インフラ整備は突然に
翌日。
朝日が昇る前のまだ薄暗い村に、
ガラガラと荷車を引く音が響いた。
イリスだった。
後ろには、山ほどの残土と石材。そして謎の鉄くず。
オズは寝ぼけ顔のまま、
「……なんだその量……」
とつぶやいた。
イリスは胸を張る。
「手配したのよ!
さぁこれから――インフラ整備を始めまーす!」
「インフラ?」
オズが眉をひそめる。
「なんだそれ。」
「今、私が考えた言葉よ!
とりあえず最初は街灯ね。村を照らすわよ!」
ラガがぼそりと突っ込む。
「村人一人もいねーじゃん。」
「うるさいわね。
未来のために準備するのが偉い人の仕事なの!」
そう言うとイリスは、残土置き場から拾ってきた石をひょいと掲げた。
「よし、この石とこの石を混ぜて……はい造作開始!」
オズが慌てて前に出る。
「いやいやいや、どう見てもただの石じゃ――」
「黙りなさい!
石っていうのは“相性”があるのよ。
ほら、この灰泥を入れて……砂を混ぜて……反光石を少し……」
イリスは材料をぽいぽい放り込み、
足でザッザッと混ぜはじめた。
「おい!?
足で混ぜるのは違うだろ!!」
「いいのよ。造作は“感覚”。」
真顔で言い切るイリス。
ラガはため息をついた。
「お前ほんっと雑だよな……」
「雑じゃないわよ。
考えて比べて試して……はい固まった!」
バンッ!
型を叩くと、
どろどろだった泥が、
いつのまにか“柱”として立ち上がっていた。
オズの目が限界まで開く。
「……は?」
「さぁ次は火の石。」
イリスは火の石の欠片をつまみ、
柱の上部にカチッとはめ込む。
ぼうっ。
橙色の光が溢れ、
周囲の壁やアスファルトの地面までふわっと明るく染まった。
ラガが思わず呟く。
「……なんか、道まで光って見えるんだけど。」
イリスは指を左右に振る。
「アスファルトはね、熱と光で表面が少し反射するの。
火の石の光と相性がいいのよ。
だから地面が明るくなるの。」
オズは苦笑混じりに腕を組んだ。
「アスファルトって暗くて仕方ねぇはずなのに……
イリスが造作するとこうなるのか。」
「当然でしょ!
“村は黒くて暗い”なんて時代遅れよ。
これからは明るいアスファルトの時代!!
アスファルト最高!!!」
ラガはささやく。
「そんな時代来ねぇだろ……」
イリスは聞こえないふりをした。
オズがぽつりと呟く。
「……しかしよ、街灯だけあっても、照らす村人いねぇけどな。」
イリスはハッとし、
なぜか眩しいほどの笑顔になった。
「そこはこれからよ!
光があれば人は集まるの。
……村ってそういうものじゃない?」
ラガとオズは思った。
(いや……お前が言うと妙に説得力あるのが腹立つ……)
――こうして、
“村人ゼロの村に街灯だけが早朝からキラキラ輝く”
謎の光景が完成した。




