食事中に7話
「おや、これはキリネじゃないですか」
「……」
長身眼鏡のアルトが無口でクール美人な女に話しかけている。
「さすがですね。黒とはやります」
ゆっくりと眼鏡を押し上げ、きらりと目の奥が光る。
「……変態死ね」
「これはこれは失敬。……キリネはご存じですか?例の噂」
「……?」
キリネは言葉に出さずに小さく首を傾げた。
「私はね、さきほど会ってきたのですけどね。リリィという女の人間のことですよ」
「……リリィ」
「そうです。なかなかおもしろい人間でした」
「……女」
「ライバルが増えたましたね?」
「……関係ない」
「そうですか」
四天魔同士の日常の会話の一端である。
△▼
「うお、マジで飯を食ってやがるっ!」
ずいぶんと若い男の声がしたと思い、声の方を見ると童顔の魔族が立っていた。
「食事中は静かにしてよ」
大してそう思っていないものの、リリィはなんとなくイラッときてそう発言した。
「リリィって言うんだっけか?ダルメシアに聞いたぞ」
「いや梨璃だし。ダルメシアって……ラルシアのこと?」
「リリィじゃねぇか」
リリィらしい。イントネーションを強調して言ったのにも関わらず、全くもって通じなかった。
「オレな、リンデンス・バルフレアってんだ。いちおう四天魔の筆頭やってんでよろしくー!」
「筆頭ってなに?」
「トップだよトップ。ロリィはバカだな」
「リリィだってばっ!さっきあんた言えてたじゃん!」
ずいぶんと軽いトップがいたものだ。しかも人の名前を覚えれないらしい。
「魔王様には及ばないけどな。それにしてもお前なかなかカワイイな!」
「へっ!?」
魔族は唐突である。それが例えパンツの色を尋ねる時であっても、褒め言葉を言う時であっても例外ない。
思わずリリィは気の抜けた反応をしてしまう。
「な、なに言ってるわけ?口説いてるつもり?」
「いやぁ、魔王様の女を奪うことはできねぇよ」
「いや、私は……」
否定の言葉を言おうとした瞬間の出来事だった。
さっきまで右手に持っていたフォークが手からなくなり、喉元に突きつけられている。
「魔王様のお・ん・な?聞き捨てならない言葉が聞こえたようだけど?」
さっきまでこの部屋には姿形なかったハズのラルシアだった。
「えっ、いや、だから違うってば!」
なんなのよこの世界は!?
「怒るとカワイイ顔が台無しだぞペルシアン」
「ラルシアだと何度言えば覚える!この若造がっ!」
ぶんっとラルシアが持っていたフォークがリンデンスにむかって飛ぶ。
リンデンスは半分笑いながら、それをいとも簡単に人差し指と中指で挟んで止めた。
ラルシアのキャラってこんなんだっけー!?
「いやいや怖い怖い。まったく、何年生きてんのか知らないけど、四天魔筆頭に手を上げちゃダメっしょ」
「……っく、これは失礼致しました。ついつい頭に血が上りました」
「あははは……」
リリィの口からは乾いた笑いしか出てこなかった。
そして空いた右手が宙を彷徨ってることに疑問を覚え、一言口にする。とても丁寧に。
「あの、とりあえず返してもらえます?」
「ん?」
「そのフォークはなにも悪くないから……」