冒険者のたまご 〜爆誕!召喚士・りん!〜
こちらは、自分の娘のために書いた、児童文学作品です。
子どもでも楽しめるストーリーを意識して書いておりますので、童心に戻って読んでいただけると有り難いです!
ここは、冒険者になりたい子どもたちが集まって勉強をする、冒険者アカデミー。
今日はアカデミーの一大イベント、模擬ダンジョンテストの日です。
ところが……このお話の主人公である女の子、りんちゃんはテスト開始早々、大ピンチなのでした。
どうしてかって? それは……
「あれ? みんな、もう出発しちゃったの!?」
そう、何とりんちゃん、スタートに出遅れてしまって、ひとりぼっちなのです。
何を隠そうこのりんちゃん、とっても優しくて生き物が大好きな女の子なのですが、ちょっとのんびり屋さん。
今だって、テストスタートの号令を聞き逃して何をしていたのかと言うと…
ダンジョンの入り口で見つけたイエアメカ゚エルさんと楽しくお話をしていたのです。
もちろん、カエルはゲコゲコと…いえ、このイエアメガエルは「ギコギコ」と鳴くだけなのですが、りんちゃんには言葉が分かるのか、「うんうん、そうなんだ〜」などと何やら盛り上がっていたせいで、みんながスタートしたことに気づけなかったのですね。
「わぁ、どうしよう! とりあえず早く行かなくちゃ!!」
りんちゃんは大慌てで駆け出そうとして……カエルの方へ振り向きました。
「エルちゃん、一緒に行く?」
カエルは、ギコッと一言鳴いて、差し出されたりんちゃんの手の上に乗りました。
どうやらりんちゃんは、そのカエルに『エルちゃん』と名前を付けたようです。
1人と一匹の模擬ダンジョンテストのスタートです。
◇◇◇
「暗いんだね……ホントのダンジョンも、こんな感じなのかなぁ……」
りんちゃんは掌の上のエルちゃんに話しかけながら進んで行きます。
支給用のランタンは持っていますが、それでも見通しが悪く、周りがよく見えません。
「あ、灯りだ!」
しばらく歩いて、ようやく松明のある場所へと辿り着きました。
その先に、宝箱が見えます。
「宝箱!! アイテムアイテム!」
りんちゃんは目を輝かせて走り出そうとしました。
「ギコギコッ!!」
エルちゃんが大きな声を上げます。
「なになに? どうしたの? エルちゃん!」
思わず足を止めたりんちゃん。その足元から……
ゴゴゴゴゴ……
と地響きのような音がしました。
そして現れたのは…スライムでした!
ぷよん、ぷよん、と体を震わせながら、水色のグミのようなスライムが数匹、こちらへ向かって来ます。
「えっと、えっと、どうしよう!?」
りんちゃんは大慌て。
アカデミーの授業の内容を一生懸命思い出します。
スライムは確か…モンスターとしては弱いけど、攻撃されると痛いし、くっつかれると取れなくなって、数が増えて体中にくっつくと息が出来なくなるって言ってた!
だから、何とかして倒さなくてはいけません。
りんちゃんは、支給された基本の武器…杖にも剣にもなる、先の尖った木の棒を取り出しました。
「魔法陣に挑戦しよう!!」
りんちゃんは地面に大きく丸を書き…そこで一度止まってしまいました。
「魔法陣、どうやるんだっけ?」
スライムが近づいてきます。時間がありません。
りんちゃんは大慌てで、とにかく覚えている魔法陣を描いてみました。
「えいっ!!」
ボウンッ!!
描いた魔法陣から煙が上がり…
「俺を呼んだか!?」
男の子の声が響きました。
「え?」
見ると、魔法陣の上に、小さな生き物の姿があるのに気付きました。
「…アカハライモリ?」
そう、そこにいたのは一匹のアカハライモリのような召喚獣。
「俺の名はフレイム! りんが俺を呼んだんだろ? 任せろ、役に立ってみせるからよ!!」
フレイムと名乗ったイモリは、たくましくそう言います。
ですが、どう見てもスライムよりも小さく、とても強そうには見えません。
「戦えるの?」
「当たり前だろ!!」
フレイムはそう言って自信満々にスライムの方へ振り返り・・・ピタリと止まりました。
「スライムじゃないか。」
「そうだよ?」
「何で俺を召喚したんだよ! スライムは水属性! 俺は火属性! 水は苦手なんだよ!!」
「ええ!? そんなこと言われても!!」
そう、実はりんちゃん、思い出せた唯一の魔法陣が『火の召喚魔法』だったのです。
スライムはぷよん、ぷよん、と近づいて来ます。
「どうしたらいいの!?」
「俺に聞くな!! 水に効く魔法とか出来ないのかよ?」
「分かんないんだもん!!」
「マジかよ!! ならもう逃げるしか無いだろ!!」
りんちゃんとフレイムは大慌てで来た道を戻ろうとします。
ところが…
ぼよよん、ぼよよーん!
スライムが2人の前に回り込み、何と挟み撃ちにされてしまいました。
「ど、どうしよう!?」
「仕方無い、やるだけやるか!! ファイアボール!!」
フレイムが口を大きく空け、炎の弾を吐き出します。
しかし、相手は水のスライム。
小さなイモリの作った炎など、あっという間に打ち消されてしまいます。
「ダメだ、やっぱり効かねぇ!!」
「りん、もうゲームオーバーなの!?」
りんちゃんはフレイムを抱き上げて泣きそうになりました。
すると、突然、りんちゃんの肩に乗っていたエルちゃんがピョンッと飛び降りました。
「エルちゃん! 危ないよ!!」
スライムが迫ってきます。
エルちゃんはあんぐり、と大きな口を開け……なんと、スライムをぱくりと飲み込んだのです。
「え、エルちゃん!? 大丈夫なの!?」
りんちゃんの心配そうな言葉に、エルちゃんはくるりと振り返り、ギコッと一声鳴きました。
まるで「美味しかった」と言っているようです。
そして、驚くことにエルちゃんは、周りにいた他のスライムもぜーんぶ綺麗に食べてしまいました。
「エルちゃん、すごいすごい!!」
りんちゃんは嬉しくなってエルちゃんを掌に乗せ、よしよし、と撫でます。
エルちゃんはどこか嬉しそうに目を瞑ってそれを受け入れました。
その横で…フレイムが不満そうにエルちゃんを見ています。
一先ず、この場の危険はまぬがれたので、りんちゃんは宝箱をそうっと開けました。
入っていたのは、ブーツです。
羽根のような飾りが付いていて、何だかとてもオシャレなデザインでした。
「可愛いブーツ!!」
りんちゃんは嬉しくなって、早速そのブーツを履いてみました。
体が軽くなったような感じがしました。
「何か、早く走れそうな気がする!!」
りんちゃんはそう言うと、エルちゃんとフレイムを肩に乗せ、ダンジョンの奥に向かって走り出しました。
ブーツのおかげでとても調子良く進んでいたりんちゃんですが…
ツルンっ!!
すてーん!!
「わあぁっ!?」
突然、足を滑らせて派手に転んでしまいました。
「いたたた……何で?」
辺りを見ると、地面が所々凍っています。
「氷だ……」
ここからは走るのは止めたほうが良さそうです。
りんちゃんは慎重に慎重に、ゆっくりと進みます。
すると、奥で何かが2つ、青く光りました。
「気をつけろ、モンスターだ!」
フレイムがそう言います。
青く光った物が少しづつこちらへ近づいて来るのが分かりました。
ズシン、ズシン…と重そうな音が聞こえてきました。
「ゴーレムだな。氷のゴーレムだ。」
フレイムの言葉にりんちゃんは驚きました。
「ゴーレム!? そんなの倒せないよ!!」
「ギコ…ギコ…」
「エルちゃん?」
弱々しい声を上げるエルちゃんに、りんちゃんが目を向けると、エルちゃんはまぶたを閉じようとしているところでした。
「エルちゃん! どうしたの!? エルちゃん!!」
りんちゃんは慌てて呼び掛けますが、エルちゃんは反応しません。
「カエルは、寒いのが苦手なんだろ。冬眠しようとしているんだ。そっとしておいてやれ。」
フレイムにそう言われ、りんちゃんは「そっか…」と呟いてエルちゃんをそっとポケットに入れました。
ゴーレムが近づくにつれ辺りはいっそう寒くなり、まるで冷蔵庫の中にいるみたいです。
「でも、どうしたらいいの? りん、ゴーレムなんて倒せないよ。」
「大丈夫だ!」
フレイムがぴょんっとりんちゃんの肩から飛び降りました。
「相手が氷なら、俺の出番だ!!」
そう大きな声で言ったかと思うと、フレイムは威嚇のポーズを取りました。
するとなんと、フレイムのしっぽの先に炎が生まれ…その炎がフレイムの体を包み込みます。
「フレイム! 大丈夫なの!?」
「大丈夫だって、言っただろ!」
その言葉と共に、フレイムの体がグググッと巨大化し…なんと、人間のような姿に変化したではありませんか。
「見てろよ、りん!」
ニッと笑ってそう言い、フレイムは両手をゴーレムへ掲げました。
「フレイム、キャノン!!!」
フレイムの両手から大きな炎のボールがいくつも生まれ、ゴーレム目掛けて飛んでいきます。
「ウゴォォォォ!!!」
ゴーレムはフレイムの炎をくらって、その場にドシーンと倒れてしまいました。
「す、すごい!! フレイム、強い!!」
「まぁな! ざっとこんなもんよ!」
フレイムは嬉しそうにポーズを決めます。
そして、そのままシュルシュルと体が縮み…元のイモリの姿に戻ってしまいました。
「人間のままで良かったのに…」
りんちゃんが残念そうに言うと、フレイムは「そう言うなよ…」と答えます。
「この姿は魔法技を使う時しか出来ないんだよ。」
「そうなんだ…」
「それより、今のゴーレムはボスだろ? 早く宝箱開けてゴールしようぜ!!」
気付けば、辺りの氷も溶け始め、ポケットで眠っていたエルちゃんも、ポケットから顔を出していました。
「うん!!」
りんちゃんは、ゴーレムが落とした大きな宝箱を開けました。
「これは…杖?」
そう、そこに入っていたのは、キャンディーのような可愛らしいデザインの杖でした。
「可愛い杖!!」
りんちゃんはひと目でその杖を気に入ったようです。
そして、りんちゃんとエルちゃんとフレイムは、3人…いえ、1人と2匹で無事に模擬ダンジョンをクリアすることに成功しました。
「よくクリア出来たわね。素晴らしいわ。」
ゴールで待っていた先生がそう褒めてくれ、りんちゃんの手にしている武器を見てこう言いました。
「その杖は、召喚士の杖ね。おめでとう、りんちゃん。あなたの冒険者としての職業は『召喚士』に決定ね。」
「召喚士……」
『召喚士』それは、様々な能力を持つ召喚獣を呼び出すことで戦う魔法使いのことです。
「りん、俺のことはいつでも呼んでくれ。ただし、水属性のモンスターの時は勘弁してくれよ…」
フレイムがそう言って笑い、ふわりと消えていきました。
「フレイム…いなくなっちゃった…」
しょんぼりとするりんちゃんの肩に、エルちゃんが飛び乗り、ギコギコと鳴きました。
「エルちゃん…慰めてくれるの? ありがとう。」
「ギコギコ!」
「そうだね、りんは召喚士だから、またいつでもフレイムに会える。それに、エルちゃんもいるから、淋しくないよ。」
りんちゃんは新しい杖をギュッと握り締めました。
もっとちゃんと魔法陣を勉強して、色んなお友達を召喚出来るようになるんだ…!!
そう心に誓いながら。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
今後はぼちぼちと気ままにシリーズ展開しようかと考えております。
※登場するカエル&イモリは、家で飼っている子達がモデルになっています。
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