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「コホン、申し訳ありません、取り乱しました」
深々と頭を下げる。
「いや、良い。どういうことか説明してもらえるか?」
「はい。信じていただけるかわかりませんが・・・
私には、前世の記憶があります」
「前・・・世?」
リオン様はぽかん、とただただ私を見つめる。
そうですよね、頭可笑しいんじゃないかって思いますよねっ!
「30代後半で、夫と、子供も2人いました。子供たち、今頃きっとリオン様よりも年上です。
それである日急に心臓が痛み、気がついたら赤ん坊で」
・・・そして今に至る、と。
「なるほどそれでか・・・」
「何がです?」
「言動が10歳じゃないからな。むしろ姉上とか母親とか、年上のようだと、思っていた」
「・・・・・ロリコンじゃなくてマザコン!?」
「何でそーなるっ!!しかもこの流れでそれかっ!?」
「むしろババコン!!??」
「っていうか肉体年齢11歳なんだから問題ないだろっ!」
「やっぱりロリコン!!!???」
「ちがーうっ!!」
「・・・信じて、くれるんですか」
「あぁ」
「そう・・・ですか」
初めて前世の記憶を話した。
信じて貰えた。すごくうれしい。
だってどうしても普通じゃないし、私だったら信じてない可能性の方が高いと思う。
「ありがとうございます。・・・だけど、そろそろ離してくれませんか?」
「嫌だ」
「リオン様・・・」
私を抱きしめるリオン様の手の上に、手を重ねた。
そして。
ぐいっ!
ドスン!
「いっっ」
「セクハラで訴えますよ」
腕を取ってくるっと引っ繰り返したのである。
体制が体制だったので出来た技。
「まぁ、信じてくれたならわかったでしょう?5X歳の精神年齢で25歳の子供を好きになるのは無理があります」
「それは・・・そうかもしれないけど、俺はそんなことで諦められない」
「聞き分けのない子供は嫌いです」
「しょうがないだろう!好きなものは好きなんだ!!」
若いなぁ。熱いなぁ。
「はぁ・・・わかりました。私が16になったとき、私のことをまだ好きだったら、その時は前向きに考えます」
「本当か?!」
「はい。ただ贈り物とかそういうの、本当にやめてくださいね。それに5年もありますから、心変わりもそれはするでしょう。その時は心おきなくその方を娶ってくださいね」
「大丈夫!心変わりなんてありえない」
「はいはい。それじゃ、私は出掛けますので、リオン様も出てください」
◇
新の月の休暇明け、城下町へ来たのには訳がある。
こちらの世界でも新春セールがあるのだ!!
女は買い物好き。これ常識。
かといってドレスや靴、アクセサリーの類はたくさんあるので自重。
買うのは刺しゅう糸や毛糸、布、綿、茶葉などだ。
私の王宮での趣味は専ら手芸である。
ぬいぐるみやクッション、ワンピースなどの簡易服、刺繍など。
ティーナ様に一番人気なのはレースで出来たクマのぬいぐるみ。
中身はバラのドライフラワーなので良い香り。
芳香剤にもなり飾りにもなり優秀なクマちゃんなのだ。
そして今はビーズのクッションを作っているところ。
ビーズといっても代用品だ。発泡スチロールっぽいもの、こっちで見ないし。
低反発も作りたいところだけど、未だ代用品が見つかっておらず。
「きゃっ!」
「っと、失礼」
人が多いこともあり、ぶつかってしまった。
落としかけた荷物を、キャッチしてくれた親切な人。
騎士の鎧を着た、凛々しい美人。
赤い髪を後ろで一つに束ねている。
イイ・・・!オスカル様・・・!
「あ、ありがとうございます!!ごめんなさい、私の不注意で!!」
ま、ベルばら読んだことないけど!
男装の騎士って感じ?
カッコイイわ!
「いや、こんなに人が多くては仕方がない。・・・君は確か、ティーナ様の?」
「はい、ティーナ様の侍女で、シュカと申します」
「そうか。私はリオン様の側近をしているキムだ」
「・・・リオン様の?」
女嫌いと言いつつ、側近は女。不思議なことをするなぁ。
「あぁ。側近とは名ばかりだがな。あの方はすぐどこかへ行ってしまうので」
「大変ですねぇ」
「そうなんだ・・・今後1人でいるのを見かけたら是非知らせてほしい」
「わかりましたわ」
その後キム様は部屋まで送ってくれた。
なんて紳士!!
これが男だったら丁重にお断りだったけど、女の人だし甘えさせて貰った。
「そうだ!良かったらこれを」
お礼にと、ソープをひとつ、プレゼント。
バラの香りがするもので、実家で作っているものだ。
とはいっても家は商家ではない。
自分の家で使う分だけ、作っているのである。
主に私の好みで。
オイルは使う人使わない人がいるけど、ソープは誰でも使うでしょ!
「ありがとう」
ああ!笑顔もステキ!!
リィリィシュカはすっかりキム様のファンになりました。
今度リオン様におねだりして連れて来てもらおうかしら。