番外2 ティーナ 10歳 (シュカ12歳)
「はぁ・・・」
「また溜息ですね。どうかされました?」
首を傾げたシュカを見上げた。
「シュカ~・・・」
ぎゅ、と抱きつく。
「あらあら、かわいい。どうしたんですか?」
抱きしめ返してくれる。
暖かくて、良い匂い。
後でお兄様に自慢してやろうっと。
「あのね、魔法騎士団にすごく格好良い人がいるの」
「・・・・・格好良い人、ですか」
僕は時間がある時は魔法騎士団の訓練をこっそり覗くようになった。
あの人について分かったことは、殆どない。
強さは中くらい、お兄様と良くお話してるけど、表情はいつも険しい。
それくらいなのだ。
「うん・・・僕、今まで男の人にも女の人にも興味がなかったんだけど・・・」
僕は今まで、ドレスを着ているけど心は男なんだと思っていた。
ドレスを着たままでも、いずれ女の人を好きになるんだって思っていたのに。
ルイスが不在の今、シュカに相談しなくては。
だってルイスに訊かれたら、困る。
気持ち悪いって思われるかも。
シュカはそういうの気にしないと思う。
男の僕にドレスの講釈垂れるくらいだし。
「まぁ!ティーナ様の初恋ですね!お赤飯炊くべきかしら?」
「お赤飯??」
「あ、失礼しました。えぇと、それで、ティーナ様はどうしたいのです?」
「どうしたい、って?」
「仲良くなりたいとか、お付き合いしたいとか、見てるだけで良いとか」
「えっと・・・お話、してみたい、かな?」
名前も知らないし、声も聞いたことがない。
いつも見えるぎりぎりのところに隠れているから、会話何て聞こえないのだ。
聞こえるのは怒号や掛声で、あの人の声はわからない。
きっと格好良い声に違いない。お兄様みたいな。
「いっぱいお話しして、仲良くなりたい」
お付き合いなんて出来るわけがない。
だったらせめて仲良くなりたいな。
魔法騎士団の大半は貴族。
だとしたら結婚している可能性もあるし、していなくても婚約者くらいはいるだろう。
「わかりました。情報がないなら、集めれば良いのです。リオン様に聞いてみてはいかがでしょう?」
「お兄様に?」
「はい。特徴を伝えて、名前を聞きましょう。勿論、直接聞いても良いのですが」
「無理!」
「ですよね。でしたらまずはリオン様に名前を聞いて、それから考えましょう。魔法騎士団に興味があるから見学させてもらうという口実も良いですし」
そっか!
その手があったか。
そうすればそれとなく自然に、紹介してもらうっていう手もあるし。
早くお兄様来ないかなぁ。
*
「久しぶりだな、ティーナ、シュカ」
お兄様が僕とシュカに抱擁して、テーブルにつく。
シュカの淹れたお茶を3人で飲む。
ルイスは外で待機。
基本的に側近でも、自分の主である王族以外の部屋には入らないし、王族同士の茶会や会合なども、ほとんどの場合は外で待機となる。
そうしないと臆病者扱いなんだって。
身内を信用していないのか、とかなんとか。
「あの、お兄様。魔法騎士団に、赤い髪の格好良い人がいるでしょう?」
「赤い髪の格好良い人?」
「はい、その人の名前を教えて欲しいんです」
「いないと思うんだが・・・」
「格好良いというのはティーナ様の主観、御好みですからね。取り敢えず赤い髪の方を」
「赤い髪・・・格好良いというのは、その・・・筋肉の厳つい男ということか?」
「違います!スラリとした格好良い男の人!!思い出して下さい!!!」
「しかし・・・赤い髪は2人も筋肉の厳つい男で、魔法騎士団には珍しいむさっくるしいやつらだぞ?」
そう考えてもスラリとしてない。
お兄様は眉間に皺を寄せる。
むさ苦しい2人を思い出しているのかな。
「・・・・・あの、ティーナ様?赤い髪のスラリとした方ですよね?」
「うん」
「男性と思われたのは何故?」
「え?」
「女性なのでは?」
「ええ?」
「っていうか、キム様なのでは?」
「ああ、キムか。確かに赤い髪だな。格好良いと思ったことはないが」
「えええ?」
「消去法でそれは恐らくキム様ですね。残念ながら?女性です」
「ええええ?」
っていうかシュカ、別に残念じゃない!
男でも女でも、どっちでも良いんだ。
あの格好良い人と仲良くなりたかっただけで、別に性別は気にしてない。
そうなると僕男色じゃなかったんだなぁ。
あ、でも男の人って思ってた時点で男色?
「そっかー。キム様っていうんだ。えへへ、魔法騎士団にいるってことは独身だよね?」
「まぁそうだろうな」
「女の人ってことは、結婚出来る!僕頑張る!!」
「良かったですね。リオン様、他に何かキム様のこと、知りませんか?」
「あ、ああ・・・。年齢は、20歳だったかな。実家は子爵家で・・・南の出だな。剣の扱いは上手いが、体力は並。魔法はまぁ、上位だな。婚約者はいなかったと思う。あとは・・・シュカに貰ったバラの石鹸、気に入っているようだったが」
「そうなんだ!気が合いそう!」
っていっても、バラの石鹸、今では貴族のほとんどが愛用している程だ。
最近は他のハーブのものも流行ってきてるけど。
「お兄様、他には?他には?」
「う・・・期待に添えなくて悪いが・・・」
残念・・・どんな人が好みなのかな。
今の僕じゃどう考えても無理だよね。
年齢も離れてるし、まだ子供だし、背も低いし、キム様より弱いし。
「私からキム様に接触してみましょうか?女同士ですし、口も軽くなるかも」
「本当!?」
「ティーナ様が望むのであれば」
「お願い!!」
良かった!
シュカが手伝ってくれるなら百人力だ!!
***
ティーナ様が喜んでくれるのは良いけど・・・。
20歳という年齢で、貴族なのに未婚、しかも婚約者もなしって何だか訳ありっぽいのよね。
シュカはティーナに気付かれぬよう、そっと溜息をついた。
ティーナは1年前に少し話題なったくらいの側近のことなど、微塵も覚えておりません。そんなものだ。
リオンの側近は途中で変わってるので同じ年齢ではありません。