灰の森に残った誇り
森の火は、夜明け前にようやく静まった。
焦げた風と、湿った土の匂いがまだ残っている。
炎が焼き払った跡には、鉄と灰が混じり、
剣が突き立ったまま、誰にも抜かれることなく沈んでいた。
その中に、ひときわ鮮やかに転がるのは――
王国の紋章を刻んだ鎧。
盗賊のものでも、外敵のものでもない。
かつて“仲間”と呼ばれた者たちの亡骸だった。
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第一王子、セイラン・オルディアは、
馬上からその光景を見下ろしていた。
炎の名残を映す空は灰色で、
風は静かだった。
彼の視線の先――
崩れかけた洞窟の前に、三人の影が並んでいた。
ガレス。リオン。そしてイオリ。
三人とも鎧は砕け、血にまみれていた。
けれど、誰も倒れてはいなかった。
背を預け合い、空を見上げていた。
まるで戦の終わりに、空だけが“証人”として残ったかのように。
セイランは何も言わなかった。
ただ、その場に降り立ち、目を閉じる。
それだけで十分だった。
――理解できた。
何があったのか。
何を賭けて、何を守ったのか。
すべて、彼らの姿が語っていた。
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その後の調査で、すべてが明らかになった。
“王命”を偽り、
北方の街道に罠を仕掛けた者――
それは、ルキウス・ハルベルト公爵。
そして彼に与した複数の貴族たちだった。
己の地位と権威を守るため、
庶民出身の騎士と候補生を“排除”しようとしたのだ。
事件の全貌が王に伝わると、
ルキウスらは即刻処分された。
その名は歴史の帳に消され、
再び語られることはなかった。
だが、あの森に残った誇りだけは――
決して消えることはなかった。
⸻
夜が明けるころ、
風が森を渡っていった。
焼けた枝を撫で、冷たい光を運び、
まるで眠る者たちの魂を送り出すように。
その風の中で、王子セイランは小さく呟いた。
「――君たちの誇りが、この国を正した。」
誰に聞かせるでもなく、
ただ静かに、騎士たちの亡骸へ向けて。
その声は、燃え尽きた空へ溶けていった。
そしてその日、王国はひとつの夜を越えたのだった。




