7 10~11歳
「はぁ・・・」
私は届けられた花束やドレス、お菓子を見て溜息をつく。
あれから、毎日贈り物が届く。
正直鬱陶しい。
侍女の部屋はそこまで広い作りではない。
それなのに毎日何かしら送られてくると、段々と部屋が手狭になってくるというか・・・。
「はぁああああ」
今日こそしっかり断ろう!!
◇
「・・・お待ちして居りました、リオン様」
リオン様はよくティーナ様のお部屋に来るので、会う機会はすぐにやって来た。
いつものようにお通しし、お茶の準備をする。
これまたいつもの通りにティーナ様にお茶に誘われて、一緒にお茶をする。
「リオン様、もう贈り物を止めてください」
前回「申し訳ないですし」というような断り方をしたことがいけなかった。
遠慮深いなどと思われているに違いない。
そうではない、そうではないんですよ。
迷惑なんですよ!
「何故?」
「部屋がいっぱいになりました。置く場所もありません」
「では後宮の一室を使えば良い」
即答!?
もしかして最初からそれが目的なの!?
「・・・必要ありません。贈り物を頂く理由もありません」
「理由ならあるだろう。口説いているんだ」
「それはきっぱりとお断りした筈ですが」
「諦めない」
「・・・私もいずれ成長します、このままではありませんよ」
「だからロリコンではないとっ!」
「ねーだから、ロリコンって何なの?」
「ティーナ様は知らなくて良いことです」
「また仲間外れ・・・」
ティーナ様はしょんぼりしてお菓子を千切り始める。
「ともかく・・・私には婚約者候補の方もいます。リオン様のことを好きになることはありません」
リオン様がひゅっと息をのんだ。
ここまできっぱり言ったことは今までなかった。
傷ついた様子だけど、仕方ないことだ。
本当のことだもの。
だって明らかに息子年齢よ?
っていうか実際の息子より年下だわ。
好きになるってある?
「って、えええええ」
泣きだしたー!?
ちょっとアンタ、25でしょ?
10歳児に振られて泣きだすってどうなの!?
「お兄様!?」
ティーナ様がおろおろ。
私もおろおろ。
「・・・帰る」
袖で涙を拭きながら、リオン様は帰って行く。
いやいやいやどんだけ子供なの・・・。
◇◇
予想通りだけど、リオン様はあれからティーナ様の部屋に来なくなった。
新の月、私が長期休暇を取ったときには来てたみたいだけど。
贈り物も届かなくなり、平穏な日々。
・・・・・のはずなんだけど、心にぽっかり穴が空いたような・・・。
・・・気分には、残念ながらなっていない。
むしろあぁ良かった、で済んでいる辺り、私ってなんて薄情なの、とは思う。
でもいずれはこうなっていたわけだし、良いんじゃないかしら。
まだ若いんだもの、すぐ次も見つかるわよ、うん。
・・・・・胸の小さな童顔な成人女性、早々いるかしら。
「・・・シュカ」
外行こうかと自室の扉を開けると、リオン様がいた。
何故ここに。
「リオン様、ごきげんよう。いかがされましたか?」
「話がしたい」
「中に御這入りになりますか?」
「あぁ」
流石に王族を外で立ち話で済ますというわけにはいかず、自室に招き入れる。
「いつもよりランクが下のお茶しかありませんが・・・」
「良い」
愛飲しているブレンドティとリオン様に頂いたお菓子を出す。
私は普段お菓子を食べないので、これしかないのである。
ブレンドティも茶葉の状態ではなく、自分でティーバッグにしてある代物だ。
だって楽なんだもん。
「それでお話とは」
「寂しかった」
リオン様に抱きしめられる。
ときめきもなければ身の危険も感じないが。
「・・・シュカは?」
「私は別に、寂しくありませんでしたが」
その答えに、リオン様はくしゃりと顔を歪める。
傷つきたくなければ、聞くな。
振られた相手に普通聞く?
私はそんなに優しくない。
「どうすれば、好きになってくれる?」
うざい。激しくうざいぃぃぃ!!
「ですから、好きになることはございません」
「・・・くそ、押してダメなら引いてみろって言われたのに」
「それでうまくいくこともありますが、うまくいかないこともあります。というか私が相手ではうまくいきません」
リオン様は私を抱きしめたまま、溜息をついた。
「好きにならずとも、良い。だが、結婚してほしい。そばに、居てほしい」
「申し訳ありませんが、婚約者候補がいますので」
「・・・俺も、婚約者候補に、なる」
「は?」
「決めた、そうしよう。それが良い」
「ちょ、リオン様?」
「そうすればシュカが16になったとき、もしかしたら結婚できるかもしれないだろう?」
もしかしたら~できるではない。
リオン様が願い下げしない限り、確実に私の相手はリオン様になる。
王族より上の家なんてないのだから当たり前だ。
父親も母親も確実にリオン様との縁談を進めるだろう。
「ま、待って下さい」
「何だ?」
「あの、私、違うんです!」
ルーファス少年は、親同士が決めたこと。
だから申し訳ないなとは思うものの、諦めてもらうしかないと思う。
だけどリオン様は違う。
親同士の決めたことでもなければ、むしろ選び放題な立場だ。
「わ、私、私、本当は、5X歳なんですぅぅぅ!!」