番外1 ティーナ 9~10歳 (シュカ11~12歳)
どうしよう。
「はぁ・・・」
どうしよう。
「う~・・・」
どうしよう。
「ティーナ様?先ほどからいかがされました?」
きょろんと首を傾げたシュカを、僕は見上げた。
何故かかわいいと呟かれる。
シュカって偶に意味のわからないことをいう。不思議。
「あのね、僕、今9歳でしょう?」
「はい」
「あと数か月で10歳なの」
「はい」
「だから、今後の身の振り方っていうか・・・」
10歳、というのは王族では分岐点になる。
王子なら側近が付き、魔法学校か騎士学校に入る。
末は魔法騎士団か騎士団に入り、いずれ王位を継ぐ。
姫は割と自由。
だけどそのうち貴族に輿入れする。
僕はいくらドレスを着ていても、男の子だ。
選ばなくちゃいけない。
ドレスを捨てるか、王位を捨てるか。
でも僕には目立った才など何もない。
王位を捨てて生きていけるかと言われても、わからない。
「でしたら、魔法学校へ行きましょう」
「どうして?」
「魔法学校なら王子でも姫でも通えます。学校の日は無理でも、休みの日はドレスを着れますよ」
「そっか」
「えぇ」
そういう問題じゃない気もするけど、いっか。
「卒業してから選べば良いんです。女の子として、魔法で食べていくか。国王になるか」
「うん」
シュカに話して良かった。
シュカは僕にとってお姉さんみたいな存在だ。
たぶん5年後に本当のお義姉様になるけど。
住み慣れた場所から動きたくないので、リリスフェアの魔法学校へ入学を決めた。
リリスフィアの魔法学校は剣が必須。
父上に魔法学校へ通いたいというと、教師が付けられることになった。
入学前に魔法を練習する人がほとんどだからだ。
魔法と剣の教師が来ることになり、礼儀作法と芸術の時間が大幅に削られた。
別にそんなに好きだったわけではないから、良いのだけど。
*
新の月を迎え、10歳になった。
新の月になると大半の侍女が休暇を取り実家に帰ってしまう。
シュカがいないなんて、つまらない。
10歳になれば付けられる側近も、新の月の休暇が明けないとやって来ない。
僕はひとり不貞腐れて王宮内をちょろちょろ。
勉強も休みになるから暇なんだもん。
何かおもしろいことないかなぁ。
こっそりと魔法騎士団の訓練を覗いてみる。
あ、お兄様だ。
カッコイイ。
シュカと話してるとアレだけど、こうしてみると本当にカッコイイ。
魔法騎士団はあんまり厳つい男の人っていないから、むさくない。
うーん、やっぱりお兄様が一番良い男だ。
剣を習うようになったから、わかる。
お兄様って強かったんだなぁ。
あ、あの人も強い。
お兄様とはタイプが違うけど。
「え・・・」
お兄様より、格好良い人がいた。
赤い髪を一つに束ねた、すらりとした人。
「格好良い・・・」
あの人、誰だろう。
お兄様と話してる。
ぽーっとなっているうちに、訓練は終わり、休憩に入ってしまった。
お兄様はさっきの人と詰め所に入って行く。
もっと見ていたかったのに。
あれは、誰だろう。
どんな人なんだろう。
・・・・・気になる。
**
新の月休暇が明け、シュカが帰って来た。
それと側近もやって来た。
僕の側近になったからには、僕のドレス姿も聞いている筈だ。
赤い髪の、僕と同じ10歳の男の子。
何となく、あの人に似ている。
「初めまして、ティーナ様。ルイスと申します」
「よろしくね。・・・あの、お兄さん、いたりしない?」
何となくだけど、似てるし。
「いえ、兄はおりませんが?」
違うのか。残念。
「そう・・・ね、ルイスも魔法学校に行くんだよね?」
「はい」
何となくごまかすために、当たり前のことを聞いてしまった。
魔法学校へ通うから、同じ学校に通う同い年の子が側近にされたというのに。
「何魔法が得意なの?」
「火系魔法が得意です。逆に水が苦手で」
シュカにお茶を淹れてもらい、ルイスと夕食の時間まで魔法の話や剣の話で盛り上がった。