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カルナディアの勇者ガヤオと仲間の猫獣人ネココは、ダンジョン内の通路を進んでいた。
「ガヤオさん、そろそろ中ボス戦ぽいッスよ」
ネココが告げる。
「確かにな」
頷いたガヤオを、ミョーン感覚が襲った。
ミョーン感覚とは、ガヤオが他の世界に呼ばれた時に起こるミョーンとした感じである。
「わー! まただよ!」
「お疲れッスー」
ネココが半笑いで敬礼した。
「何だ、そのムカつく顔! 仕方ない、待っててくれ!」
「へーい」
ネココの気の抜けた返事を聞きつつ、ガヤオは別世界に移動していた。
星空の下の草原だ。
石舞台のような場所に立っている。
「助けか?」
隣に立った、20代前半の男が訊いた。
美しい銀色のロングヘアと抜けるように白い肌、青い瞳が印象的だ。
黒の軽装鎧を着て、腰には長剣を帯びている。
「ああ。俺は、カルナディアの勇者ガヤオ」
ガヤオは右手を差し出した。
「私はマリラック」
マリラックが、ガヤオの手を握る。
彼の手は氷のように冷たかった。
「顔色悪いけど、大丈夫か?」
「これは生まれつきだ」
心配するガヤオに、マリラックがニヤッと笑う。
「何を手伝えばいい?」
「今、まさに、私と敵対する魔法使いに追われている」
マリラックの説明を、甲高い獣の声が遮った。
夜空の向こうから、大型のワイバーンが飛んでくる。
「奴が呼び出した魔物だな」
マリラックが、美しい両眉を吊り上げた。
「よし! 俺に任せろ!」
ガヤオは前回失くして、セールで買い直したスモールシールドを構え、右手で長剣を抜いた。
空中の敵には不利だが、ガヤオは雷呪文も使える。
何とか戦えるだろう。
「いや。私の一族と大昔に契約した魔物を呼ぶ」
マリラックが細い両腕を挙げ、ブツブツと呪文を唱えだした。
彼が何を呼ぶのか分からないが、ガヤオはとりあえず、迫る飛竜に備える。
凶暴なワイバーンは、どんどんこちらに近づいてきた。
ガヤオが射程内に入った敵に雷呪文を食らわせようとした瞬間。
マリラックが、聞いたこともない言葉を叫んだ。
突如、空中の飛竜の側に黒い球体が現れ、無数の触手を敵に伸ばす。
2匹の魔獣の戦いが始まった。
双方が絡み合い、回転しながら、こちらに落ちてくる。