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猫は喋らない。  作者: now here man


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6/6

『最終話』ナポリタン。

夜だった。


雨は降っていない。

それでも、路地は静かで、

街の音は、少し遠くにあった。


その店は、そこにあった。


看板はない。

灯りだけが、柔らかく滲んでいる。


女は立ち止まり、しばらく眺めてから、ドアを開けた。


中には、カウンターと、黒猫。


「……まだ、やってるんだ」


答えはない。

猫は、ただこちらを見ている。


女はカウンターに座る。

懐かしい匂いが、すでに漂っていた。


キッチンの火が入る。

鍋を振る音。


やがて、目の前に置かれたのは、ナポリタンだった。


オレンジ色のソース。

玉葱とウインナー、ピーマン。

最初の夜と、変わらない。


女はフォークを取り、一口食べる。


味は、同じだ。


けれど、胸に広がる感覚は、違っていた。


温かい。

だが、もう、縋るような温かさではない。


女はゆっくりと食べ進め、皿を空にする。


「ご馳走様でした」


財布を取り出し、金を置く。

初めて来た夜より、迷いはなかった。


立ち上がり、ドアの前で立ち止まる。


「……ありがとう」


猫は、何も言わない。

ただ、一度だけ、尻尾を揺らした。


外に出る。


路地は、いつもの夜だ。

振り返ると、店の灯りは消えていた。


それでも、女はもう、探さなかった。


必要な時には、

きっと、また現れる。


あるいは――

もう、現れないかもしれない。


それでいい。


女は前を向き、歩き出す。


ナポリタンの匂いは、

いつの間にか、夜に溶けていた。


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