灯りがともる村
夕方、村はふわりと橙色に染まっていた。
アスファルトの道の両脇に並ぶ、木造の家々。
どの家の窓にも、イリスが組み込んだ 火石の灯り がぼんやり灯っている。
まるで家々が息を吹き返したようだった。
家の中には、簡易の風呂釜、
家の奥には、造作した台所
家ごとにひっそり佇む 小さなトイレ。
全部、イリスが残土と残石と、拾った木材や竹で造ったものだ。
オズが腕を組み、感心したように言った。
「……すげぇな。
朝から晩までで、家ん中全部できてんじゃねぇか。」
マルタは鼻を赤くしながら頷く。
「お嬢様……どの家にも灯りがあって……
どの家にもお風呂と台所と……
本当に“村”になってます……!」
イリスは村の中央に立ち、静かに全体を見渡した。
灯りの連なる家々。
風呂釜から立ち上る白い湯気。
台所から漂う木の香り。
小さなトイレ小屋の影が並ぶ。
そのどれもが温かく、どこか懐かしい雰囲気を持っていた。
イリスは胸の前でそっと両手を組み、ぽつりと呟く。
「……私、天才かもしれない。」
ほんとうに小さく。
でもその声は、3人の耳にしっかり届いた。
マルタは即座に涙ぐみながら言った。
「お嬢様は天才です!
昔から何でも器用にこなして……
本当に……尊敬してます……!」
オズは照れ隠しのように頭をかいた。
「ま、天才ってより……
努力して結果出す“本物”ってやつだな。
言っとくが、褒めてるんだぞ。」
イリスは少し頬を赤くし、珍しく素直に微笑んだ。
その横で――
ラガだけが、黙って村を見つめていた。
まっすぐに整備された道、
家々の柔らかな灯り、
不思議と暖かい空気。
そして村の中心に立つ、泥だらけのイリス。
(…………すげぇじゃねぇか、こんなの。)
胸の奥が、言葉にならないものでぎゅっと締めつけられる。
尊敬とも、焦燥とも、別のなにかとも言えない感情。
ただ一つだけ思う。
――裏切りたくねぇ。
アスファルトの道に、夕陽が反射して光った。
イリスの村は、今日ついに“完成”した。
だれも住んでいないはずなのに、
どこか賑やかに感じられるほどに。
――ここから、すべてが始まるのだった。




