2話 バルトスへ 前編
最果ての町から出発して1か月、背中に乗った少年も随分と心を開いてくれ今では首を撫でてくれブラッシングしてくれるようになった。クレント族のことを魔族と呼ぶ人も多いいが、私がこれまで戦ってきた魔族はこんな優しい顔をするところなど一度も見たことがない。
少年はレインというらしく、思った通り家族と離れ離れになってしまったらしい。初めは私のことを恐れて話かけてなどこなかったが・・・
「聞いてる?馬さん」
私にはペルプフェというシルヴィアがつけてくれた立派な名前がある。だから少年、レインにもそう呼んでほしいのだが・・・そう言えればどれほど良いのだろう、馬というのはことのほか不便なものである。一緒に旅をするにつれ彼もシルヴィアと同じように私に語り掛けるようになっていった。私から話すことは出来ない一方通行の会話だが、そのリズムが妙に心地よかった。
レインの目元まで伸ばした青い髪が私が歩くたびに上下に揺れる。のんびりと街道を進んでバルトスまでかなり近づいて来たとき、野盗の集団に襲撃された。野盗は馬に乗っているのがクレント族だち分かった途端、何をしてもいいと思ったのだろう下衆な笑みを浮かべて近づいてくる。
「止まれ!そこのクレント族・・・いい剣と杖だな。置いていけ」
野盗はみなかなり鍛えている男たちのようで魔王討伐失敗にともなって避難してきた者たちが仕事に溢れたのだろう、いまだ健康的であった。もともと法国はその圧倒的魔法技術で周辺でも屈指の治安の良さを誇っていたが魔、王の討伐失敗の余波なのだろう、町の兵士たちは住民の疎開の護衛に出ているようで人手が足りていないらしく治安は悪化の一途を辿っていた。
ただ、この杖と剣に手を出そうとするならば話が変わってくる。警戒心を抱かれないよう野盗に歩み寄る。
「な、なんだこの馬!ぐうぇッ」
「さ、下がれ距離をとって囲むんだ」
私だって伊達に勇者一行の旅に同行していたわけではないのだ。まさか馬に攻撃されるとは思わなかっただろう。一人目の野盗に後ろ蹴りを食らわせ吹っ飛ばす。もろに腹に入った後ろ蹴りは人間の内臓など簡単に破壊する威力を有していた。すぐに距離を取った野盗達だが馬が遠距離なら何も出来ないと思っているらしい。しかし、私を普通の馬と一緒にされては困るのだ。体内の魔力を夜盗に向けてぶっ放す。
『衝撃を放つ魔法!!』
聖女にずっと乗られていた影響なのか私は少しなら魔法を使うことが出来るのだ、ちなみに動物が魔法を使うのはさほど珍しいことではなく肉食獣などは探知魔法を使って狩りをしている。だが人間の魔法を使える動物というのは珍しいらしく野盗は慌てて撤退を始める。
いくら魔法の国である法国でも魔法を使える人材はそうはいない、にも関わらずそこら辺の馬が魔法をぶっ放してきたのだ。彼らからしてみれば魔王の討伐失敗も相まって魔物にしか見えないだろう。失礼な話であるが魔物など一般人が相手を出来る訳がなく、彼が逃げるのも道理であるのだ。
そうして2、3度野盗と戦いながら街道を進むと、ついにバルトス囲う城壁が見えてきた
全体を国のシンボルカラーである黒で染め上げた城壁はかなりの高さを誇っていた。平時であればきっと活気に溢れていたのであろうこの町も魔王城から近い町であることには変わりなく、今も城門から住民を載せた馬車がひっきりなしに出ていき、より西側の町へと避難していく
その中で馬車の大軍で避難してくる一団とすれ違った。彼らは一度この町に寄った際勇者たちに豪華なご飯を振舞っていた者、町の権力者であった。この人たちについていけばひとまず安全なところにたどり着くだろう。そう考えて一団の後ろを距離を開けて追っていると彼らの話が聞こえてきた。
「魔法使いのやつがしっかり魔王を倒してさえいればこんなことにはならなかったのにな」
「全くだ、何が勇者パーティーなんだか」
言うにも事欠いてこの町の住民は勇者パーティーを、みんなを馬鹿にしやがったのだ。魔王を追い詰めている時はあれだけ持ち上げておいて、いざ失敗したらこの言いようである。こんな奴らは死んでいいだろう、怒りに任せて彼らに魔法を行使するよう魔力を練り上げる
「駄目だ!やめて!」
私の異変に気付いたレインが手綱を引き止めに入ったため、集中が途切れる、邪魔をするなら彼であっても容赦はしない、彼ごと魔法を打ってやる。そう思ったときには私の意識は記憶の中に閉じ込められた。
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勇者一行 旅立ちからしばらく経った頃
主人は私に魔法について語りかけてくるようになった。私を戦力にしようとしているのだろうか、それとも日々の戦いの息抜きか。何度も繰り返し練習するうちに少しずつ感覚をつかんできた。
「こうして体の中の魔力を集めて、外に出すように・・・」
「馬にそんなこと言ったって通じるのかよ」
「ペルは賢い子なので、分かっているのですよ。ね?やってごらん」
そう言って私に魔法を使うように促す主人、そんなこと言っても出来るのだろうか・・・私は主人がさきほどやっていたことを真似してやってみる
放たれた魔法の衝撃波が木に直撃し、その幹が音を立ててへし折れる。
出た・・・がさきほど主人が使ったのは私の疲れをとってくれる魔法であったため、これは失敗なのかと思い主人を見る
「ほっ本当に魔法撃ちやがった・・・」
「驚いたね、まさかこんなことがあるなんて」
戦士と勇者が驚きの声を上げていたなかで聖女は当然のように満足そうな顔をしていた。
「いい?ペル、君の魔法はね単純だけどとても強力な・・・人を傷つけることが出来る魔法なの、使い方を誤れば貴方はきっと魔物として見られてしまう。だからね。もし、その魔法を自分や仲間を守るためじゃなく、ただ自分の怒りの発散のために使ったら・・・」
「私、あなたのことをいっぱい叱るために呪いますよ?」
大陸教にとってもっとも厳しく相手を非難することを意味する呪い、それを教会のなかで最も優れた魔法使いであるシルヴィアが口にした以上呪いは必ず果たされることになるだろう
たとえ彼女がこの世に居なくても。
「人の気持ちを知ってみよっか」
もうこの世にいない聖女から今まで聞いたことのない言葉、記憶にない言葉が確かに聞こえたのと同時、私は私の体が根本から構造が変わったような感覚に陥ったのだった。




