狂人令嬢は知っている。鼠取りは売れ筋商品
散り散りになった男たちは、
血相を変えて森の中へと駆け込んでいた。
「くそっ……! これで見つからなかったら、
俺の首が飛ぶ……!」
焦りで声が上ずる。
その時――
「――誰の首が飛ぶの?」
凍りつくような声が、
頭上から落ちてきた。
ビクリと肩を跳ねさせて見上げれば、
信じられない光景があった。
高い木の枝。
その上に足を組んで座り込む少女――イリス。
金の髪が月明かりで揺れ、
唇の端がいたずらめいて上がっている。
「いまだーーー!」
イリスの手がひらりと振られた瞬間、
ドドドッ……! バンッ!!
バンッ! バンバンバンッ!!
森のあちこちで、
連続した爆発音が巻き起こった。
火薬の閃光に驚き、
男たちは悲鳴を上げて四方八方へ逃げ惑う。
「ひっ!! なんだこれっ!?
爆発だ!?」
だが次の瞬間――
ドスンッ!!!!
森が震えるような重い音が落ちた。
男たちが恐る恐る音の方を振り向くと、
そこには――
鉄格子の檻に、ぎゅうぎゅう詰めにされて捕まった自分たちの仲間。
「な、なんだこれ!?
放せ!! 出しやがれ!!」
叫びがむなしく響く。
枝の上からイリスが音もなく飛び降り、
軽やかに地面へ着地した。
スカートの裾を払ってから、
閉じ込められた男たちを見下ろし、にっこり笑う。
「ふぅ……やっぱり便利ね、ホームセンター勤務の知識って」
「……は?」
男たちは意味がわからず固まった。
イリスは檻の枠を指で軽く叩きながら言う。
「これね、あなた達が子供たちにつけてた手錠。
あれを何個も使って、スナップトラップに改造したの。
人間サイズに鉄を広げるのは大変だったけど……」
ウインクしながら肩をすくめる。
「道具は使い方次第って、うちの店長も言ってたわ」
「スナップ…トラップ…?」
「うーんと、鼠取りの事よ!
そうそう、冬ってね、
鼠が民家に入ってくるから、罠を仕掛けるのよ。
カゴの中に餌をつけて
まぁ今回は餌なしだけど
これ、うちの売れ筋だったのよ」
軽やかに笑うその姿が、逆に恐ろしい。
そして、
地面にちらばる黒い紙切れ――
あれは爆竹の破片だ。
「そしてね、ガレスとのデートの時に使おうと思ってた爆竹……
今日もしかしてサプライズで二人も来るかと思って持ってきたんだけど、すっごく役に立ったわ
ちなみに用途は熊とか驚いてどこかに行ってしまう代物よ
これも売れるから発注はしまくったわ」
思わず男の顔色が変わる。
「それでね、丸く大きく散ってる子供たちに、
合図で一斉に火をつけてもらってね。
あなたたち、驚いて真ん中に集まったでしょう?」
イリスはころころと笑う。
その笑顔の裏にある“冷静な計算”を、誰も読み切れない。
「この世界じゃ……
あなた達は、動物と同じ。
罠にかかったら、もう終わりよ?」
血を一滴も流さず
造作と知恵だけで子供達を救った。
イリスは鏡のように静かで、残酷に美しかった。
「みんなー、もう出てきていいわよー」
合図とともに、
木々の影から子供たちが姿を見せる。
彼女の後ろに集まるその姿は、
まるでヒーローに守られているかのようだ。
イリスは一人ひとりを確認しながら数える。
「……7、8、9……うん、全員ね」
満足そうに頷き、
最後に馬車の方向を振り返った。
「残るは“ボス”だけ、かしら」
小さく息を吸って、
森の奥へと視線を向ける。
「ガルド――頼んだわよ」
その声は、
信頼と覚悟でできていた。
そして森の向こうで、
一人の男が静かに剣を抜く音がした。




