見つめられると9話
とにかく大きい。
巨大で重厚で圧倒的な威圧感。
それがカーリンロードの門である。
シフト・バルディンスはこのカーリンロードの門番だ。彼は人間でありながら、魔界で生まれ育っている。人間界のことは存在こそ知っているが、行ったことも見たこともないのである。そんな魔界育ちの人間を人間の町ではヴィルラと呼ぶ。
「ようシフト。新しい生贄は来てないみたいだな」
「腐った下級グールなら何匹か来たけどな」
「ははっ、そいつはご苦労なこって」
カーリンロードには生贄として人間界から捨てられた人間が辿りつく。そして、逆に魔界から人間界に行こうとする下級魔物がいる。
カーリンロードは魔王であるベルの魔法によって結界が張られているが、その隙間を下級魔物が抜けてしまうことがある。それらを倒す仕事がここの門番なのである。
「青い空ってどんなのなんだろうな……」
小さく呟くシフトの瞳には、赤紫色に淀んだ空が深々(しんしん)と映っていた。
△▼
「なんでダメなのよっ!」
「なに可愛いフリしてんだ気持ち悪い」
女の子に対して気持ち悪いとはベルの選んだ言葉が悪い。
「あ、あんたの格好のが100倍気持ち悪いわよ!そもそもここに来てからいつも期待と反対のことばっかり言っちゃってさ!なんなの!?天邪鬼なわけ?ほんっと信じられない!人の気持ちをそうやって弄んで楽しいんだ?超ドSにもほどがあるわよっ!」
リリィの言葉に若干気圧されるも、それを悟らせないようにベルは目を瞑った。
「ふん、お前を見てるとイライラすんだよ」
「だーかーらー、私が何をしたっていうのよ!ただ生きてるだけでダメだって言うわけ!?じゃあどうしてあの時私を殺さなかったのよ!」
「うるせーな!嫌なこと思い出させんじゃねぇよ!人間の町に行きたいなら勝手に行け!四天魔をひとり貸してやるから!」
数秒の沈黙。
そしてベルはざっと立ち上がり、リリィの目の前に来た。身長差は顔ひとつ分といったところだろうか。角まで身長に入るのならばまた違ってくるのだが。
「な、なによ……」
ベルは何も言わないで、じーっとリリィを見つめる。
リリィは居づらい感じになって目を逸らした。
「だから、なによ……」
リリィの目の前にいるのは魔王でイケメンで超強いらしいベルなのだ。威圧感を感じながらも、どこか優しさで包むような感じがすることに戸惑いを覚えた。
「行ってこい、気をつけろよ」
それだけ言うと、ベルは踵を返して部屋を後にした。
魔族はどうしてこうも唐突なのだろう……。
ひとり残ったリリィは何がなんだかわからなくなり、間近で見たベルの顔を思い出して赤面する。両手で顔を覆い、そして呟く。
「バーカ……」
話タイトルがひどいという噂が……。
気のせいじゃないです、重症です。