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第7話:魔法装甲vs徹甲弾


「料金の取り立てに来ました。……命で支払ってもらいますよ?」


 私が全通信回線に向けて放った冷酷な宣戦布告は、戦場に一瞬の不気味な静寂をもたらした。

 敵も味方も、基地の中庭に突如として現れた全身から黒煙を吹く鋼鉄の巨神と、そこから響く可憐な少女の声のギャップに思考を停止させている。だが、その沈黙を最初に破ったのは、敵の先鋒部隊を率いる指揮官の下品な嘲笑だった。


『はっはっは! 女子供の記録係が乗っているだと!? 王国軍もいよいよ人材不足と見える!』

『しかも魔力反応ゼロの、スクラップ寸前の鉄クズじゃないか! そんな骨董品で、我々の最新鋭機に勝てるつもりか!』


 敵のパイロットたちが、次々と回線越しに侮蔑の声を上げる。

 彼らの乗る量産型機体が、一斉に私の機体へとその流線型の腕を向けた。空中にいくつもの魔法陣が展開され、赤や青の眩い光が基地の薄暗い中庭を派手に照らし出す。


(やれやれ。魔力がないってだけで、ここまで舐め腐った態度を取れるとはな。兵器の恐ろしさってのは、見た目の綺麗さじゃ決まらねえんだよ)


 心の中のおっさんは、呆れを通り越して深い溜息をついた。

魔法至上主義の連中にとって、魔力を持たない兵器は「動く的」以下の認識らしい。

だが、私はコックピットの中で一切の表情を変えず、ただ両手と両足のペダルに神経を集中させていた。


『死ねえッ! 王国のゴミ共ごと、その鉄クズも消し炭にしてやる!』


 敵指揮官の号令とともに、十数機の魔導機から一斉に特大の魔法攻撃が放たれた。

 炎の槍、氷の散弾、そして雷の鞭。あらゆる属性の魔法エネルギーが、空間を歪めながら私の機体へと殺到してくる。それは、魔力を持たないただの鉄の塊など、一瞬で蒸発させてしまうほどの圧倒的な熱量と破壊の嵐だった。


『だ、駄目だ! 逃げてくれレイ管理官! その機体には魔法障壁シールドが搭載されていない!』

『そんな旧式の装甲じゃ、直撃すれば熱でコックピットごとドロドロに溶かされちまうぞ!』


 後方で腰を抜かしているエリート騎士たちが、悲痛な叫び声を上げる。

 彼らの常識では、魔法攻撃を防ぐには「それ以上の魔力で編まれた障壁」を展開するしかない。だからこそ、魔力ゼロの私の機体は為す術もなく破壊されると信じて疑わないのだ。


(馬鹿野郎、逃げる必要がどこにある。魔法ってのは所詮、エネルギーの指向性を持たせただけの現象だ。直撃の『角度』さえ殺してやれば、ただの熱風に過ぎねえよ)


 私は操縦桿を半歩分だけ右へ引き、同時に左足のラダーペダルを深く踏み込んだ。

 ガコンッ! という鈍い衝撃とともに、機体が斜め前方へと極端に前のめりになる。一番分厚い左肩の複合装甲を、殺到する魔法の嵐に対して「四十五度の角度」で突き出す、泥臭いマニュアル機動だ。


 ズガガガガガガァァァァァンッ!!!


 凄まじい爆発音と閃光が、基地の中庭を完全に呑み込んだ。

魔法の直撃を受けた地面がすり鉢状に抉れ、もうもうたる土煙と水蒸気が私の機体を覆い隠す。

 圧倒的な熱量がコックピットの防弾ガラス越しに伝わってくるが、私の体はシートベルトに固定されたまま微動だにしない。


『やったぞ! あの生意気な小娘ごと、跡形もなく消し飛んだわ!』

『あ、ああ……我々の最後の希望が……!』


 敵の歓喜の声と、味方の絶望の悲鳴が交差する。しかし、土煙が晴れ始めた次の瞬間、戦場のすべての人間が自分の目を疑うことになった。

 

 爆心地の中心。オレンジ色に焼け焦げた大地の上に、あの無骨な鉄の塊が「無傷」で立っていたからだ。


『ば、馬鹿な!? 直撃したはずだぞ!』

『魔法障壁もないスクラップが、どうやって俺たちの魔法の一斉射撃に耐えたんだ!?』


 敵パイロットたちが、恐怖で裏返った悲鳴を上げる。

 彼らの目には、魔法の理を無視した不死身のバケモノにしか見えないだろう。

 私は土煙を排気ガスで吹き飛ばしながら、通信機越しに冷たい事実を突きつけた。


「耐えたのではありませんよ。ただの『物理法則』です。分厚い装甲に角度(傾斜)をつけることで、魔法の着弾の威力を横へと逸ら(弾き)しただけですから」


 前世の戦場では常識だった「避弾経始ひだんけいし」という傾斜装甲の概念。

 魔法使いの連中は、障壁という見えないバリアに頼りきっているため、装甲そのものの形状で物理的に威力を殺すという発想が根本から抜け落ちている。

 真っ直ぐ撃ち込まれたエネルギーなど、装甲を斜めに受ければただ滑っていくに過ぎないのだ。


「さあ、あなた方の自慢のダンスは終わりましたか? 魔法のクールタイム(再詠唱)には、まだ数秒かかりますよね」

『ひぃッ!? う、撃て! 次の魔法を早く準備しろ!』


 パニックに陥った敵機が、慌てて再び魔法陣を展開しようとする。

 だが、その『約三秒』という致命的な隙を、歴戦の傭兵が見逃すはずがない。

 私はメインスロットルを全開にし、重たい操縦桿を力任せに前方へと叩き込んだ。


 ズズォォォォォンッ!!

 

 エンジンの咆哮とともに、鋼鉄の巨神が爆発的な加速で敵陣へと突撃を開始する。一歩踏み出すごとに大地が悲鳴を上げ、圧倒的な質量が敵機への距離をゼロへと縮めていく。


(魔法陣のエフェクトなんて、的を大きくしてるだけじゃねえか。そんなに光らせてたら、目を瞑ってても当てられるぜ!)


 私は機体の右腕に懸架された、大口径の多銃身機関砲ガトリングのトリガーを引いた。

 ギュイィィィィンッ! というモーターの回転音が響き、六本の銃身が高速で回り始める。

 魔法の詠唱などという悠長な時間は必要ない。トリガーを引けば、物理法則は即座に弾丸を吐き出すのだ。


 ブォォォォォォォォォォッ!!!


 機関砲が火を噴き、コンマ一秒の間に数十発の極大徹甲弾が敵部隊へとバラ撒かれた。

 耳を劈くような発砲音と、空薬莢が地面に滝のように降り注ぐ金属音が戦場を支配する。魔法陣を展開中だった敵機は、回避する暇すら与えられず、その鉛の暴風を正面から浴びることになった。


『がはぁッ!? な、なんだこの攻撃は! 目に見えない速さで、何かがぶち当たって……!』

『障壁を展開しろ! 『絶対魔法防壁』なら、いかなる属性魔法も無効化できるはずだ!!』


 敵の指揮官機が、慌てて機体の出力を最大にして分厚い魔法のバリアを展開した。

 光のドームが彼らの機体を覆い、機関砲の弾丸がそこに激突して火花を散らす。

 彼らの言う通り、その障壁は炎や氷といった「魔力による属性攻撃」を完璧に防ぐことができる最高精度の代物だった。


「……属性魔法? ええ、確かに見事な魔法障壁ですね。魔力攻撃なら、かすり傷一つ負わないでしょう」


 私はガトリングの掃射を続けながら、冷たくサファイアの瞳を細めた。


「ですが、それが『純粋な物理の運動エネルギー』に対して、どれだけの耐性を持っているか……試したことはありますか?」

『な、なに……!?』


 次の瞬間、光のドームに恐るべき変化が表れた。

 

 絶え間なく叩き込まれる実弾の圧倒的な「質量」と「衝撃」に、魔法で編まれた繊細な術式が耐えきれず、メシリ、メシリと悲鳴を上げ始めたのだ。

 魔力エネルギーの相殺ではなく、純粋な物理的破壊力による強制的な粉砕。


『ば、馬鹿な! 絶対魔法防壁にヒビが入っていく!? ただの鉄の弾だぞ!?』

『魔力が……障壁を維持するためのマナが、物理的な衝撃でゴリゴリ削られていく! 出力が持ちません!!』


 敵のオペレーターが絶望的な報告を叫ぶ。

(当たり前だ。どれだけ高度なプログラム(術式)を組もうが、そのサーバー(障壁)を物理のハンマーで叩き割っちまえば意味がねえんだよ)

 心の中のおっさんが、シニカルな笑みとともに残酷な事実を宣告する。


 パリンッ!!!

 

 ガラスの割れるような甲高い音とともに、敵の絶対魔法防壁が粉々に砕け散った。無防備な姿を晒した最新鋭の魔導機。その胸部コックピットの真正面に、私の機体はすでに「ゼロ距離」まで肉薄していた。


『ひ、ひぃぃぃッ! く、来るな! 化け物ぉぉぉッ!』


 敵指揮官が涙声で命乞いをするが、私は表情筋一つ動かすことなく、左腕に装備された無骨な兵装――超至近距離用の『徹甲弾ランチャー(パイルバンカー)』の照準を合わせた。

 魔法の杖の代わりに突きつけられた、油まみれの極太の鉄の杭。


「チェックメイトです。魔法使いさん」


 私は可憐な声で淡々と告げ、躊躇うことなく撃発スイッチを押し込んだ。


 ズゴォォォォォォォォォンッ!!!


 ゼロ距離で放たれた徹甲弾が、敵機の美しい流線型の装甲を紙切れのように貫通し、内部の魔導コアごと背中へと突き抜けた。

 内部で爆発した火薬の威力が、敵機を内側から完全に粉砕する。

 大量の鉄クズと火花を撒き散らしながら、さしもの最新鋭魔導機が轟音とともに崩れ落ちた。


『あ、ああっ……部隊長が、あんな一瞬で……』

『悪魔だ……! 魔法が通じない、悪魔だぁぁッ!!』


 残された敵の量産機たちが、パニックを起こして蜘蛛の子を散らすように後退していく。

 魔法の通じない装甲。詠唱の隙を与えない実弾の嵐。そして、障壁ごと粉砕するゼロ距離の暴力。彼らの魔法至上主義の常識は、この数十秒の間に跡形もなく叩き潰されたのだ。


『す、すげえ……! 見たかよおい! ただの分厚い装甲と鉄の弾だけで、最新鋭機をスクラップにしやがった!』

『これが……レイ管理官の実力……! 俺たちはなんて恐ろしい人をポンコツ呼ばわりしていたんだ……!』


 後方で成り行きを見守っていたエリート騎士たちが、もはや畏怖の念すら通り越して、神を見るような目で私の機体を拝んでいる。

 私は油圧の駆動音を響かせながら、ゆっくりと機体を旋回させた。制圧は完了した。あとは残党を掃討するだけだ、と操縦桿を握り直したその時だった。


 ピーーーッ!!

 

 コックピットの旧式アナログレーダーが、今までとは比較にならないほどのけたたましい警告音を鳴らし始めた。計器の針が振り切れんばかりに暴れ、基地の空を覆うほどの巨大な魔力反応が急速に接近してくる。


「……やれやれ。どうやら、これで店じまいというわけにはいかないようですね」


 私はレーダーの示す方向、基地の正門のさらに奥へとサファイアの瞳を向けた。

 敵の残党が道をあけ、その奥から姿を現したのは、先ほどの量産機とは比較にならないほどの禍々しい魔力を放つ、敵軍の「特級魔導機」だった。


(チッ、どうやら本格的に残業が確定したらしいぜ。……給料分以上は、きっちり働かせてもらうからな)

 心の中のおっさんが、葉巻を噛みちぎるように獰猛な笑みを浮かべる。

 

 私は再びメインスロットルに手をかけ、新たな獲物に向けてエンジンの咆哮を上げさせた。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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次回お楽しみに。

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