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処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
77/112

夜明け前、狂人令嬢は剣を取る

朝日がまだ地平線の向こうで燻る頃。

村は深い闇の底にあった。


その静寂を切り裂く怒号。


「やれぇッ!!」


盗賊が一斉に飛びかかる。

アスファルトが踏み荒らされ、鋭い足音が乱れた。


イリスは一歩も退かない。


影がひとつ斬りかかってくる。


――バキィッ!


イリスの蹴りが盗賊の膝を逆へ折った。

男が絶叫し、落とした剣をイリスは迷わず掴む。


「返すわよ。」


ぐしゃッ。


喉を裂かれた盗賊が崩れ落ちる。

血飛沫がイリスの頬を赤く染めた。


表情は、氷。


「ひ、ひっ……女が……!」


「女だからって甘く見たわね。」


二人目の腹が横一文字に裂け、地面に転がる。


「こ、この化け物がッ!!」


恐怖に震えながらも、残った盗賊たちは総出で飛びかかる。


一対七。


イリスは剣を構え、ふっと笑った。


「来なさい。」


次の瞬間、鉄の悲鳴が夜を裂いた。


イリスは細い体で圧倒的に捌き続けたが――

背後から太い腕が伸び、肩をつかむ。


「捕まえたぞォッ!」


「っ……!」


地面へ押し倒される。

盗賊の汚い息が耳をくすぶる。


「へへっ……もう剣は振れねぇ。

 力じゃ勝てねぇよ、女はなぁ。」


イリスの顔には怒りだけがあった。


(こんな奴らに――私が?)


歯を強く噛みしめた、その時。


――ドドドドドドッ。


大地が震えた。


闇の向こうから、地鳴りとともに現れる影。


漆黒のマント。銀の紋章。

十数騎の馬がアスファルトを蹴り、村へ雪崩れ込んだ。


「な、なんだ……?」


盗賊の声が震える。


先頭に立つのは――


騎士団総隊長、ガレス・ヴォルク。

鋼の瞳で盗賊たちを射抜く。


隣には、槍を担ぎ涼しく笑う

騎士団副隊長、リオン・フェイス。


そして――


「イリス!!」


誰よりも早く駆け寄る影。

ガルドだ。


盗賊たちは一瞬にして青ざめた。


「き……騎士団……!?」


イリスは地面に手をついたまま、ゆっくり顔を上げる。


汗と血に塗れたその面で――

いつもと同じ不敵な笑みを浮かべた。


「遅かったじゃない。」


ガレスは馬から降り、鋭い声で言い放つ。


「状況は把握した。

 盗賊ども――覚悟はできているな?」


リオンが槍をくるりと回し、盗賊たちを冷笑する。


「俺らの仲間を傷つけた時点で、もう後戻りはねぇよ。

 お前ら全員死刑」


逃げ道が、完全に消えた。


イリスはゆっくり立ち上がり、剣を拾う。


金の瞳が――獣のように光った。


「さ、続きをしましょう?」


村の夜明け前。

最初の“戦”が、ここから始まる。


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