祭りの夜に、狩りは始まる
森の奥は、祭りの光が届かず、
夜の湿った空気がじっとりと肌にまとわりつく。
その静寂を破るように、荒々しい怒声が響いた。
「ちっ……!逃げたガキは、まだ見つからねぇのか!
あいつは一番高く売れるって言われてたんだぞ!」
怒鳴っている男のそばには、黒ずんだ木製の馬車が停止していた。
外見は旅商人のものに見えるが、扉は固く閉ざされ、
横には縄――そして手錠が落ちている。
別の男が煙草を踏み消しながら舌打ちした。
「急げっての。
祭りの日は警備が甘ぇんだ。
今のうちに国境越えねぇと俺たちが終わりだぞ」
月明かりの下、不穏な空気が濃く漂う。
――その会話を、すぐ近くの茂みで聞いている影が二つ。
イリスとガルドだ。
ガルドは木の陰から静かに男たちを睨みつけ、
イリスは逆に、口元だけ楽しそうにゆるめている。
そして、小声で皮肉を一刺し。
「……ねぇガルド。
お祭りだからって警備が甘いところ、
思いっきり狙われてるわよ?騎士団さん?」
その声音は軽いけれど、目だけは戦う前の鋭さを宿していた。
ガルドは苦々しい顔で眉を寄せる。
「………最悪だな。
痛ぇとこ突くなよ」
イリスは肩をすくめて微笑んだ。
「ふふ。でもほら、
悪党は目の前に揃ってるわ」
ガルドは息を深く吸い込み、腰の剣に手を添えた。
「……あぁ。やるしかねぇ」
二人の視線が闇の中で交わる。
その一瞬――
森の気配が変わった。
「行くわよ、ガルド」
「おう。全部終わらせる」
夜風が二人の影をなで、
静かに、しかし確実に狩りが始まった。




