狂人令嬢、道を作る
陽が昇る前。
霧の残る村の中央で、イリスは棒で地面を指していた。
「ジャガイモも植えたし――次は道路を作るわ!」
鍬を担いだままオズが振り返る。
「はあ? また急に何言ってんだ。」
「道よ。ここから森の入口まで、まっすぐ一本。」
イリスは両手を腰に当てて堂々と宣言した。
「人も荷も、流れを作るの。
道ができれば、風も人も“村に帰ってくる”のよ。」
「……いや、理屈はわかるけどよ、材料どうすんだ。」
「砂と石と灰。それに廃材を砕いて骨にするの。
それを混ぜて叩き締めて、
熱を加えたら――“アスファルト”ができるわ。」
「アス……なんだって?」
オズが眉をしかめる。
「いいから見てなさい。
昔、とある“職人の倉”で見たことがあるの。」
(ホームセンター時代の知識を活かす)
⸻
昼過ぎ、村の広場に資材が山積みになった。
砂をふるいにかける音。
廃瓦を砕く鈍い音。
マルタが額の汗を拭いながら、桶を抱えて駆けてくる。
「お嬢様! 灰が集まりました!」
「よし、混ぜるわよ。」
イリスは大きな桶を叩き、
砂・石・灰・そして“モーモーさんの副産物”を投入した。
「ちょ、待て! またそれ入れるのか!?」
「発酵した有機物は最高の結合材よ。
“腐る”ってね、“形を変えて生まれ直す”ってことなの。」
オズは頭を抱えた。
「……もうなんでもありだな。」
イリスは笑いながら木の棒で混ぜ続ける。
「ほら、見て。熱が出てるでしょう?
これが“命の熱”。土を繋ぐ力なの。」
⸻
夕刻。
風が止まり、空気が張り詰めた。
「いくわよ、叩いて!」
イリスの号令と共に、マルタが槌を振り下ろす。
オズも渋々、木槌を手に取った。
トン、トン、トン――。
乾いた音が村に響く。
三人で交互に地面を打ち鳴らすと、
黒い土が徐々に締まり、滑らかに光りはじめる。
「……おい、これ、王都の街道より平らじゃねぇか。」
オズが思わず呟く。
「当然よ。道はね、“誇りを運ぶ器”なの。」
イリスは微笑んだ。
マルタが頬を紅潮させて叫ぶ。
「お嬢様! もうすぐで終点です!」
イリスは最後の一槌を打ち込むと、
息を吐き、両手を腰に当てて振り返った。
そこには――
陽の光を反射して、黒く輝く一本の道が伸びていた。
村を貫き、森の方へと続いている。
風が吹き抜け、土と灰の匂いが混ざる。
まるで、大地そのものが新しく呼吸を始めたようだった。
「ね? これが“未来へ続く道”よ。」
オズはしばらく黙っていたが、やがて苦笑いを漏らす。
「……ほんと、お前は狂ってるな。」
「褒め言葉として受け取っておくわ。」
マルタが笑いながら拍手した。
モーモーさんが「モー」と鳴き、
その声が、黒く光る道にこだました。




