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処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
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狂人令嬢の王都デート

王都の大通りは、昼の光に満ちていた。

露店が並び、焼き菓子の匂いが風に乗って漂う。

商人たちの威勢のいい声、子どもの笑い声。


その喧騒の中――

イリスはラガの腕をしっかりと組んだまま、機嫌よく歩いていた。


「わぁ、見てラガ!新鮮な野菜市よ!」


ラガは顔を赤くしながらそっぽを向く。


「……離せよ……目立つだろ……」


「逃げるかもしれない人の腕を離せるわけないじゃない。」


にっこり微笑むイリス。

それだけで周囲の商人が思わず見惚れるほどの美貌だった。


市場の中央には山積みの野菜。

イリスの視線が止まる。


「ねぇラガ、想像してみて?

 わたしが作ったジャガイモがもう少ししたら、

 ここに並ぶと思うのよ。素敵じゃない?」


ラガはぽかんとした。


「……お前ってさ、なにしたいの?

 普通の貴族って茶飲んで、庶民を見下して……

 それが“貴族らしさ”なんだろ?

 なんでお前はそうじゃねぇんだよ。」


イリスは足を止め、空を見上げるように微笑んだ。


「さぁ?私にもよくわからないの。

 でも――上であぐらをかく人にはなりたくないのよね。」


ラガは眉をひそめた。


「は?」


イリスは市場のざわめきを聞きながら、

静かに続けた。


「だって死んだらみんな平等じゃない?

 身分も、財産も、功績も、

 全部置いていくのよ。」


その言葉に、後ろからついてきていたオズは思わず足を止めた。


(……お、おい……

 それ、貴族が言っていい台詞か?)


イリスは振り返り、ぱんと手を叩く。


「質問に答えたんだし、何か美味しいもの食べましょ!」


ラガはむくれたまま。


「いや、別に……腹は減ってねぇし……」


イリスは顔を近づけ、にやりと笑った。


「おいっ、奴隷!!

 何が食べたい!?言ってみろ!!

 ご主人様が食わせてやる!!」


自分で言ってから――

イリスは腹を抱えて爆笑し始めた。


「ふふっ、ははは!!

 “ご主人様が食わせてやる”って何よこれ!

 わたし何言ってるの!最高にダサいじゃない!」


ラガは真っ赤になりながら怒鳴る。


「だっ、だからその奴隷扱いやめろっての!!

 どこで誰に聞かれるかわかんねぇだろ!!」


イリスは笑いながらラガの腕をさらに強く組んだ。


「さ、ラガ。

 今日は逃げても良いわよ?でも絶対捕まえるから覚悟してね?」


「いや逃げねぇって言ってんだろ!!!」


市場の真ん中で、

イリスの笑い声が響き渡った。


平和で、賑やかで、少しだけ恋の匂いがする――

そんな“狂人令嬢の王都デート”だった。



夜の鐘が鳴り終わり、

寮は静けさと古い匂いに包まれていた。


そんな中――


「イリスみた」


ガレスの低い声が、唐突に闇を裂く。


「はぁ!?どこでっすか!!」


上段のベッドから、ガルドが跳ね起きた。

毛布がぶっ飛び、リオンに直撃する。


「いてっ……なに!?」


ガルドは身を乗り出し、目をギラギラさせていた。


ガレスは淡々と続ける。


「たまたま通ったら、露店のあたりで――

 男と腕を組んで楽しそうに笑っ――」


「おいっ!!!」

「やめろガレス!!」


リオンとガルドが同時に叫んで遮った。


――が、ガルドの方は声が震えていた。


「ま……待て……男?

 腕?

 楽しそう?

 ……え?誰?誰だよそいつ!?関係は!?ねぇ!!」


リオンが小声で呟く。


「めんどくせぇ……」


しかしガルドは止まらない。


「だから最近顔見せねぇのか!?

 あのイリスが男……?

 いやいやいや数ヶ月で男できるか!?

 いやできるよな!?アイツ美人すぎるし!?

 あーもう無理!行く!!本人に確認してくる!!」


飛び出そうとしたガルドを、

リオンが首根っこ掴んで引き戻す。


「アホか!?夜間外出は禁止!!

 お前はまだ新人だって言ってんだろ!」


「でも!!

 でもいまアイツが他の男と居るって考えると!!

 胸のここが!こう!!むしゃくしゃして!!

 あ”ーーーーーーーっ!!!!」


胸を抑えながら叫ぶガルド。

その様子を見て、ガレスがぽつりと言った。


「日焼けしていて、一段と美人になっていた。」


「てめぇは黙ってろ!!!」

リオンがすかさず怒鳴る。


ガルドは床をごろごろ転がりながら叫び続けた。


「あ”ーーーーーっ!!!!

 だれだよ!俺のイリスと腕組んだやつは!!!

 俺だってさ!!!俺だってさ!!!!

 腕組んでキャッキャウフフして歩きてーよ!!!

 あ”ーーーーーーっ!!!」


そして最後には――


「…まさかその男の事…

 イリスは好き……なのか……?」


と、小さくつぶやき、

自分で自分の口を両手でふさいだ。


次の瞬間。


「あ”ーーーーーーーーーーー!!!」


ガルドの叫び声は、

第七寮全体に響き渡った。


その夜、

同じ寮の人たちは誰も眠れなかったという。

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