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処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
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裏切りたくなかった夜

村が完成した夜は、異様に静かだった。


アスファルトの道を照らす火石の灯りが、

まるで祝福するように村全体をやわらかく照らしている。


その中で――

ラガだけが、眠れずにいた。


(……こんな村を売るなんて、俺……)


胸が痛い。

息が苦しいほどに。


イリスの笑顔が、何度も何度も頭の中を巡る。


「……私、天才かもしれない。」


自分の仕事を誇り、

仲間を信じ、

未来をまっすぐに見ていた顔。


ラガは歯を食いしばった。


(……無理だ。

 あいつらだけは……売れねぇ。)


夜更け――

ラガはイリスとの手錠を簡単に外し、

静かに村を抜け出した。


森の中は冷え込んでいて、

足音がやけに響く。


やがて、焚き火の明かりが見えてきた。


盗賊団の野営だ。


見張りが気配に気づき、

刃を抜いて近づく。


「……誰だ?」


ラガは深く頭を下げた。


「……ラガだ。」


焚き火の周りにいた盗賊たちが動きを止めた。


頭領格の男が立ち上がり、

薄く笑った。


「お前、よく来たな。

 そろそろ“仕事”してもらうつもりだったんだが?」


ラガは拳を握り、

地面に額がつきそうなほど深く頭を下げた。


今までの人生で、

誰にもしたことのないような深い深い礼だった。


「……頼みがある。」


「は?」


「イリスたちだけは……見逃してくれませんか。」


焚き火のはぜる音だけが響く。


盗賊たちがざわついた。


「……おいおい、なに言ってんだ?」


「情でも移ったか?」


「まさか女か?あの金髪の嬢ちゃんか?」


ラガは歯を食いしばって首を振った。


「違ぇよ……そんな単純な話じゃねぇ。」


声が震えていた。


「アイツらは……

 俺を人として扱ってくれた。

 泥まみれの俺を、平等に……」


言葉にするほど、胸が痛む。


「裏切りたくねぇ……

 “仲間”だって言われたのに……

 俺……そんなの……できねぇよ……!」


焚き火が揺れるたびに、

ラガの落とした涙が光った。


盗賊団の男たちは一瞬黙り込む。


だが頭領はくぐもった笑いを漏らした。


「……ほぉ。

 お前がそこまで言うとはな。」


「頼む……!」

ラガは地面に手をつき、

必死に頭を下げ続ける。


「イリスたちだけは……

 巻き込まねぇでくれ……!

 俺のことはどうとでもしていい……!」


しばしの沈黙。


焚き火がぱち、と音を立てた。


頭領が低く言った。


「それは無理だ。」


ラガの心臓が止まった。


「村が完成したなら、

 なおさら奪う価値がある」


ラガの喉から、声にならない息が漏れた。


頭領は肩をすくめた。


「安心しろ。

 一番最初に殺すのは、お前だ。

 裏切り者は要らねぇ。」


その瞬間――

ラガは悟った。


逃げても、頼んでも、抗っても、

すべては遅すぎる。


盗賊団はもう村を狙って動き始めている。


ラガは地面に拳を叩きつけた。


(……くそっ……

 何してんだよ俺……

 どっちにも戻れねぇじゃねぇか……!)


頬を流れた涙は、

焚き火の赤で鈍く光った。


ラガは立ち上がり、ふらつきながら呟いた。


「……じゃあ……俺は……どうすりゃいいんだよ……」


夜風だけが答えた。

そしてイリスの村に静かな影が落ちる――。

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