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処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
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誇りは地に立ち、風が背を押す

――観客席が、ざわめきに包まれていた。

王命による“誇りの試験”は、いよいよ最終段階。

残るは、庶民騎士二人、庶民候補生二人の計四人。


泥まみれの姿で、それでも剣を手放さない彼らの姿に、

誰もが息を呑んでいた。


教官が声を張り上げる。

「準決勝、第一試合――イオリ対ガレス・ヴォルク!!」


鐘が鳴る。

二人は同時に地を蹴った。


イオリの剣は速く、鋭い。

鍛え上げた反応と洞察で、相手の動きを読む。

対するガレスは、一歩も退かない。

重く、確実に、一撃ごとに地を揺らす。


「くっ……!」

イオリの腕に鈍い痛みが走る。

ガレスの一撃を受けるたび、骨が軋む。


(速さじゃ勝てねぇ……なら――)

イオリが一瞬、踏み込む。

だがその瞬間。


「……悪いな。」

低く唸るような声とともに、

ガレスの拳が、横腹にめり込んだ。


イオリは息を呑む間もなく、地に崩れた。


土煙の中で、ガレスが剣を地面に突き立てる。

「お前の目、良かったぜ。

 でも、誇りってのは“地”に立つものだ。」


イオリは苦笑し、泥の中で頷いた。

「……あんたらしい、答えだな。」


審判の声が響く。

「勝者―― ガレス・ヴォルク」



第二試合の幕が上がる。

「リオン・フェイス 対 ガルド!」


観客の間にざわめきが走る。

二人とも庶民、そして――まったく性格が違う。


リオンは軽く息を吐き、髪を耳にかけた。

「お互い、ここまでよく生き残ったね。」

ガルドがニッと笑う。

「当たり前だろ。庶民はな、這いつくばるのが得意なんだよ。」


鐘が鳴る。

次の瞬間、ガルドが地を蹴る。

爆ぜるような勢いで踏み込み、振り下ろす木剣。

リオンはギリギリでかわし、風のように回り込む。


「速ぇな!」

「そっちもね。」


剣と剣がぶつかる。

火花のような音。

だが、リオンの動きは無駄がない。

ガルドの豪腕を紙一重でかわし、確実に、呼吸を奪っていく。


「くそっ、当たれよ!!」

「だから言ったろ。力任せじゃ、届かないって。」


リオンが一歩踏み込み、足払いを仕掛けた。

ガルドの体勢が崩れる――そのまま木剣の切っ先が首元に止まる。


観客席から一斉に歓声。


リオンが剣を引きながら、軽く笑った。

「悪い。君の“真っ直ぐさ”は嫌いじゃないけど、勝ち負けは別だからね。」

ガルドは唇を噛み、そして笑う。

「へっ、まぁいい。あんたになら負けても悔しくねぇよ。」


「勝者――リオン・フェイス!」



そして――決勝。


「ガレス・ヴォルク 対 リオン・フェイス!!」


空気が変わった。

訓練場全体が息を呑む。

王の視線も、そこに注がれていた。


リオンが軽く笑う。

「ようやく、あなたとやれるね。」

「……お前とは、いずれぶつかると思ってた。」

ガレスの声は低く、重かった。


鐘が鳴る。


風が走る。

リオンが一瞬で距離を詰め、喉元を狙う。

ガレスは剣で受け、腕ごと押し返す。


砂が舞う。

リオンの足元が滑る――そのわずかな隙を、

ガレスは見逃さなかった。


拳が振るわれ、空気が裂ける。

リオンは身を捻って避けるが、肩がかすめただけで感覚が消えた。


「重っ……!」

「地は、風を抑える。」


ガレスの剣が地を割る。

リオンはその衝撃を利用し、跳ねるように背後へ回り込んだ。

「風は、地を越える!」

その一撃が、ガレスの肩を浅く裂いた。


観客が息を呑む。

血が、砂に落ちる。


それでも――ガレスは崩れない。

「上等だ。だがな……」


大地が唸る。

ガレスの足元に、ひびが走った。

その一歩が、まるで地そのものを味方につけたように重い。


リオンの剣が弾かれ、体が浮く。

そのまま、腹に一撃。

風が止んだ。


リオンは地に膝をつき、息を吐いた。

「……参った。あんたには敵わない。」


ガレスは剣を背負い、手を差し出す。

「お前の速さは、誰にも真似できねぇ。

 副団長、任せてもいいか?」


リオンが苦笑して手を取る。

「もちろん。俺、風だから。あんたの背を押すのは得意だよ。」


教官が声を張る。

「勝者――ガレス・ヴォルク!」


観客席が割れんばかりの歓声に包まれた。

王が立ち上がり、厳かに宣言する。


「この国の新たなる騎士団をここに認める。

 騎士団総隊長――ガレス・ヴォルク。

 騎士団副隊長――リオン・フェイス。」


地と風が並び立つ。

その光景に、

誰もが“時代が変わった”ことを感じていた。



イオリとガルドは、その背中を見つめながら拳を握った。

泥にまみれた手のひらが震えている。

それは悔しさでも敗北でもない。


――新しい誇りが、生まれたのだ。


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