん。そうっすよ」
「それはあなたがドジでよくこけるから手を貸してるだけじゃないの?かわいそうに、ただ同情されてるだけじゃない」
「ち、ち、ちがうっす!魔王様はボクのことが好きだから手を差し伸べてくれてるっす!」
「はいはい、そうかもね」
「年増ダメイドには言われたくないっす!」
「なにおー!?」
そして通りかかった、ベルは静かに踵を返す。
「関わりたくない……」
1日に1度はこれがなければ、このお城での日常とは言えない。
△▼
この魔界に来てから、2日が経った。
リリィはベルに呼び出され、しぶしぶ魔王の間に来ていた。
「なによ」
「ずいぶん嫌そうな顔をしてるじゃないか」
ベルは最初に出会った時と同じように玉座に偉そうに座る。
「だってあんたと関わるとうるさいのがいるんだもん」
「あぁ、ラルシアとラグドリィか」
「ラグドリィって誰?」
「四天魔のひとりだ。そうか、まだ会ってないなら気にするな」
リリィは嫌な予感しかしなかった。会えば絶対に嫌な思いをすることになると確信が持てる。
「さて本題なんだが、お前は人間だよな?」
「そうだけど?魔族に見える?」
「ならば他の人間に会ってみたいと思わないか?」
魔王の言葉にすでに諦めていた気持ちが盛り上がってきた。
「この世界に人間がいるわけ!?」
リリィの顔には自然と笑みがこぼれていた。
「魔界にも人間はいるさ。少数だがな」
「てっきりスピ……なんとかにしかいないのかと思った」
「人間界だな。確かに元々はそうだったんだけどな。人間ってのはバカなもので、生贄だとか言ってこっちの世界に人間を送ってくるんだよ」
生贄なんてどっかの昔話かカードバトルでしか聞いたことのない言葉だ。
「あんたが助けてるわけ?もしかしてこのお城に……?」
「まぁ、助けてるというか、殺す必要がないというかな。ただし、この城にはいないぞ」
リリィは自分も同じ理由で助けられたのだと思ったのだが、少し違うらしい。
「じゃあどこにいるの?」
「人間の町にいる。生贄たちで作られた町だ」
「人間の町……」
復唱する。その町に自分と同じ境遇の人たちがいるのだろうか。魔王たちの言う人間界がリリィのいた世界と同一なのかどうかすらわからない。
「お前が食ってる食事の食材の大半はそこから持ってきている」
「えっ、奪ってるってこと!?」
「バーカ、俺たちはあいつらの身の安全と引き換えに色々ともらってるだけだよ」
「バカって言われた……。なんかやってることがヤクザさんみたいだね」
「誰だそれ。強いのか?」
魔王は興味のなさそうな声で聞く。
リリィはその答えは答える必要がないと踏んで、できるだけ可愛い顔と声を作って言葉を発した。
「とにかく私行ってみたいな。その人間の町に!」
「ダメ」
「えぇえええっ!?」
メインストーリーの前にちょいちょいと挟んでる魔族たちの日常。今回はそっちの方が長くなった気がしなくもない8話でした。
もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、基本的にリリィはツッコミです。ボケると大体スベります。