パンツの色は6話
城内のとある場所に、童顔な男と背の小さな女の魔族が2人、肩を並べて歩いていた。おもむろに男が女に話しかける。
「ランドリー知ってるか?魔王様が変な人間を飼い始めたらしいぜー?」
「ラグドリィっすよ!いい加減人の名前間違えるのやめてほしいっす」
男は頭を掻きながら話を続けた。
「あ?そうだっけ、ラグジュアリー。ま、気にすんなって」
「もういいっす。それよりも変な人間って人格が変ってことっすか?それとも外見が変ってことっすか?」
「しらねー」
「ほんっとにリンデンスはテキトウっすね」
「そんなに褒めんなって」
「もうどうでもいいっす……」
△▼
パトを追いかけて出た場所は中庭だった。
緑溢れる木々と整備された花壇に芝。
リリィは周りを見渡して感嘆を漏らす。
「きれーい」
ここに太陽の陽が射したらどれだけ綺麗な庭になるのだろうか。
あいにく天気は淀んだ曇り空だ。
わんわんっと叫んで走りまわるパトを視線で追うと、そこには今まで見たことのない人が立っていた。いや、角があるから魔族だろうか。
「人間ですか」
「誰ですか?」
リリィは怖気づかずに長身の魔族の男に近付く。リリィの言葉が敬語になったのは、彼があまりにも清楚で紳士的なイメージを与えるからだ。
「私は四天魔のひとり、アルト・ジェイブロックです。あなたが噂の魔王様が気に入られたという人間ですか」
「まぁ人間ですけど……シテンマ?あぁ、例の四天魔って」
粗相のないようにと言われた例の四天魔のひとりらしい。すでに失礼をしているとはリリィは微塵も思っていない。
「おもしろい人ですね。お名前は?」
「梨璃です」
「リリィですか」
どうやらこの世界の人たちには梨璃と答えれば必ずリリィと聞こえるらしい。
私の発音が悪いのかな?
「ずいぶん背が高いんですね」
長身で眼鏡をかけているものの、ほっそりとしていて知的な印象を受ける。
「ありがとうございます。人間界から来られたのですか?」
「どこですかソレ」
「おや、違うのですか?」
「スピ……よくわかんないけど、たぶんそうじゃないと思います」
「なるほど、これは珍客ですね」
「なんかバカにしてません?」
「ははは、これは失礼。バカにしたわけじゃないですよ」
男は笑うとリリィを見てから、ゆっくりと人差し指で眼鏡を上げた。
「今日のパンツは白ですね」
「ふぇ……?」
何を言われたのかを理解するまでに10秒かかった。
この人何言っちゃってるの?え?どういうこと?今までの紳士的な雰囲気はなんだったわけ?ただの変態なわけ?え?え?ええ??
リリィは顔を真っ赤にして慌ててスカートを抑えた。
「これは失礼。外れてましたか」
「いや、当たってますけども……!」
そういうことじゃないでしょう!?なに悔しそうな顔を一瞬浮かべちゃってるわけ?
リリィの混乱は続く。
「当たってましたか。しかし私の知らない素材のパンツですね」
「あはははは」
とにかく笑う。笑うか殴るかしか選択肢が頭にない。
「直に見せてもらってもいいですか?」
「も、もちろん……いいわけねぇだろぉおお!!!!」
生涯においてここまで力を込めて殴ったことがあっただろうか。リリィはなんの迷いもなくアルトにボディーブローを入れた。
「ぐふっ、人間にしては良いパンチですね……」
「この……エロメガネ!」
ようやく出会えたまともな魔族だと思いきやコレだった。
この世界にまともなのなんているのだろうか……。
リリィはわんわん吠えて駆け回っているパトを遠い目で見てため息をついた。