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Lily  作者: もんかる
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死刑囚の鼻血と3話

 頬に触れる冷たく堅い感触が煩わしくなってリリィは目が覚めた。最悪の目覚めである。


「ろう……や?」


 生まれて初めて体験する牢屋というものに若干の感動を覚えつつも、なぜ自分がこんな所に入れられなければならないのか未だにわかっていなかった。

 リリィには魔王やメイドが仮装パーティーをしているようには見えなかった。

 紫色に淀んだ空と一瞬見えたような気がする大きな犬。そして魔族の王と名乗ったベル。

 情報は少ないにしろ今考えられることとして、ここはリリィの知っている世界とは違うようだ。日本でないのか?それとも地球でないのか?リリィには知る由もなかった。


「お腹すいたっ!!」


 思ったことを大きな声で叫んでみた。さらにお腹がすいた気がする。でも黙っているよりもいい。


「お腹すいたよー!!」

「うるせーボケ!」


 意外とすぐに返ってきたのは暴言だった。だが、確かに返ってきた。つまり……


「私をココから出せー!出してよー!!お腹すいたよー!!」


 リリィの叫びが誰かに届いているということだった。そして叫びはさらに続いた。


「てめぇ殺すぞ!」


 今すぐにでも人を殺してしまいそうなほど怖い目の牢番がリリィの前にやってきた。


「あ、すいませんでしたー」


 その目を見た直後、あまりにも自然にリリィの口からは謝罪の言葉が出ていた。勝てるわけがない。殺される。今すぐ殺されると本能が訴えかけてきた。

 怖いから謝っちゃったけど、ご飯くらい出してくれてもいいのに。そもそも服が汚れちゃってシワだらけ。シャワーも浴びたいし、お風呂にも浸かりたい。死刑とかよくわかんないのはどうでもいいから早く出してほしい。

 死刑と言われたものの、いつどうやって殺されるかすらわからない。これから死がやってこようとしているのに、リリィは絶望感を全く感じていなかった。絶望を感じていないというよりも、実際に死に瀕していると心から思っていなかったのだ。

 そしてまた叫び出すのだった。



△▼


「どうにかしてくださいよ魔王様。あの小娘うるさくてうるさくてたまりませんよ」


 目つきの怖い牢番が魔王に涙目で訴えかけていた。


「知るか。なら殺せ」

「殺したら私が魔王様に殺されるし……」

「むぅ……じゃあアレだ。ちょっと遊んでやろう」

「遊ぶ、ですか?」


△▼



「出せー!!」


 牢屋に入れられて3時間ほどが経過しているが、未だにリリィは叫んでいた。

 そして目つきの怖い牢番がやってくる。


「……」


 無言の威圧。

 牢番は鍵を取り出し牢屋の鍵を開けた。


「お前うるさすぎ、もうどっか行け」


 牢番はそれだけ言ってどこかへ行ってしまった。


「うそっ、開いた?」


 牢屋の扉を押すと、確かに扉が開いた。

 ラッキー!これで逃げ出せる!

 ただし行くあてもなければ、この建物の内部構造も全くわからない。

 なぜか没収されていないカバンを持って、リリィはこっそりと牢屋から抜け出した。


「叫んだ甲斐があったな!」


 上機嫌でテンションが上がったのか、忍者の真似をして抜き足で慎重に歩く。

 牢屋の外は湿った空気が漂う明りの少ない廊下だった。石畳の床に同じ色の壁。少し行くと、螺旋状に昇っていく階段を見つけた。牢屋ということだし、恐らくココは地下である。リリィはなんの迷いもなく階段を上り始めた。

 一段ずつ音を立てないように慎重に。

 その静寂が、突然途切れる。


カチッ


 確実に嫌な音がした。

 リリィの足場が若干沈んだように感じたのも気のせいではないだろう。


 ガコン


 次に音がしたと思ったらリリィの体は前に傾いていた。


「へぶっ!」


 顔面から階段にこんにちは。

 階段は全ての段が斜めになり、1つの急な坂になっていた。

 そのままずべずべとリリィは下へ滑って行った。


「な、なんなのよぉ!!」


 鼻血を出しながら叫ぶ。

 もはや静かにしなければいけないということも忘れ、むきになって斜めになった階段を上ろうとする。しかし、当然のことながら勢いを失って落ちてくる。

 こうなったら……!

 カバンをリュックのように背負う。そして両手を広げれば壁と壁に届くことを利用して、ゆっくりと上ろうと試みた。

 ぜぇぜぇと息を吐きながら、普通の女子高生が絶対にやらないであろうことをリリィはやっていた。

 学校において、得意科目は家庭科と体育。運動神経だけで言えば、陸上部やラクロス部から勧誘を受けたほどのものだった。リリィは体を動かすことが嫌いなわけではなかったが、それよりも好きなことがあったために手芸部に入部した。


「手芸部なめんなー!!」


 叫びと共に階段を上りきる。荒れた息を整えながら、膝に手をつく。そして思い出したかのように顔を上げ、抜き足で出口を求めて歩き始めたのだった。

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