0 誕生
暗転して、それから――――――。
私は今、暗い世界で漂っている。
水の中のようで、ゆっくりと揺れる。心地よい。
時折、話しかけられているようだ。
でも何を言っているのかわからない。
このままこの時間が続けば良いのに、そうも行かないようだ。
何か強大な力で、排除されようとしている。
狭い場所に押し込められる。
痛いし、苦しいし、嫌なのだが、抵抗することもできず。
明るく賑やかな場所へ放出された。
*
乳をのみ、垂れ流し、泣いて、寝る。
それが赤ん坊の仕事だ。
どうやら私は赤ん坊のようだから、その赤ん坊の仕事をこなす。
漠然とああ死んだんだな、生まれ変わったのかな、と思う。
忘れているだけで赤ん坊の時は前世の記憶があるのかな。
成長過程で忘れて行くのかもしれない。
どうやら私には乳母がいるらしく、乳母と両親、兄姉らしき子供は金髪碧眼だ。
おそらく私も金髪碧眼に違いない。
家族の話を聞いていると、どうやら此処は貴族のお屋敷らしい。
まぁ人種的に日本じゃないのはわかってたけど、現代社会で貴族制度が残ってるってどこ??
ヌーフェという土地なのはわかったけど、それってどこの国?
他の固有名詞も聞いたことのないものばかり。
まぁ赤ん坊なんだし、時間はまだたっぷりあるよね。
色々考えてると眠くなってきた。
おやすみなさい。
**
数日過ごしてわかったこと。
会話は理解出来るけど、参加は出来ない。
喉が成長していないからだろうか。
今いる場所もわかった。
リリスフィア王国、ヌーフェ地方、ルーフェン。
聞いたことのない国名。
小さい国で知らないだけかと思ったけど、どうやら違うらしい。
何故なら、魔法を、使っているからだ。
え、なに、ハリー○ッター?
存在が明かされてないだけで実は魔法使いって存在してるの?
とまぁ現実逃避したところでどうにもならないわよね。
私はどうやら前世と違う世界で生まれ変わったらしい。
それが良いわけでも悪いわけでもない。
とりあえず戦争のない平和な国でありますように。
私はただそれだけを願い、今日も眠るのだ。
***
「リィリィ」
どうやら私の名前らしい。
「リィリィ、はやくおおきくなってね」
私の丸まった掌に、指を入れくすぐってくる。
それが何だか楽しくて、私はきゃらきゃらと笑う。
それが嬉しかったのかお姉様も笑った。
「おかあさま!リィリィがわらったわ!」
「本当ね、可愛らしい」
「はやくおおきくならないかしら。そしたらいっしょにあそべるのに!」
あと2年は待ってください、お姉様。
お姉様はオレンジ色のドレスを揺らしながら、私を覗きこんでいる。
ああ、私も成長すればドレスを着ることになるのね。
お母様は美女だしお姉様も美少女なので、きっと私も美少女よね。
そうでないとドレスが痛々しいので助かるわ。
ああ、そろそろ眠くなって来た・・・。
おやすみなさい、お姉様、お母様。