目覚めの1話
そこには深い緑の葉の隙間から見える分厚い雲の赤紫の淀んだ空が一面、眼を覚ました少女の目に映っていた。
うわっ、頭痛いし……とゆっくり体を起こす。
自分が何をやっていたのか、どうしてここにいるのか、少女は全然何も思い出せない。
今、何時?
腕時計を見ても秒針が動いていないことに気付く。時刻は四時半ちょうどのところで止まっていた。
ふぅとため息をついておもむろにカバンのポケットから携帯電話を取り出した。
「え、電源がつかないし……」
マジでありえないと小さく呟く。
少女の顔を反射している艶やかな真っ黒のディスプレイを眺めながら、もう一度深くため息をつく。
「もう……っていうかここどこなのよ」
ボーっとしていた頭が徐々に動き出す。
かろうじて覚えているところまでの記憶を辿れば、少女はただいつものように学校から下校していただけだったはず。それなのに今はどこかもわからない森の中にいる。攫われた記憶もなければ、自分からどこかに行こうとした記憶だってない。一体どこの田舎の森なのか。街灯もなければ人の歩いた形跡のある道すらない。
赤紫色に淀んだ空は普通の夕焼け空の赤く染まる雲とは違って見えた。どことなく禍々しい雰囲気すら漂っている。時折、切り裂くような風が左から右からと少女の髪を荒れさせる。塵や埃でうっすら具現化された風は螺旋状に吹いたり、一直線に吹いたりとまったくもって不規則だった。
ギャーギャーと何かの鳥の鳴き声がした。
なんなのよ一体。ここはどこで私は何をしていたわけ?なんかここ気味悪いし。
学校の制服のままで荷物もある。何かを盗られたということはない。そもそも人の気配がない。
辺りを見渡すと、ひたすらに木々が生い茂っていた。
ここで座っていてもしょうがないためどこか行こうかと腰を上げ、とりあえず行く当もなく歩いてみることにした。
「なにここ、ほんっとに木しかないんですけど」
暗くなる前にどこか休めそうなところに行けたらいいと思うものの、そんな気配は一向にしない。
どうやらここは少女が知っている世界とは違うようで、戸惑いと不安を隠せないでいた。徐々に歩く速度も遅くなっていく。
「あっ、あれって……」
そろそろ立ち止まろうかと思った矢先、少女の視界に入ってきたのは自然にできたのとはちょっと違う洞窟。あまりにも不自然に綺麗な入口から、人工的に作られた洞窟なのだと思う。そして、人工的に作られた洞窟なら誰か人がいるかもしれない。
ちょっとした期待を持って入ってみたが、ものの5秒で足を止めた。
「なんも見えないじゃん!」
洞窟の中へ向けて大きく叫んでみた。虚しく木霊する少女の声が、すごく切なかった。携帯電話のライトでも付けようかと思ったが、電源が入らないことを思い出して行動する前にやめた。
この先に進むかどうか迷って、入口からの光がギリギリ入るか入らないかの場所でしょうがなく立ち竦む。
だって怖いんだもんと小さく零した。
グルルルルル
「なにっ……!?」
なにか肉食獣のような危険な唸り声。
ここで起きていることの一割も把握できていない少女はパニックになっていた。
微妙な光によって一瞬見えたソレは、まるでトラックくらいの大きさの……犬だった!?
信じられない場景が目の前に広がり涙が出てくる。
帰りたい!帰りたいよ!
少女がいくら必死にそう思っても現状がなにも変わることはなかった。
そこでぷっつり気を失ったと気が付いたのは、少女が次に目を覚ましてからのことだった――
久しぶりの連載です。
ファンタジーものですが、要素的にはコメディの方が多くなりそうです。
よろしければ続きも読んでみてください。