無価値ほど、面白い
王都の外壁が見え始めたころ、
イリスは馬車の窓を押し開け、冷たい風を胸いっぱいに吸い込んだ。
金の髪が陽を受けてきらりと光る。
「――久しぶりね、王都」
横で膝を抱えていたラガは、むすっとそっぽを向いたままだ。
「……なんで俺まで連れて来られてんだよ。
あの二人はどこ行ったんだよ」
「さぁ?」
イリスは涼しい顔で肩を竦める。
「それより、王都を手錠で歩くのはやめましょう?」
そう言うと、イリスは当然のように腕を差し出した。
「はい、腕」
「……なんだよ」
「腕組んで? 逃げられたら困るもの」
「くそ……!」
ぶつぶつ文句を言いながら、ラガはその腕を取った。
手錠の重さよりずっと近い距離に、心臓が跳ねる。
それをごまかすように、ラガは窓の外に視線を逸らした。
イリスは満足げに微笑んだまま、
王都の喧騒を抜け、ひっそりとした裏道へ歩み出す。
辿り着いたのは、
大きな外壁に囲まれた、荒れ果てた――残土残石置き場。
「久しぶりね。……懐かしいわ」
イリスは石の山に手を添え、ゆっくりと深呼吸した。
ラガは無言のまま、その背中を追う。
イリスは足元に転がった石を拾い、
ひらりとラガの手のひらへ転がした。
「これ……ただの石じゃねぇのか」
「そう思うでしょ?」
イリスはその石を撫でながら微笑む。
「ここは私が買い取った“宝の山”。
無価値に見えるものが、一番面白いのよ」
ふっと風が止まった。
イリスはラガの手を包み込むように重ね、
その瞳をまっすぐ覗き込んだ。
「磨けば光る。
捨てられる運命でも、拾い上げれば変わる。
……あなたみたいにね」
ラガの心臓が一瞬止まったような気がした。
「な……っ、誰が……!」
顔を真っ赤にしながら、
ラガは言葉を失って固まった。
イリスの微笑みは――
その手に握られた石よりも、どんな宝石よりも眩しかった。




